表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/823

白を染めるブラッディ・ルビー(16)

 手を取り合って駆け抜ける、純白の廊下。自分の手を引く彼の速度に合わせながら、角を折れ曲がったところで……前を駆けるグスタフの足が止まる。そんな急停止を訝しく思いながら、彼の視線を追ってみれば。そこには純白の空間をただ1点、闇に誘うような黒尽くめの男が立っていた。突如現れた、真っ黒な大泥棒との久しぶりの邂逅に、キャロルの胸がトクンと俄かに縮む。この場はとりあえず……少し様子を見た方がいいだろうか?


「……今夜は予告状はなかったと記憶していますが。それに、私はお前を招待したつもりもありませんよ?」

「おや、今宵は連れない事をおっしゃるのですね? この間はあんなにも、()()()()話に散々、嫌がる相手を付き合わせたクセに」


 あからさまに詰るような、嫌味な口調。こちらを見下すような声色に、思い当たるものがあるのだろう。ハーフマスクの口元をギリリと鳴らしながら、目の前のドミノマスクの怪盗に向き合うグスタフ。前回に遭遇した時は色々と隠蔽していたようだが、今夜はそれすらもしてこなかったらしい。あまりに見覚えのある輪郭に、噛み付くようにグスタフが低く呟く。


「そうですか。そういう事だったのですね……! まさか、あなたが……」

「……それ以上は結構です。今回は俺への正式な()()()()はありませんが、彼女達が動いている時点で、あなたへの捕縛命令も既に出ているでしょう。ですので、俺としては……あなたを見逃すわけにもいかないんですよねぇ。それに、この子(クリムゾン)もあなたに復讐したいと唸っていますし。……どうです? ここで1つ、俺と勝負をしませんか?」

「生憎と、私は非常に多忙なのです。何せ、今のこの城は緊急事態ですから」

「あぁ。その事でしたら、心配には及びませんよ。あの哀れな白竜は先ほど、()()()の手で機能停止させられていますから。今更、この城を放り出して逃げる必要もありません」

「……な、何ですって⁉︎」


 きっとイノセントが説き伏せられる(鎮静化させられる)なんて、思いもしていなかったのだろう。そうして、どこか間抜けな調子で驚きを隠せないグスタフを小馬鹿にしたようにクスクスと笑いながら、肩を竦めて見せるグリード。そのあまりに意地悪なやり口に、静観を決め込んでいたはずのキャロルも居た堪れないと口を挟む。


「すみません、怪盗さん。グスタフ様は色々と、失ってばかりで疲れているのです。叔父様に、お父上。それと……結婚するはずだった花嫁さんも。……大事な人達がいなくなったせいで、寂しい思いを沢山してきたんです。ですから、これ以上……グスタフ様を悲しませないであげてくれませんか。これ以上、グスタフ様から何も取りあげないで欲しいのです。人を不幸にするのが、そんなに楽しいのですか?」

「キャ、キャロル? 俺は別にグスタフ様を不幸にしてやろうとか、何かを奪ってやろうとか、そういう目的で来たのではなくてですね。そもそも、君に……」

「言い訳はいらないです。実際にあなたがルヴィアさんを攫ったせいで、グスタフ様がどれだけ悲しまれた事か。もう……いい加減にしてあげてください」


 きっと助け(自分)を待っていてくれていると思っていた相手からの、あからさまに()()()()拒絶の言葉。今まで追いかけられる事はあっても、追いかけた事はないグリードにとって……キャロルの撥無は過剰な自意識を磨砕されるのに、十分すぎる威力だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ