白を染めるブラッディ・ルビー(1)
与えられた部屋から見下ろせば、眼下には見事な白薔薇の花園が視界の端まで広がっている。そんな輝きに目を凝らすと、白薔薇の合間を大勢の使用人達が縫うように彷徨っては、手入れをしているらしいのも目に入った。
持ち主のグスタフによると、薔薇は美しい見た目に違わず、非常に手間が掛かる植物らしい。特に白薔薇は病気や虫害に罹ると痕跡がはっきり残ってしまうため、細心の注意が必要なのだそうだ。
(そうよね……。綺麗なものは、ちゃんと手入れをしないと……輝きを維持できないのよね……)
ブランローゼ家に引き取られてから、既に1週間。グスタフは約束通り、キャロルに宝石鑑定士としての勉強をさせてくれるだけではなく、上流階級での振る舞い方も一緒に教え込む事にしたらしい。毎日、お勉強に、お稽古ごとにと……キャロルはある意味で、退屈すらできない程に多忙な日々を過ごしていた。
「キャロル、少しいいかい?」
「あっ、グスタフ様。如何致しましたか?」
「うん。お茶でも一緒にいかが、と思ったのと……今夜の舞踏会について、相談したくてね」
「今夜の舞踏会について……ですか?」
そう言えば……このお城には王様がたまに遊びに来るから、舞踏会を開くのだとお手伝いさんが話していたっけ。今まで無縁だと思っていた、煌びやかな世界が身近にある事が少しだけ、空恐ろしいけれども。主催者でもあり、自分の養父でもあるグスタフの相談ともあれば、きちんとお伺いしなくては。
「フフフ、そんなに畏まらなくていいんだよ。本当に……キャロルちゃんはいつでも、真面目なのだから」
「すみません……何せ、少し前までは……」
「あぁ、そうだよね。モーリス様達は貴族でありながら、華やかな生活は好まないとお伺いしていたし。きっと、キャロルちゃんもごく普通の生活をしてきたのだろう? それにしても、モーリス様もラウール様も……あれだけお祖父様がお誘いをしても、王宮入りしないのだからある意味、勿体ないよね」
テーブルに美しく添えられた茶菓子を頂きながら、そんな事を不可解そうに呟くグスタフの言葉に耳を傾ける。何となく、ソーニャからも話は聞いていたが。特にラウールは貴族嫌いな事でも殊の外、有名だったらしい。
偏屈で、狭量。その上、大抵の事には無関心。それでも……彼がたまに見せてくれる優しさが、嬉しかったのだけれども。それも……今となっては、ただ虚しい。
「そんな事より……実は、今夜はキャロルちゃんにも舞踏会に顔を出して欲しいんだ。僕の可愛い同居人を、みんなに紹介したくてね。どうだろう?」
「私みたいな地味な子供が……そんな所にお邪魔しても……」
「そんな事ないさ。こんなにも可愛くて美しいのだから、もっと自分に自信を持っていいんだよ? それに……僕は君のことを、子供だなんて思っていない。現に、キャロルちゃんは18歳になるのだろう? ……16歳を迎えれば、社交界では立派な淑女だよ。今夜は目一杯おめかしして、是非に参加してくれ給えよ」
子供だと思っていない。どこかの誰かさんの態度とは……真逆の反応に、少しだけ心がフワリと浮かび上がる。
(そっか。私、子供扱いされているのが……イヤだったんだ……)
歳もそんなに離れていない、と最初は言っていたのに。きっと、幼い見た目のせいだろう。彼は結局……終始、キャロルを子供扱いしていたように思える。それは保護者として、ある意味で仕方がなかったのかも知れないが……。その事実が何よりもキャロルを傷つけていた事に、互いに気付くのが遅かったのだ。




