マリオネッテ・コーネルピン(2)
Jem tor Peace……宝石達の安寧。
妙な偽名に、あちら側の自分に対するライバル心を透かして見ては、面倒なことになったと、ため息をつく。そんなグリードの懸念もどこ吹く風と、一方のジェムトピースは楽しいお喋りに満足げだ。自分のコレクションがいかに素晴らしいかを、自己陶酔も絶頂とばかりに、更なる演説を続けている。
「あのー……いい加減、お暇しても良いですか? 正直に申しまして、興味のない相手の退屈な話は迷惑以外のナニモノでもないのですけど……」
しかし、当然ながらグリードはそこまでお人好しの暇人でもない。その上、3名しかいない聴衆さえも取り込めていないのを肌で感じるに、彼の演説に惹き込まれているのはどう頑張っても、ご本人様のみらしい。
「なっ……! 私のありがたい話に興味を持てないとおっしゃるのか⁉︎」
「えぇ、無理ですね。ヒロイズムもナルシシズムも、供給過多なものですから……呆れる以外に、するべき事が見当たりません」
まだまだ続くよ、どこまでも。
途切れることを知らない言葉に茶々を入れれば、マスクの下の顔が赤らんでいるのも容易に想像できて、遣る瀬ない。そうして、自己愛を真っ向から否定されたジェムトピースは、屈辱と一緒にようやく当初の目的も思い出したらしい。退屈で欠伸をしていた少女達に、グリードの捕獲命令を出し始めた。
「……まぁ、いいでしょう。私もあなたとお話に来たのではありませんし。先程盗みあそばした“舞姫のマラカイト”ごと、マスクと身柄も頂くとしましょうか」
「おや、この泥棒めの身包みを剥がすおつもりですか。正義のロリコン・ヒーローは、追い剥ぎのご趣味もお持ちだったのですね……おぉ、怖い怖い」
「お黙りなさい! ……ったく、本当に先程からいちいち癪に障る……! クリムゾン、そしてエターナル! この不届き極まりないコソ泥を、早急に捕まえてしまいましょう!」
「はい……」
「かしこまりました……」
終始滑稽な調子の割には、そんなマスターの命令に今度は怯えた表情を見せる2人の少女。その様子に……何かを思い出した気がして、今度は気分が悪くなる。
(この様子は、まさか……)
黒光りする拘束具を見た瞬間から、かなり嫌な予感はしていたが。おそらく彼女達の首に巻かれている操り糸はグリードのマスクと同じ原理で作られている、補強装備・アディショナルと見て、間違い無いだろう。
しかし、グリードが着けているものは継父が残したマスク……施された装飾と宝石の性質によって、その効果を一時的に付加するもの……を仕方なしに使っていたが。先代はマスクの上澄みの力を使って、生身の人間では決して敵うはずのないカケラ達相手に奔走していたのだ。そして当然ながら、装備者がその本質自体を発揮できるカケラであれば、上乗せ効果は絶大なものとなる。
(ただ……俺のマスクは所謂、効果が微弱な改良版……。あくまで少し肌に触れる程度の、気休めでしかありません。一方で、彼女達のはおそらく……)
元々、アディショナルは人間達が「天空からの来訪者」の力を取り込むために開発した装具。それは開発当初の研究者達にとってはまさに、夢の第一歩となる画期的な発明だったのだ。
だけれども、いつの世も危ない研究に犠牲はつきもの。画期的だったはずの夢の発明は装備者に絶大な力を与えはしたものの、かなりの深度で対象を侵食する物もあったらしい。その上、侵食が深まれば深まる程……嵌め込まれた宝石側に取り込まれる可能性が高くなり、延いては人としての理性や姿を失う事象が多発したという。結果、結局アディショナルの開発は失敗だったと、とっくの昔になかった事にされていたはずだった。
しかし、目の前の少女達の首に巻かれているのは、まさしくそのアディショナルの原初版。なかった事になっていたはずの研究成果に、煌々と輝く宝玉をそれぞれの少女の首元に装着して、一思いに押し込み始めるジェムトピース。そうしてか細い首を無理やり握り潰されて、まずはクリムゾンの方が悲しそうな呻き声を上げると同時に、真っ赤な肌を顕した異形の怪物に成り果てた。そんな同僚の様子に、いよいよ泣きそうな顔をし始めるエターナルだったが……糸の先を掌握されている以上、抵抗もできないのだろう。正義のヒーローの魔の手に彼女の首も締め上げられると、こちらはこちらで緑色の怪物へと変貌を遂げていた。




