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マリオネッテ・コーネルピン(3)

「ところで、ジェムトピース様。……その子達は、元に戻れるのですか?」

「いいえ? この子達は私の可愛い人形であると同時に、頼りになる武器でもあるのです。元々、使()()()()だったはずだった彼女達を掬い上げて、こうして一花咲かせてやるのが、私は何よりも好きでしてね。美しいものは儚く散るからこそ、より強く輝くもの。……フフフ、流石の怪盗紳士様もこの姿には驚かれた事でしょう」

「えぇ、とっても驚きましたよ。まさか、正義のヒーローが……こんなにも素敵(残虐)な事を平気でしでかすとは、思ってもみませんでしたから」


 使い捨て。そのあまりに無慈悲な言葉は要するに……彼女達は元々捨て石、ないしは飾り石であった事を意味しているのだろう。

 女性の試験体は強度を保てないという理由から、大抵は()()()と見なされ、ぞんざいに扱われる事も多い。それでも……そんな()()()を少しでも救うためにも、渋々、グリードはアンティークショップごと()()を先代から引き継いだというのに。それなのに……。


(これは本当に……何の悪い冗談でしょうね。まさか……まだ()()()()()()()()()()とは……!)


 かつて先代のテオが追い詰めた貴族の中には、宝石道楽(宝石人形集め)に明け暮れに明け暮れた、実の兄でもあったジェームズも含まれていた。彼のあまりに非人道的な思想の危険性と、外聞の悪さもあって……ブランネル公はジェームズの王位継承権の剥奪こそしたが、息子可愛さ故に、それ以上の手を上げる事ができなかったらしい。結局、身分を剥奪しても尚、王族直系の貴族・ブランローゼを名乗る事を許してしまっていた。


 ロンバルディアには四大貴族と呼ばれる侯爵家が存在するが、そのうちブランローゼは唯一、ブランネル公と同じ“グラニエラ”のロイヤルネームを名乗る事を許された、名家中の名家。しかし、そんな名家の残り火(グスタフ)現状(狂乱)を見る限り……どうやら彼もまた、性懲りもなく先代と同じ()の上を歩いているらしい。


(さて……どうしましょうかね。流石に、これを使うと足が付きそう(正体がバレそう)ですが……)


 元は飾り石とは言え、今の彼女達の()()は既に限界を振り切れている。であれば、おそらく確実に効果を発揮するであろう拘束銃で機能停止させるのが、互いに安全だろうが……それを使えば、忽ちグリードの立ち位置も危ういものになるだろう。

 拘束銃・ジェムトフィアはブランネル率いるロンバルディアの研究機関が秘密裏に開発した、カケラ達の保護者(インスペクター)側専用の特注品。だから、まだまだ開発数の少ない特注品の所持・利用は限られた者にしか許されておらず……そんな拘束銃を使えば、王家との繋がりを否応なしに露呈する事になる。いくら“彗星探し”のためとは言え、泥棒が王家との繋がりを持っている事が明るみに出るのは、それこそ外聞が非常に悪い。


「ほらほら、どうしました、コソ泥! 逃げてばっかりでは、つまらないではありませんか!」

「おや、泥棒は常に逃げ回るものですよ。……俺はあくまで、至上平和主義の()()()なのですから」


 獰猛な唸り声を上げながら、両腕を振り上げては振り回す2体の怪物。その拳がグリードを捉え損ね、床や壁に大きな凹みを作っていくが。空振りを繰り返すたびに、彼女達の煌々と輝く瞳にもクラックがピシリピシリと刻まれていく。そんな目まぐるしい攻撃を躱す合間に聞こえてくる怨嗟は、理性を消化させた悲鳴にも聞こえるような気がして……同類の身としては、いよいよ辛い。


(仕方ありません。この場合は、やっぱり……!)


 ……逃げるが勝ち。最終手段(ジェムトフィア)を使えない上に、確実に被害者側の彼女達を砕くのも忍びない。それに衝撃に脆いエメラルドはともかく、ルビーを砕くのは一筋縄ではいかないだろう。

 ルビーはサファイアと同じコランダムの仲間であり、硬度も靭性も自分の核石(アレキサンドライト)以上を誇る。そんな難敵を含む()()()()()()()()()相手に、まともに立ち回るのは()()()()というもの。


「今宵は遊び好きなこの泥棒めも、流石に疲れてしまいました。クククク……とは言え、正義のヒーローにまで遊んでいただけて、とても満足ですよ。名残惜しいですが……残念ながら、そろそろ幕引きです。それでは、Au revoir(オウ・フォーヴァー)……ご機嫌よう」

「は? 待て待て、何を言って……」


 いい加減、遊び疲れたと……何気なく返し損ねたおもちゃ(メイス)を取り出し、ジェムトピースのゴーグル目掛けて投げてみる。その正確無比な強打に、呆気なく砕け散るゴーグルから、今度は勢いよく何かの煙が噴射し始めた。


「あっ、ちょ……ちょっと何をするのだね、このコソ泥が!」

「フフフ……そんなに怪しいゴーグルなんか、してくる方が悪いのです。暗視ゴーグルはどうしても原動力が必要ですから、動力を断つのが賢いやり方というものでしょう。次からは叩き割られないように、工夫した方がいいですよ」


 逃げの一手に、操り人形の傀儡師そのものの動きを封じるのもまた、スマートなやり方というもので。哀れな2人の人形達がその後、どうなるのかまでは構ってやれないが……今はとにかく()()()()から離れる事が最優先事項だ。何せ、ジェムトピースが握りしめている操り人形の手板(コントローラー)が及ぶ範囲に、中身は彼女達と()()でもある自分が含まれないとは限らないのだから。

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