空を飛ぶベニトアイト(14)
「ところで、漁師さんはウィンターズについて、何かご存知ですか? 実はちょっとした調査をしておりまして……どんな企業なのか、教えて欲しいのですけど」
「あぁ、なるほど。兄さん達は所謂、ジャァナリストってヤツかい?」
「いいえ? 俺達は地勢調査でこちらにお邪魔してまして。先ほどの火山の話も興味深いですが……実はこのニューソルトを含む、ルーシャムの地質と成り立ちについて調べています。それで、ルーシャムの発展にも深く携わっていたらしいウィンターズの情報も集めているのです」
「ほぉ〜! そうか、そうか。お勉強でここに来たのかぁ。そりゃまた、関心な事だねぇ」
お勉強ではなく、お仕事なのだが。しかし、そんな訂正は野暮というものだろう。この様子であれば、目の前の初老の漁師はきっと、 ニューソルト一帯についての情報もかなり持っていそうだ。そんな上機嫌かつ饒舌な相手に変な訂正を入れて、ダンマリさせてみても面白くはない。
「ウィンターズ、ねぇ。ま……俺達のおまんまのタネを提供してくれる大口様だから、あまり悪く言うつもりも無いけどさ。俺自身は正直、あまりいい感じはしないね。特に奥さんの方は、カモメよろしく光り物が好きな奴でね。それも、サルデーネみたいな光り物が好きなら、まだ可愛げがあるんだろうが。……なんでも、大分前に宝石集めに魅入られてから、コリンズさんと喧嘩が絶えなくなったって聞いとるよ。でも、さ。そのコリンズさんもコリンズさんだ。奥さんがそんな金を喰う道楽に走り始めたのは……彼の浮気が原因だっていう、もっぱらの噂だし。おっと、これ以上はいけないよねぇ」
ついうっかり口を滑らせたとでも言うように、大袈裟に戯けて見せては、ガハハとやや下品な笑いを飛ばす漁師。終始ご機嫌な彼に、最後にカラマーリのフリットが美味しい店を聞き出して、これ以上お仕事の邪魔をしてもいけないと、その場を後にする。
キュッとレモンを絞れば、絶品……か。意外と脂っこいジャンクフードが好きなラウール にとって、揚げたてのイカのフリットは少々、気になるお献立だ。特に、ブラックコーヒーのツマミには甘ったるいお菓子よりも断然、塩気のあるスナック類の方が性に合う。
「キャロル。折角ですから、これからの予定と先ほどのお話を整理するついでに、休憩でもいかがです? 俺の方はそろそろ、カフェインが切れそうなので、そちらの補給もしたいのですけど」
「えぇ、構いません。私も是非、カラマーリのフリットを食べてみたいです!」
今朝の失敗から学習したお作法もバッチリ発動させて、キャロルから満点に近い合格点をいただくと……意気揚々と、教えてもらった店の方に足を向けてみる。漁師のご案内によると、先程の話に出てきた灯台近くに位置しているそうで、地元の漁師や住人達がこぞって通うカジュアルで気取らないバールらしい。今回は情報源もしっかりしているし、きっと熱々のコーヒーとフリットを頂けるに違いない。




