スフェーン・シークハウンド(24)
目の前で虚無感を撒き散らしながら群がる彼女達には、既に感情もない。それどころか、何かの欠如を示すかのように左胸にポッカリと穴を開けている者さえいて……その姿がいよいよ、痛ましい。
心臓さえも抜かれて、彼女達はどうやって生きているのだろうと考えるが。答えに近い現象を、少し前にヴランヴェルトで遭遇したのにも、俄かに思い至った。そして、自分の予想がどこまでも正しい事を証明するかのような、彼女達の不自然な円形脱毛症と大きな傷痕を認めては……この所業が決して、ブロディ博士の手によるものだけではないという事さえも諒解させられるグリード。
きっと最初から最後まで、生きることに疲れ切っていたのだろう。影で暗躍する者の痕跡を有り有りと物語る、哀れな生ける屍達は襲いかかって来ることもせず、ただ、こちらへ何かに縋るように手を向けて来るだけだった。
そうして彼女達に引導を渡すべく、粛々と順番に火葬を施すが……。手元のクリムゾンもきっと、同じ気持ちなのだろう。確かな感触をグリードの左手に伝えながら、最後の1人に対してまで……しっかりと祈りの言葉を涙声で呟いている。
【グリード、こいつらは……】
「えぇ、ジェームズの予想通りですよ。カケラになれなかった飾り石や、場合によっては適合性がなかった者が……核石を再利用させるための苗床にされたものでしょう。熱暴走を起こした核石は砕け散ってしまうことが多い以上、大きさが十分ではないことが多いのです。故に、そのままの利用は難しいとされるため……宝石の完成品を作りたい場合は、熱暴走を起こしていない核石を用いるのが最良とされます。しかし……」
当然ながら、熱暴走を一度も起こしていない核石など、既に全てを掘り尽くされた現代では、なきに等しい。天空の来訪者がこの地上に舞い降りたとされるのは、遥か昔の話なのだ。その現実さえも、お伽話と一蹴される現状で、状態のいい核石が新たに見つかる可能性は非常に低い。
「彼女達には見た限り、意識は最低限しかなかったと思われます。きっと、適合性を無視した結果……かつてのジェームズと同じように、脳に核石が埋め込まれていたのでしょう。そして、心臓が抜かれている者がいるのは、その命を燃やして体内精製された核石を、収穫された結果だと思います」
「収穫……ですか?」
「以前に同じ性質の鉱石を取り込めば、核石の侵食を抑えることができる……つまり、自我を保つことができると説明しましたね」
「そうでしたね……」
「では……保つべき自我が既にない場合は、どうなりますか?」
グリードの質問があまりに非情だと思ったのだろう。キャロルが驚いたように目を見開いたと同時に、自分の腕の中ではっきりと怯えているのが……今はとても辛い。最高に意地の悪い質問をしているのは、自分でもイヤという程に分かっている。そして……答えを分かっていながらも、キャロルが正答を寄越さない理由も、よく分かる。
自我さえも、最低限の権利さえも。剰え、命さえも奪われている彼女達が鉱石を取り込み続ければ……本来あるべき場所に核石を構築し始めるのは、分かり切ったこと。そう……僅かに残った本能で生き延びようと、体の方は精一杯だったのだ。しかし、そうして自分のために一所懸命作り上げたものを、挙げ句の果てに一方的に刈り取られて。……これを残酷と言わずして、なんと言うのだろう。
非常に後味の悪い気分を引きずりながら、泣き疲れて目を腫らしているキャロルをしっかりと抱え直すと……仕上げのお仕事に出向かなければと、ジェームズにとある人物の捜索をお願いする。その提案にさも当然とライムグリーンの視線を返して、床に鼻を這わせ始めるジェームズ。鎮魂の灰だらけになった床で鼻先を真っ白にしながらも、彼も歩みを止めようとはしない。
こんな事は、もう沢山だ。ジェームズの迷いもない確かな足取りに、そんな意思を感じては……グリードもまた、同じ気持ちで歩みを進めるしかなかった。




