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白を染めるブラッディ・ルビー(10)

「……さて。兄さんの有難ーい講釈を頂いたところで……質問ですけど」

「えっと……なんだ?」

「兄さんは……俺に何を隠しているのです?」


 彼に少しばかり()()()()()()を吹っかけて、切り抜けられたと思っていたが。流石に相手は嘘に関しても、百戦錬磨の怪盗紳士。……本題を忘れる事も、モーリスの嘘を見抜く事もやめる気はないらしい。しかも……。


(全く、いつになく縋るような顔をして……。こんな顔をされたら、話してやりたくなるだろうに……)


 いつもの余裕のある不遜な薄笑いではなく、どこか必死な焦りさえ見せる、情けない表情。不安を目一杯乗せた紫の瞳に、どうしてやるのが正解なのか、いよいよ分からなくなる。しかし、彼の不安要素を生んでいる彼女の居所が、面倒な場所(グスタフの懐中)である以上、その後の先行きは不透明だ。

 この状態のラウールに白状してしまえば、満月を待たずとも、向こう側(グリード)が大暴れする事が目に見えていて。場合によってはなりふり構わず、キャロルを強奪(拉致)してきてしまうかも知れない。そこまで考えて……仕方なく、最低限の安心材料くらいは集めようと、モーリスはラウールに更に難しい質問を投げてみることにした。


「ラウールは、もし……キャロルちゃんに会えたとしたら、どうするんだ?」

「やっぱり……隠し事はキャロルについて、だったんですね……。今、キャロルは……」

「それを答える前に、彼女に会ったらどうするか教えてくれ。どうせお前のことだから、キャロルちゃんに会えたとしても……また、何も考えずに傷つけるかも知れないだろう? 大体……どうしてあの子が飛び出したのかさえ、分かっていないのに。そんなお前に、あの子の方が会いたいと望んでいるとは限らないだろう」


 根深く染み付いた自己中心的な傲慢、利己的な思考回路。表向きは義賊で通っている()()()()とて、その()()()はあくまで()()の副産物。純粋に、継父の残した轍と仕事への様式美とを頑なに引き継いだ結果に過ぎない。それは一重に、テオに対する執着と対抗心が生んだ、本能とも言うべき習性でしかなかった。故に、ターゲットが感情を持った()()()()()()()()であった場合に……相手の気持ちを、理性的(機械的)に考えることさえ、出来ないのだろう。そのあからさまな欠如は、感情論以前の問題だった。


「そうそう。以前、ソーニャにヒースフォートで口説かれた時に、こんな事を言われたっけ」

「……口説かれた、って……。兄さん、それ……普通、男女逆じゃありませんか?」

「仕方ないだろう? 間違いなく、あの時は僕の方が()()だったんだから。まぁ、それはさておき……。ソーニャ曰く、相手に気持ちはなくても、自分が好きな相手に抱きしめてもらえれば、彼女達は愛を感じることができるのだそうだ。だけど……僕には、それがとても悲しくてね。きっと、本当は彼女も……不実の愛情じゃなくて、本気の愛情が欲しいのだろうと思えたから。それを……無理しながら、そんな風に言うのだもの。本当に……()()()よな」


 モーリスが言わんとしている事を、やはり理解できないのだろう。()()が明らかにズレ始めたのに、苛立ちを見せる弟の不服を受け流しながら……()()()な弟を宥めるように、モーリスは更に持論を語り続ける。


「多分、彼女はそう思うことで……ようやく、自分の存在意義を見出していたのだろうと思う。消耗品だなんて、言われて。愛玩用だなんて……心ない扱いを受けて。そんな悲惨な状況でも抱きしめてもらえれば、その瞬間だけは優しくしてもらえる……相手は自分に関心を持ってくれている。それが、ただの勘違いだったとしても。それを愛と錯覚することで、きっとソーニャは孤独を埋めようとしたんだろう」

「……兄さん。それ……キャロルの居場所と関係、ありますか?」

「人の話は最後まで聞くものだ。……全く。そんなんだから、キャロルちゃんの気持ちが理解できなかったんだろう? 自分の関心事以外を徹底的に無視する癖はそろそろ、直せよ」

「悪かったですね。どうせ……俺が悪いんです。もう、今更……」

「ここで卑屈になる必要もないだろうに……。まぁ、いい。僕が言いたいのは、感情を持っているのは決して、自分だけではないということ。それと、相手の気持ちはどう頑張っても別物だってこと。そんな全く別の気持ちを持っているのに、自分の気持ち(強欲)ばかりを優先したら、嫌われるのは当然だろう。だから……僕はソーニャにそう言われた時、できるだけ彼女の気持ちを考えることにしたんだよ。背中越しだったとしても、そうして僕の事を好きな相手だと言ってくれたのだから。不実でもなく、嘘でもなく。僕の方もきちんと、気持ちに応えられれば……彼女を本当の愛情で満たしてやれるのかな、と。それこそ、思い上がりの自己満足なのかも知れないけど。それでも僕は決して、君に対して無関心ではないよと、伝えられれば……それでいいと思っている」

「……」

「その上で、もう一度質問だ。ラウールはキャロルちゃんにもう一度出会えたら、どうするつもりなんだ? ……あの子にどんな言葉を伝えるつもりなんだ?」


 モーリスの言葉がラウールのどこまでを()()したのかはまでは、分からない。……それでも。弟がその後、重々しく呟いた回答は……あまりに()()()で、()()()だったけれども。モーリスの口を割らせるのには、しっかりと及第点を叩き出していた。

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