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スフェーン・シークハウンド(17)

【ラウール、オきろ。いつまで、ネテいる!】

「……散歩でしたら、キャロルにお願いできますか? きっと、愛想よく……どこまでも付き合ってくれるでしょうよ」

【そのキャロルがカエってコない。もうそろそろ、3ジカンだ。イクラなんでも、オカシイ!】

「キャロルが……いない? また……どうして?」


 すぐに出かけるつもりらしいジェームズからリードを押しつけられつつも、未だに頭痛が治らないラウール。それでも、涎でややしっとりした革の感覚と一緒に、神経が一気に醒め始めた。そうして一大事とばかりに、大慌てで身支度を整えると、ジェームズに引き摺られるように外へ飛び出す。

 道中のご案内役(ジェームズ)曰く、キャロルは()()()を悼むために献花をしに出かけたらしい。しかし、彼女が出かけたのは昼前。いくら花を見繕うのに時間をかけたとて……帰宅までに3時間もかからないだろう。


【ここがレイのジケンゲンバだが……マチガイない。これはキャロルと……エドゥアールのアタラシいニオイだ】

「エドゥアール……確か、ホージェニーで騒ぎを起こした荒くれ者、でしたね」

【ソレだけじゃないぞ。キノウ、ここでキャブマンをコロしたのも……そいつらしい】

「……そうだったのですね。そう。それで、キャロルはわざわざ献花をしに来たのですか」


 苛立ち紛れに、誰彼構わずに優しくしないでほしいと頼んでみたが。この場合はやっぱり、優しすぎるのは問題なのではなかろうかと、嘆息せずにはいられない。そもそも昨日ハンサムキャブを使ったのは他でもない、ラウールが()()()()()()()、である。それなのに、彼女はその()()()を必要以上に詰ることもせずに……黙って1人で哀悼に出かけてしまうのだから。


【ところで、ラウール】

「どうしましたか、ジェームズ」

【ミセにそいつのニオイがスコシだけ、ノコッテた。キャロルがキノウテアテをシテいたりしたし、ホンのワズカだったから……カノジョにツイテいたニオイだとばかり、オモッテいたが。まさか、キョウ……そいつがミセにキたりしたか?】

「いいえ? でも、そう言えば……」


 ジェームズの質問に、手当てのフレーズに心当たりがあると思い出すラウール。そうして、店に来たのはブロディ博士の方だった事、そして彼の指先には不器用な手当ての痕があった事をジェームズにも告げると……キャロルの状況が危うい事にも気付いて、1人と1匹で顔を見合わせる。もしかして……。


「あれ〜? そこにいらっしゃるのは、モーリス警部補ですか?」

「へっ?」


 しかし、彼らの緊迫した焦燥を打ち砕くかの如く、ラウールの背に甘ったるい声が被さってくる。正体不明の彼女の呼び声に、またも自分が兄と取り違えられているらしい事に煩わしさを感じながらも……彼の知り合いであれば、返事くらいはしなければいけないか。仕方なしに振り向くと開口一発、違いますと拒絶を示してみる。


「……違いますよ。警部補なのは、兄さんの方です。俺は彼の双子の弟ですけど」

「な、なんと! モーリス警部補には弟がいらっしゃるなんて、聞いていましたが! うむむむむ……」

「どうしました? あぁ、すみません。生憎と今は()の散歩中でして。所用もありますし、この辺で失礼しま……」

「ぬは〜ッ! 事件の謎を追っていたらば、最大級のロマンスの予感ですっ! 弟さんのお名前はッ⁉︎」

「ラ、ラウールですけど……」


 すぐに立ち去るつもりが……勢いに圧されてうっかり、名乗ってしまう。それにしても、事件の謎にロマンスの予感とは……? そのお言葉に嫌な予感を募らせながら、夏の暑さのせいだけではなさそうな彼女の鼻息の荒さに……いよいよ、面倒臭いと考える。正直なところ、押しが強いこのテのレディ(夢見がちな淑女)は非常に苦手だ。


「あっ、申し遅れました! 私はシャー……」

「あぁ、自己紹介は結構です。興味もありませんし、覚えるつもりもありません」

「ふがっ! な、何を仰るのです! もしかしたら、将来のお嫁さんかも知れないレディ相手に……」

「……妄想の飛躍も、そこまで行くと立派ですね。申し訳ありませんが、俺は静かで賢い女性が好みです。それに……一応、恋人もおりますので。あなたが俺の将来の()()になる可能性は、微塵もないでしょう」

「えぇ〜! そ、そんなぁ!」


 ただでさえイライラしているところに、暑苦しく()()()()()()は……折角、()()()()()()()頭痛もぶり返しそうではないか。それでなくても、側にいて欲しいと願っていた相手が()()()()()()でいなくなるかも知れない瀬戸際だというのに。

 そうして彼女をあしらうつもりで、勢いで恋人と勝手に嘯いてしまった()()を探しに、ジェームズに道案内を促す。そうされて、ジェームズの方はどこか意地悪い視線を投げ返しながらも、粛々と歩みを進め始めた。

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