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マリオネッテ・コーネルピン(13)

 自分の足で店を踏み出して、気がつけば……また、あの石橋の上に来てしまっていた。手紙はさっき、ポストに出したばかり。それでも、まだ日が昇らないうちにこっそり出てきてしまったとあっては、店に戻る事も憚られる。


(……勢いで飛び出してきちゃった……。お約束の日まで、この辺りでどこかに泊めてもらおうかな……)


 しっかりと支給されていた()()()を詰めた、ちょっと重めの財布。自分のお小遣いを持たされたのが初めてだったキャロルにとって……その重みはどこか、色々な事に対する嘘(上辺だけの優しさ)にも思えて、少し辛い。


「フフフ……こんなにも早く君と再会できるなんて、思いもしませんでしたよ」

「……って、えっ……?」


 さっき出したばかりの手紙は、届いているはずもないだろうに。それでも、聞き覚えのある声に振り向けば。……そこには、あの日と同じ柔らかな笑顔を見せるグスタフが立っていた。


「その……どうして……?」

「少しばかり、所用がありましてね。……そこのホテルで仕事がてら、滞在していたのです。これはきっと、運命なのでしょう。今朝は随分と早い時間に目が覚めたと思って、外を見れば……あの日の可愛いレディが、そこにいるではありませんか。それにしても、どうしたのです。こんなに時間に。……また、ラウール様と()()でもしたのですか?」


 昨日のお話し合いは、喧嘩した……という事になるのだろうか。ラウールは確かに怒っていたし、キャロルの提案も最終的には了承を示しはしたが……喧嘩とは少しだけ、違う気がする。それでも、もう一緒に暮らせそうにない事はハッキリと分かり切っていた。


「……喧嘩、なのかもしれません。ちょっと話し合いをして、店を出ていくとお話ししたら……ラウールさんもアッサリ許可してくれました。それで、先ほどグスタフ様宛にお手紙を出したところだったのです……」

「あぁ、そういう事だったのですか。でしたら……早速、君を迎え入れる準備をしないとね。……とにかく、さ。私についておいで。こんな所で話し込んでいたら、可憐なレディに風邪を引かせてしまう」


 どこまでも、優しく。どこまでも、優雅に。柔らかい雰囲気を纏いながら、恭しく差し伸べられた手を取り……とうとう、キャロルはグスタフの元に身を寄せる決意をする。きっと、ラウールのことは忘れられないだろう。だけど、そんな彼が見せてくれた夢は間違いなく、気まぐれの産物だったのだ。だからそろそろ……甘い夢から目覚めるべきなのだと、キャロルは底抜けに悲しい覚悟を人知れずし始めていた。


***

 仕事、というのは他でもない。……とある、()()()()()をしていただけだ。

 白薔薇庭園を維持するには、それなりの労働力と経費がかかる。ブランローゼ家の薔薇園は名家の証でもあり、名誉でもあった。しかし、薔薇はただ咲き誇るだけで、それを維持する側には労力と財力を要求するのみ。今となっては、そんな薔薇園を捨てることもできるのだろうが。自分の代で失ったとなってはそれこそ、贈り主でもある王家に自身(グスタフ)が失望されかねない。きっと、ブランネル公は「仕方がないのぅ」とか言いつつ、軽々しく許してくれるだろう。しかし、現国王・マティウスがブランローゼでの茶会や舞踏会を楽しみにしている以上、それを放棄するのは、名家の威信を放棄するのと同義であった。


(……キャロルちゃんは別仕立てにする事にして……次は、イノセントを稼働させましょうか)


 デモンストレーションには当然ながら、それなりのインパクトが必要だ。未だに地下に漠然と広がる、大きな大きな闇市場。父親が遺した膨大なコレクション(宝石人形)と、それすらを生み出す禁忌の技術は、仄暗い市場において財を成すにしても、興を満たすにしても。絶大な効果を発揮していた。

 人であって人ではない者を生み出すことが反道徳的だと、分かっていても……その感覚さえ、既に麻痺し始めている。それほどまでに……名家にただ1人残された跡取りもまた、強要された境遇の中で救いを求めて、喘いでいるに過ぎなかった。

【おまけ・コーネルピンについて】

多色性(見る角度によって色が変わる)を持つ宝石であり、特にエメラルドのような鮮やかなグリーンを示すものは価値が高いとされます。

モース硬度は約7。石言葉は「自立心」など。

発見者の名に因んで名付けられたという珍しい宝石で、加工によってはシャトヤンシー効果を発現することもあります。

その希少性から流通量も少ないため、コレクション用として認識されることが殆どですが……。

硬度もしっかりあることから、普段使いにも適しているとされ、徐々に人気が出ている宝石でもあるようです。

ブルーやグリーンを示すものが有名ですが、深いブラウンを持つものもあり、カラーバリエーションの多さも魅力の1つなのかも知れません。


【参考作品】

特になしであります。

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