白を染めるブラッディ・ルビー(11)
真っ白な生き物が力なく蹲る、真っ白な台座。その台座の上から彼女が見つめるのは、自分を削り出して作られた核石を埋め込まれた、哀れな宝石人形達。自分と同じように、白薔薇をあしらった首輪を引き摺られ、放り出されては次から次へと間髪入れずに売り飛ばされていく。泣く事も、抗う事も……最低限の自由さえ、許されず。首に咲き誇る白薔薇の彫刻に、最後の最後にそれぞれの色を乗せて……鮮やかな薔薇と一緒に引き渡されると同時に、卑下た笑みを浮かべる新しいオーナー達。
デモンストレーション……もとい、本物の証明。今宵、人形達の生みの親でもある彼女に与えられた仕事はただ、引き取り手達の購買意欲を高める事のみ。そんな表向きの上品さを被った参加者達を睨みながら、イノセントは昼間に出会った迷い子に思いを馳せていた。
(トクベツジタテ……。ソレはヨウスルニ……)
おそらく……彼女に対しては、表面だけの加工ではなく、内面からの改造をすると言う事か。宝石の美しさを引き出す処理には、エンハンスメントとトリートメントがあるが、グスタフの言う特別仕立てはおそらく……トリートメントの方を示すのだろう。それは要するに彼女の存在そのものを、根底から作り替える事を意味している。だとすると、きっとあの子は……。
(カケラでスラないとイウことか……。ナマミのニンゲンにこのアディショナルをトリツけたら……ショウキをタモツのはムズカシい。グスタフハ……イッタイ、ナニをしようと……シテイルのダロウ……)
しかし、イノセントにもアディショナルの毒が回ってきているのか、彼女は思考さえもがあやふやだ。それでも、この所業を人身売買だと彼を糾弾した小さな正義感を、否定し尽くすこの惨状に憎悪を滾らせぬのは、到底無理な事。幾度となく繰り返されてきた我が子達の身売りは可能であれば、金輪際、今宵限りにしてしまいたい。だとすれば、既に還ることさえ叶わぬ銀河を眺望する夢を……捨て去る時は今なのだろう。
【グスタフハ……ドコにイル……?】
「……おや、イノセント。ここでその名前を口にするのはルール違反です。まぁ、いいでしょう。大丈夫。心配しなくても、私はここにいますよ」
【オマエのルールは、ワタシにはカンケイない。ソレはソウと……。オマエはあと……どのクライ、コンナコトをスれば、キがスムのだ?】
「どの位? ですか、イノセント。フフフ……今宵は随分と、突拍子もない事を聞くのですね。そうですね……。少なくとも、私が死ぬまで、でしょうか。ブランローゼの当主である以上、私にはこの城の者を守る義務があります。その義務を……放棄はできませんから」
【……ソノ、ギムとヤラのタメに……あのコたちをウミダした、と?】
「えぇ、そうですよ。何をこんな所で母性本能を持ち直しているのです。大丈夫ですよ。どうせ、最初から彼女達は消耗品なのですから。今更、あなたが心配する必要などありません」
【ソウ……だな。ワタシは……モウ、シンパイするのにもツカれた。ダカラ……コヨイカギリでオワリにしよう……!】
最後の力を振り絞り、虫の息の理性に自らトドメを刺して。イノセントは全てを終わらせようと、戒めの荊棘さえも振り解く。そうして最後の断末魔を勇猛な宣戦布告に変え、純白の竜へと退化した。その姿は……かつて、この世界に飛来した天空からの来訪者の原初のカタチ。慈悲深くこの大地に恵雨を齎さんと、神の使いとして舞い降りた、純潔の彗星の姿だった。




