空を飛ぶベニトアイト(24)
昼下がりの寸劇のネタばらしにしては、悪趣味が過ぎる。自分でもそのやり口の悪辣さを自嘲しながらも、本当の筋書きを嗅ぎ当てるのは大泥棒の嗅覚……もとい、本能。こればかりは性分なのだから、仕方がない。
そんなことを内心でほくそ笑んでいるラウールの指摘にいよいよ、コリンズは人として逃げることは諦めたらしい。彼がしばらく不気味に笑いを漏らしていたかと思うと、急に立ち上がり始めて……あろう事か、狭い応接室で衝動を振り切り、正体を現し始めた。
「キャロル! 急で申し訳ありませんが、クリムゾンの力を借りてもいいですか⁉︎」
「は、はいッ! もちろんですっ!」
突如出現した緊急事態を前に、敬語が抜けていないとツッコむ事もせず、キャロルがオーダーに素直に応じて、彼の手元に駆け寄る。そして彼の手に触れた瞬間に、自らの身を煌めき纏う一振りの剣へ変じて見せた。
【……お前達は何者……なのダ? そのスガタはイッタイ……⁉︎】
「あぁ、お気になさらず。彼女は俺の助手であり、相棒でしてね。救いを求めているのは、あなただけではありません。生き延びたいと願うのは誰だって、同じなのです。こんなところで食われるのは、ごめんですよ」
【フン! オマエらをクッタところで、ハラのタシにもナらん! タダ……ワタシはドコまでも、このままイキノビテミセヨウジャないか!】
真っ青な姿を持つ、大きな海鳥。しかし、その体を覆うのは柔らかな羽毛ではなく重々と畝る、鱗の波。まるで地平線まで続くかのように錯覚させられるような……どこまでも深い青い色を示す、海神の鱗だった。
そんな荒神は易々と応接間の窓ガラスを翼の一振りで粉微塵に叩き割ると、強烈な風圧を身に纏って逃亡を試みる。雄々しい姿とは裏腹の逃げ腰を見るに、彼はそこまで完成された存在でもないらしい。鳥の姿をしているところを見ても、空からの来訪者の真理にはまだまだ、程遠い様子だ。しかし……。
「あのまま逃すわけにはいきませんよね、これは……。お願いできますか、キャロル」
(……仕方ありませんね。さ、しっかりと手元に集中してください!)
差し障りなく従順な彼女に追跡の選択を一任して、一思いに振り下ろせば。ラウールの手には刹那の煌めきを確かに纏う、堅牢な鎖鞭が鼓動を唸らせる。そうして彼女の熱はしなやかに照準を定め、しっかりと紺碧の怪物の首を捉えると……易々とラウールを小さな乱気流を生み出す背中へ運び去った。
【シツコイヤツらだ! ソンナにフリオとされたいノカ⁉︎】
「あぁ、それはご遠慮願いたいのですけど。すみません、こちらも仕事ですので。このまま、あなたを野放しにはできないのです」
ライフワークと称するには、あまりの急展開だが。この展開を最後まで見抜けなかったのは、自分の落ち度。しかし変身セットは置いてきていても、自分の存在意義を示すもう1つの相棒を忘れるヘマはしていない。
随分と荒々しい趣の空中散歩の合間に着地点を見定めては、待ちくたびれているらしい手元のキャロルに、抜かりなく合図を出すラウール。その合図をしかと受け取ると、彼女は彼女で、持ち前の状況判断力と逃げ足とを発揮しては、きちんと役目を全うし始めた。
(行きますよ、ラウールさん! 3、2……1……!)
「えぇ、いいタイミングです! さて、それでは……Au revoir、ご機嫌よう……後ほど、またお会いしましょう!」
キャロルを巻き込まないよう、彼女が束縛を緩めると同時に……拘束銃を荒神の首に目掛けて撃ち込む。空を制圧せんと、過剰な自意識を醸し出していた怪鳥に不意打ちを与えてやると、自身は眼下に見えていた小高い丘に着地するラウール。いくら核石の硬度があるとは言え、マスクなしでこの高さから落下すれば、かなりの補填が必要になる。だからこそ……少しでも負担を軽くしようと、着地先を入念に見定めていたに過ぎない。
「……さて、大丈夫ですか。キャロル」
「はい、大丈夫です。それにしても……ラウールさんは事あるごとに、私を抱き上げないと気が済まないんですか?」
「おや。力を貸してくれた相棒をしっかり受け止めるのは、そんなにいけない事でしたか?」
やや不服そうな彼女を下ろした後で、左手に握られたままの拘束銃を腰に戻す。しかし……次はショットガンのタイプではなく、近距離用の拘束銃も用意してもらおうかと考えるラウール。やや小ぶりでも威力はある分、暴発もしかねない誰かさんの形見は……応接間などという密閉空間で対象を迷わずに捕捉できるほどの柔軟性は持ち合わせていなかった。




