白を染めるブラッディ・ルビー(5)
幾重ものガラスケースの奥底から響いてくる、あまりに悲しい啜り泣く声。その哀切な咽び聲に、モーリスもソーニャも、表面だけは普段通りのラウールでさえも。際限なく、身につまされるものがあった。
「なんて、痛切な悔し泣きなのでしょう……」
「ソーニャには、そんな風に聞こえるのですね。俺には正直……ただ、悲しそうとしか感じられないのですが。そう。……この子は、悔しくて泣いているのですね」
「えぇ、きっとそうですわ。……悔しくて、切なくて……遣る瀬なくて。どうして、こんな事になったのだ……と。私にはそう聞こえますわ」
「あぁ……言われれば言われる程、確かに僕にもそんな風に聞こえてくるかな。……しかし、ラウール。これ、どうするつもりなんだ?」
「……この状態になった核石は下手に砕くと、お仲間を増やす可能性があるので、非常に危険です。それに……宝飾店の方が厳重にお包みになっていたのを見ても、こいつは既に素手で触れない状態なのでしょう」
「素手で……触れない?」
ラウールのやり切れない呟きに、不思議そうに反応するモーリス。そんな婚約者の仲間内の知識不足を埋めるべく、ラウールの代わりにソーニャが彼に答える。
「例え、捨て石だったとしても核石と完全融合し、最終段階を迎えたカケラは熱暴走の状態に入ります。その場合、拘束銃・ジェムトフィアで機能停止した上で核石を砕くのが、来訪者のミニチュアの正しい処分の仕方なのです。ですが当然ながら、そうされたカケラは元に戻る事は叶わず……死を迎える事になります」
「……そうか、そう言う事か。では、この子も……きっと」
「えぇ、そうですよ。……俺達の母さんと同じ様に、熱暴走状態を発動させてしまったのでしょう。……いえ、違いますね。この子はジェムトピースと名乗る傀儡師によって熱暴走を起こされた、と言った方が正しいですか。彼は、熱暴走を起こした彼女達が元に戻れない事も知っていた上で……アディショナルを起動させたのですから」
白尽くめの正義の味方・ジェムトピース。2つ名はいかにも華々しいが、その所業は正義のヒーローを騙るには少々、悪趣味が過ぎている。彼の正体についてはモーリスやソーニャにも話はしてあるが、こちら側でもかなりの顔馴染みである以上……あまり下手に動けないのも、非常に歯痒い。
「何れにしてもこの状態になったからには、きちんと恨みを晴らしてやらない限り、泣き続けるでしょう。丁度1部屋、空いたのですし……処遇を決めるまでは、そちらに放り込んでおきましょ? このままトランクに詰めれば、泣き声もさして気にならないでしょうし」
「……」
丁度1部屋、空いている。そんな事をラウールが強がって言い張っているのは、目にも明らかだ。ある意味で痛ましいラウールの様子に何も言わず、顔を見合わせるモーリスとソーニャ。
(……いつになったら、こっちの泣き声は止むのかな。キャロルちゃんは今、どこにいるのだろう。このままだと……)
ラウールの方が参ってしまう。
いくら強がってみても、いくら気丈なフリをしても。いつも以上に目立つため息に、あれ程までに捨てようとしなかった、コーヒーへの情熱の冷め具合。その上、最近はショック療法の辛口スープさえ、気にしないじゃないか。そんな弟の異常に気づけない程に、モーリスはいつもながらに薄情でも鈍感でもなかった。こんな時は一度、彼の雇い主に相談してみるのがいいのかもしれない。




