表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/823

虚な石座とホワイトドラゴン(2)

 手紙に式の日程と会場の住所を記載してあったのは、きっと彼女は()()()()()()にも参列して欲しかったから。そんな含みを預かった手紙に感じては、仕方なしに弟の代わりに、モーリスはロンバルディアの片田舎・マリトアイネスに足を伸ばしていた。

 モーリス自身も彼女とは顔馴染みだし、何より結婚式に興味津々のソーニャに押し切られての飛び込み参列。とは言え、既に市役所と教会での()()()を済ませた後とあっては、彼らが到着した時点でパーティも大盛り上がりの状態。ジャルティエールはまだのようだが、そこかしこで躍り狂う参加者の姿が見える。


(この手紙を丸ごと預けてきたって事は、ラウールは彼女の事を綺麗さっぱり忘れるつもりなんだろうな……)


 手紙の()()()が同封されていた()()を、彼が気づかないはずもない。それでも、こうして頑なに彼女のお見舞い(キャロルのリクエスト)の方を選んだとなると、ラウールはルヴィアよりもキャロルを優先した、という事になるのだろう。それは暗に、彼がある種のノスタルジアへの拘りを捨てた事を意味していた。


 6月も下旬の穏やかな昼下がり。夏の日差しを予感させる新緑の庭に映える、鮮やかな夕陽色の赤毛の花嫁。シンプルでありながら、彼女の可憐さを際立たせるウェディングドレス姿に、その場の誰もがホゥと、感嘆のため息をつく。

 それは隣で感動したように彼女を見つめているソーニャも同じみたいだが、時折羨ましげに「いいなぁ」と呟かれると、モーリスとしては居心地が悪い。そうしてややバツの悪い気分になっているモーリスに、先方も気づいたらしい。とても嬉しそうな笑みを見せながら、新郎と一緒に主役が挨拶にやってきた。


「あぁ、警部補さん。来てくださったのですね!」

「お久しぶりですね、ルヴィア様。この度はご結婚、本当におめでとうございます。弟も心より祝福いたしますと、申しておりました」

「ありがとうございます。……えぇと、弟さんにも是非にお礼を伝えてくださいますか。素敵な髪飾りをありがとうございました、と」

「まぁ、確かに素敵な髪飾りですけど……もぅ、ラウール様も隅に置けませんね。結婚を控えた花嫁に、抜け駆けでリストドマリアージュを無視した贈り物をするなんて。そんな事をするくらいなら、きちんとお祝いに駆けつけるべきでしょうに」

「……ソーニャ、こんな所でラウールを悪く言わなくてもいいだろう。それはあいつなりの照れ隠しなんだよ。……って、あぁ。失礼しました。新郎さんにも、きちんとご挨拶をしないと、いけませんよね」


 ソーニャの突然の膨れっ面に呆気にとられている新郎を慰めるように、モーリスが細やかにその場を取り繕う。そうしてしっかりとフィアンセだと紹介されて、殊の外、ご機嫌を急上昇させるソーニャ。そんな彼らの様子に、クスクスと嬉しそうに美しい笑みを溢すルヴィアだったが。何やら、新郎としてはゲストの弟の存在があまり気に食わないらしい。ある意味で、()()()()()をモーリスに投げてくる。


「ところで、その……ラウールさん? ですか? ……ルヴィアとは、どういう関係だったのですか?」

「えっ……あぁ。彼女のお祖父様にお仕事をいただいた際に、顔見知りになっただけですよ。弟は宝石鑑定士をしておりまして。アンティーク品の鑑定を依頼されたとかで、しばらくお邪魔していたことがあったみたいですね」

「ふーん……」


 差し障りのないモーリスの作り話に、妬いているの? と新郎に可愛い笑顔を見せては、調子を合わせるルヴィア。可憐な花嫁の笑顔を曇らせてはいけないと、そんなことないさ……と、新郎も陽気に返事をしてみせるものの。間違いなく、彼にとってラウールは面白くない相手なのだろうと、モーリスは思い至る。


(あんなに堂々と他の男の贈り物が花嫁の髪を彩っていたら、それはそれは、気に食わないよなぁ……)


 ラウールは本当に、底意地も趣味も悪い。彼女の赤毛を何よりも美しく際立たせるそのバレッタは、彼なりに趣向を凝らし尽くした物らしい。中央に咲き誇るように鎮座する白薔薇にはエメラルドの葉と、ダイヤモンドの蕾が添えられており……日差しを浴びては、何かを主張するかのように鮮烈な輝きを見せていた。

 モーリスには宝石の価値はよく分からないが、ダイヤモンドの出所自体が年代物のカメオ・アビレだった事を考えても、かなりの値打ち物だろうと思う。選りに選って、花嫁に結婚指輪以外のダイヤモンドを3粒も贈る必要はないだろうに。白薔薇(メインの装飾)相手に、何の意地を張っているのやら。


「結婚式って、本当にいいですわね。私もそのうち、素敵なウェディングドレスを着てみたいですわ」

「……ごめんよ、ソーニャ。それに関しては、もう少し待ってくれるかな。引っ越しの話とかも、ラウールとしないといけないし」

「あら、珍しい。モーリス様が私の()()を覚えていてくださるなんて」


 さも驚いたとばかりに言われてしまうと、ますます肩身が狭い気分にさせられるモーリス。それでも尚、幸せそうな新郎新婦の姿を見つめては……彼女と幸せの時間を共有するのも悪くないと、思い直すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ