白を染めるブラッディ・ルビー(19)
紅蓮の戒めに喘ぐご主人様に歩み寄る、青い瞳の少女。彼女の瞳には煌々と燃える炎の影が映っては、儚く揺らめく。その影の中に、同胞の悲痛な願いを読み取ると、キャロルは少しずつ戻ってきた意識で、炎の追及者に対話を仕掛ける。
「……アナタは生きタイノデスカ?」
…………………………
「ソウ……マダ生きてイタかったのデスネ?」
…………………………
「でしたら、ワタシと一緒ニ……来ませんカ? 私の中デ、これからもこの世界を見つめては……如何でしょう?」
…………………………
一方的に話しかけるような、独り言としか思えないキャロルの言葉の意味が、グリードには分からない。それでも、彼女は未だにグスタフを思い、助けようとしていることだけは……何となく、分かる気がした。
自分を置き去りにして、自分の存在さえなかったことにして。どこまでも自分を無視して、懇々と進められる同類同士の対話。そしてどうやら、彼女達の対話には1つの終着点が見つかったらしい。何かを納得したかのように突如、グスタフを縛り上げていた血染めの炎が、真っ白なドレスを着せられているキャロルを包み始めた。
「クリムゾン⁉︎ 一体、その子に何をするのです⁉︎ どうして、キャロルを襲うのですか⁉︎」
「……大丈夫です、グリードさん。こうでもしないと……みんな辛いままですもの。だから……私は彼女の気持ちも一緒に、引き継ぐことにしました」
「キャロル? それは、どう言う意味ですか……?」
ようやく向けてもらえた言葉と笑顔に、ひと時の安息を覚えたのも束の間。自らに襲いかかるクリムゾンの全てを受け入れて業火が終息すると同時に、取り戻した意識を再び落とすキャロル。そのよろめく小さな体を、今度こそきちんと受け止めると……脇腹の痛みさえも忘れて、抱き上げる。
自分の腕の中で、微かな吐息を確かに彼女が漏らしているのに安心しつつも、胸元に増えている核石の色を認めると……腹の底から自分の中の何かが、か弱く泣き始めた。これは所謂、痛みというヤツなのだろう。兎にも角にも、こうして彼女が物理的には戻ってきたのだから、今はこのまま逃げ去るに限る。
「……今宵はこれで失礼いたしますよ、グスタフ様。ご心配しなくても、これ以上はあなたの逃げ道を邪魔するつもりもありません。そんな事にはもう、興味もありませんから」
「……らうー……るさま……、この状態で……わたしを、おきざりに……するの、ですか? せめて……」
「それこそ、俺には関係ありません。自分の身1つで道を切り開く努力くらいは、したらどうなのです?」
全身の手酷い火傷と、片腕の消失。そんな状態の相手を放っておくのは間違いなく、悪魔の所業というもの。だが、まだまだ子猫ちゃん気分が抜けないグリードには、この惨状を引き起こしたグスタフに同情するほどの大人の余裕は、未だない。知らぬ存ぜぬを押し通す事を決め込むと……その腕の遺骨の中から、白薔薇の指輪を拾い上げる。戦利品にはあまりにシケていると、鼻を鳴らしながらポケットに収めるものの。これは1つの証明でもあるのだろうと、ちょっとした贈り物に仕立てるのも面白いと考える。失恋も傷心も、喪失も。その全てを忘れたいと……ちっぽけな戦利品を別離の儀式に用いるのも、悪くない。




