マリオネッテ・コーネルピン(7)
どのくらい、歩いてきてしまったのだろう。あたりを見渡せば、いつの間にかロンバルディアの中央街まで出てしまっている事に気がつく。そんな散歩道の古びた石橋で眼下の流れを見つめながら、深くため息をつくキャロル。少しは気晴らしになるかと、出かけてきたはいいが。……気が晴れるどころか、ますます落ち込んでいくから不思議だ。しかも……。
(ゔ、お腹空いたかも……)
朝は寝坊をしてしまったこともあり、スープしか頂けなかったことを今更、思い出す。昔に比べれば、スープでさえありがたいのだが……慣れというのは、恐ろしいもの。ラウールに連れられてから、きちんと食べられる事が当たり前になっているキャロルには、スープ一杯は満足な食事には及ばなくなっているらしい。
(やっぱり、私……昔よりもワガママになったんだな……)
コーネにいた頃は衣服が足りないのはもちろん、食事はよくて1日2食……しかも、スープは口にできる事の方が少なかった。サファイアがそれなりに、キャロルの食事を優先してくれてはいたが。分母が少なければ、優先もへったくれもない。
「もし……キャロルちゃんではありませんか? ……どうしたのです、こんな所で」
「えっ……?」
橋の上で涙を堪えているキャロルの背に、聞き覚えがあるような、ないような。そんなすぐに誰か分からないけれども、相手は自分を見知っているらしい声が掛けられる。その声に振り向けば、白い馬4頭立ての立派な馬車の窓から、あのグスタフが柔らかな笑顔を出していた。
「あ……えっと。こんにちは、グスタフ様」
「フフフ、こんにちは。どうしました。……今日は、お1人なのですか?」
お1人なのですか?
何気なくも、孤独を強調するような言葉に……ついに堪え切れず、涙を流し始めるキャロル。そんな彼女の様子に、どこか面白そうな表情をしながら、グスタフが御者に声をかけつつ馬車から降りてくる。
「あぁ、少し待っていてくれ給えよ。この小さなレディに風邪を引かせたら、大変だ。どうしたのです、キャロルちゃん。ラウール様は……ご一緒ではないのですか?」
「はい……ちょっと、喧嘩しちゃったものですから……」
「おや、それはいけない。……あぁ、可哀想に。こんなにも手が冷たいではありませんか。……どうです? お体を温める意味でも、良ければこの後、私とお茶をご一緒いただけませんか?」
「お茶……ですか?」
「えぇ。こんな所でお会いしたのも、何かの縁でしょう。ほら、よろしければこちらにどうぞ? 心配しなくても、きちんと送迎は致しますから」
いつぞやの宝飾店で出会った時は得体が知れなくて、気味の悪い相手だと思っていたが。本来の保護者にさえ、優しい言葉を貰えなくなったキャロルには……グスタフのお誘いに少しだけ、体の震えが和らぐのが心地よく感じられた。




