表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/823

紅蓮舞姫とマラカイト(24)

 怪盗が示した、あまりに皮肉な事実。そのやり口(意地悪)にとうとう精も根も尽き果てたと……ウィリアムがその場でガクリと肩を落とす。大泥棒としては、目の前で項垂れ始めた()()()()()の処遇には、興味もないが。去り際のご挨拶をするのも紳士の嗜みだろうと、努めて陽気にお別れの言葉を一方的に述べる。


「さてさて……お喋りな泥棒めは、この辺で失礼いたしますよ。()()()()()()書状は俺の方できちんと、()()()()()()()に提出しておきます。確かにおっしゃる通り、これだけではあなたが()()()あの火事を起こしたという決定的証拠にはならないでしょう。ですので、やりようによってはその座を死守できるかも。とは言え……取締役でいられたとしても、あなたの天下は長く続かないと思いますね。何せ、かなりの儲けを出していたオペラ劇場を、自分の()()()()で灰にしてしまったのですから。それに、あのチョコレートの味は本当にいけません。あれでは、都度盛大な広告を出さない限り、売り上げを維持するのは難しいでしょう。()()()()してくれる看板女優(紅蓮舞姫)を失ったサロメ・ジュ・テームが……顧客のご()顧を維持するには、収益以上の広告費が必要かも知れませんねぇ」

「……!」


 感情に任せて事を運んだ結果の大失敗。演技力がないとは言え、美貌と知名度は抜群だったスーザンは、既にハーストの顔とも言っても、過言ではない程の存在だった。それをウィリアムは手に入らないという理由だけで、稼ぎ頭(事業の主力)の劇場ごと紅蓮舞姫を()()()()()()()しまったのだ。憎たらしい怪盗が指摘するように……考えれば考える程、ハースト社の損失は計り知れないものがある。

 その現実にようやく、事の重大さを理解すると、いよいよ青ざめるウィリアム。そんなどこまでも()()()でしかない哀れな取締役に、最後の最後に……素敵な()()()()を提案してみるグリード。


「では……俺がウィリアム様に見せて差し上げられる()()はここまでです。その顛末は……ククク、あなたの手腕(根回し)と警察の出方(腐敗加減)次第……と言ったところですか? あぁ、そうそう……予告通り“舞姫のマラカイト”は頂いて行きますよ。それでは、皆様……“Bonne nuit(ボンヌ・ニュイ)”、おやすみなさいませ」


 頼りになる奥の手(麻酔銃)を天井に打ち込めば。降り出した雨に打たれて、忽ち深い睡魔に落ちる観客達。結局、舞台の上でも美しく踊れなかったと反省しながらも、呆気なく“舞姫のマラカイト”を懐に収めて、その場を後にする。そんな自分でもよく分からない感情をひた隠すように、少しばかり気取った様子で「()()()()()()()」を嘯く怪盗の去り際を……最後まで見送った者は、ただ1人を除いてはその場にはいなかった。

【おまけ・マラカイトについて】

和名・孔雀石。

モース硬度は約3.5。石言葉は「危険な愛情」など。

非常に美しいグリーンを示す石ですが、古い銅等に発生する緑青の錆と同じ成分の鉱物だったりします。

磨き抜かれたものは宝石と扱われる一方で、銅の二次鉱物(別種として変質したもの)でもあるため、かなりありふれた鉱石でもあります。

染料や顔料としての歴史も古く、クレオパトラがアイシャドーに用いたのは、有名な話でもありますが……。

粉末状のマラカイト(緑青部分の錆)はヒ素を含むことがあるため、正直なところ、その利用法には無理がある気がします。

……クレオパトラさんはそんなものを瞼に塗って、大丈夫だったんでしょうか……。


作中ではその辺りをマラカイト繋がりで「しゅう塩酸」にこじつけて誇張していますが、普通に触れる分にはそこまで怖がる必要はないです。

あ、でも……花火の発色剤に使われていることもあったりするので、扱いに気を配るに越したことはないのかも知れません。


【参考作品】

『市民ケーン』

『サロメ』

『古事記(コノハナノサクヤヒメの出産)』


ROSEBUD(薔薇の蕾)は幸せな記憶の遺言なのかも知れません。

尚、ハースト社は実在する企業であり、ケーンのモデルになった新聞王も実在の人物でありますです。

(この小説との因果関係は一切ありません)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ