空を飛ぶベニトアイト(6)
目の前に広がる青い海に、白い砂浜。季節がいい事もあるのだろう、海岸には海水浴を楽しむ観光客の姿が見える。そんな海水浴にも持ってこいの初夏の日差しを浴びながら……何故か、浜辺のカモメ達とジットリと睨めっこし始めるラウールとキャロル。と、言うのも……。
「あの石は元々……多分、カモメのペリット、ですよね……」
「えぇ、俺もそう思います。キャロルも気付いてくれて、嬉しいです。しかし……そうだったとしても、宝石の出所は海でもないでしょうね。間違いなく、あのベニトアイトの出所はどこかの山です。そうそう。キャロルはベニトアイトがどんな宝石か、ご存知ですか?」
中途半端に取れた角に、付着していた白い粉塵。その食性から、カモメが胃石を積極的に蓄えているかは怪しいが。少なくとも、彼らも光る物が相当にお好きらしい。どこもかしこも煌びやかなこの街に、旅路の途中で立ち寄るのもあり得なくはない。それでなくても、ここは一大観光地。雑食である彼らにとって、繁殖するにも、居着くにも抜群のロケーションだろう。
そんな渡り鳥達の吐瀉物に混じって、何気なく石が吐き出された先がメベラス山脈であったのなら、それはそれで、ただの偶然で片付けてしまっても良いのだろうが。……しかし、そうではないとあの石の輝きははっきりと主張していたのだ。そう、あの特殊な輝きは……。
「ベニトアイトは確か……マルヴェリア王国のムーンベニト山でしか産出されない、希少な宝石だったと思います。ですけど……」
ラウールが1つの結論を急ぐ間に、しっかりとお勉強した事から正答を弾き出すキャロル。どこか威嚇するような目つきのカモメ達に睨まれながらも、彼女の答えに追加の自論を与えてみる。
「えぇ、そうですね。そのムーンベニト山は大規模な天災によって、今は存在しないとされる場所です。消滅した理由は定かではありませんが、あの石の輝きといい、その不可解な消失といい。……俺としては、消失の原因には些か引っかかるものがあります」
「あれは……やっぱりイノセントさんみたいな誰かから、削られてできた……という事でしょうか?」
「1つの可能性に過ぎませんけどね。でも……あの石がもし、所謂核石であったなら、ムーンベニトの消滅にもある程度の筋が通ります。そして、死際にばら撒かれた破片が宿った先が、たまたま通りすがりの渡り鳥だったとするのも、横暴ではないでしょう。核石がきちんと根付くには、それなりに作られた土台が必要ですけれど……超新星の直後にばら撒かれたカケラは熱を宿したまま、無作為に苗床に根付く傾向があるのです。ジェムの完成品を作るのでなければ、宿主は何も……専用に作られた存在でなくても、差し支えありません」
そこまで一方的に呟いて、さもやりきれないとため息をつく。きっと……ベニトアイトの大元の持ち主は間違いなく、今もどこかで苦労している。人間ならともかく、それが渡り鳥だったなら、身に根付いた核石をゴッソリ吐き出すのは不可能に近い。だとすると、宿主はきっと成長を続ける核石を仕方なしに削ぎ落としては、膨張を抑えているのだ。既に1カラット程のベニトアイトを吐き出している時点で、その苦痛と苦悩は相当のものだろう。




