マリオネッテ・コーネルピン(9)
(せめて、コーヒー代くらいは工面しなければ……)
財布も取り上げられ、仕方なしに道の端でトランクを開けては、売れそうなものがないかと持ち物を物色し始めるラウール。ホワイトムッシュから受け取った報酬さえも、財布ごと強奪されてしまったため、手持ちのものを換金しない限り、恋い焦がれて止まないコーヒーがお預けになってしまう。
(えぇと……手持ちのルースをどれか売ればいいでしょうか……。と、すると……)
とりあえず……まずは換金のために、古物商が軒を連ねる中央街まで足を伸ばすか。そんな事を考えながら、ルースケースを何の気なしに開けると、色とりどりのルースにあって、いつもならあまり目に留めないはずの茶色の宝石がこちらを見返していた。ブラウン・コーネルピン。紛れもないレアストーンではあるが、人気のある色味ではないため……茶色い物はあまり流通ルートもなく、大した金額では売れないだろう。何より……。
(コーネルピンを手放すのは、ナシですね……)
茶色の穏やかな輝きに、いつかの自分の窮地を共に戦い抜いた勇ましい姿を思い出す。一緒に一夜限りのヴォーパルの剣を気取った相棒を手放すのは、あり得ない。そこまでため息まじりで考えると、ルースケースの中でも殊更自己主張している、取っておきのスタールビーを手放す事を決める。今の手持ちの中で最も価値がある宝石なのだから、コーヒー代と足代くらいはしっかり捻出してくれる事だろう。
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「……これはまた、素晴らしい石ですね。しかし、お客様。これを一体……どこで?」
「出所の詮索はしないでいただけませんか。あぁ、ご安心を。こいつは盗品ではありませんよ。……先ほど、運悪く財布を落としてしまいましてね。それで、手持ちのルースから仕方なしに、お譲りしようと思っただけです。一応、俺自身は宝飾関連の仕事をしておりまして……」
この周辺で最も高値で買い取ってくれるであろう、いつかのハースト・グループの宝飾店にスタールビーを持ち込んだものの。買取カウンターであらぬ疑いを掛けられたものだから、仕方なしに宝石鑑定士である事を説明するラウール。ルース自体は仕事用にと、ムッシュから提供があったものだが。……この際、背に腹は変えられない。
「……失礼いたしました。えぇと……それでは、銀貨15枚でいかがですか?」
「あぁ、それで結構です。あ、そうだ。……ついでにこの場で、鑑別書も発行した方がいいですか?」
「いえ、大丈夫です。鑑別書は手前共でも準備できますし。しかし……今日は何て、幸運な日なのでしょう。こんなにも美しい宝石を、もう1つ所収できるなんて」
「おや、俺以外にも……宝石を売りに来たお客様がいたのですか?」
目の前の同業者が頬を赤らめて話し出すのを聞くに、この店にとっては相当の収穫があったようだ。その話に耳を傾ければ、そちらの紳士はルビーとエメラルドを持ち込んだという。
「残念ながらエメラルドの方は砕けてしまったとかで、ボタンカットにするしかなさそうなのですけど……ルビーの方は見た事もない大きさでしてね。……折角です。宝石鑑定士のお客様にも、お見せしましょうか?」
「えぇ……是非、拝見したいですね。お願いできますか?」
提示された額面を受け取りながら、その組み合わせの一致に、またも嫌な予感を募らせるラウール。妙な胸騒ぎを努めて、諌めながら待っていると……先ほどの愛想のいい男が、恭しく何かを乗せたトレイを持ち帰ってくる。深いネイビー色のトレイの上に鎮座していたのは、拳大ほどもある、あり得ない大きさのルビー。あまりに生々しい大きさの輝きは、ハッキリと最上級のピジョン・ブラッドの色味を示していた。




