表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/823

紅蓮舞姫とマラカイト(23)

 軽はずみで口を滑らせたとは言え……まだその程度の世間話(証拠)では決め手に欠けるだろうと判断し、少しだけ平静さと横柄さを取り戻しては、招かれざる客に対峙するウィリアム。やや()()()声からするに、目の前の怪盗は軽やかな身のこなしの割には、意外と年寄りなのかもしれない。そんな事を考えながら、ウィリアムは警備を手薄にした事を後悔するものの。オークションの主催者として……最大限の権威を発揮する事で、その場を凌ごうと考える。


「フン! 泥棒如きが俺を蹴落とそうなど、100年早いわ! 書状の内容とて、別に他意があって指定したものではない。ただ、衣装を完成させるのにマラカイトが足りなかったから、仕方なしに象嵌師に依頼しただけのものだ! とにかく、怪盗紳士様には即刻、ご退場願おう! 大事な商品を目の前でみすみす、盗まれるわけにはいかん!」

「おや、残念ですねぇ……。折角、もう1つ面白い話をして差し上げようかと、思っていましたのに」

「お前の話は甚だ、不愉快だ! サッサとこいつを摘み出せ!」


 警備は手薄とは言え、オークションではちょっとした()()()は常について回るもの。普段の警備員だけでも、()()()()()()相手であれば事足りると……ウィリアムは早々に攻撃命令を出す。


「どうせ、今まで散々悪さをしてきた犯罪者だ。何なら、殺してしまっても構わん!」

「ハッ!」

「あぁ……これだから、品のない()()はいけませんねぇ。こんなにお客様もいらっしゃると言うのに……流れ弾が他の方に当たったら、どうするのです……」


 銃口を向けられても、さして慌てもせずに……2通の大事な書状を胸元に仕舞い込むと、大仰にお手上げポーズをして見せるグリード。そんな事をしているうちに、いよいよ銃声が鳴り響き始めるが……はてさて、これは何の()()だろう? あろう事か、得体の知れない怪盗は手に握られたままの木製のメイスで、器用に全ての銃弾を撃ち落として見せた。


「……! お、お前……一体、何者なんだ……?」

「自己紹介は済ませておりましたでしょ? ……俺はどこまでも、欲張りなだけの大泥棒です。ただ、ひたすら……それだけの存在でしかありません。しかし、ウィリアム様も欲を出したばかりに……本当に馬鹿な事を致しましたね。こんな事をせずとも、もう少し待っていれば……取締役の席は本当にあなたのものだったのに」

「は? それは……どう言う意味だ?」

「あぁ、ご存知なかったので? 弟のランディ氏は随分前から、あなたにその席を譲ろうとしていたみたいですよ? 多分、彼の一存だけで事が進んでいれば……あなたはとっくにハーストのトップだったはずです。不躾ながら、マラカイトの出所を探るついでに、色々と調べさせていただきましてね。そもそも、ハースト・グループ内の()()()()はウィリアム対、ランディ……ではなく、ウィリアム対、役員だったのでしょ? だから……ランディ氏は障害となる役員達を説得しては、自身がトップから降りる準備を着々と進めていたようですよ?」

「嘘……だろう? あいつが、俺に……席を譲ろうとしていただとッ⁉︎ そんな、バカな!」

「嘘じゃありません。そうそう……こっちは()取締役室の金庫から、失敬してきました。ほら……ここ。弟さんが集めて回った、役員達の署名がズラリと並んでいますよ」


 先ほど意地悪くチラつかせていた書状とは別の、更に重々しい雰囲気の書面を取り出すグリード。その書状をウィリアムに突きつけるように……さも、愉快そうに彼の顔の前に差し出す。


「多分、あなたの大き過ぎる野心を先代のケーネ・ハースト氏はとっくに見抜いていたのでしょう。だからこそ、彼はあなたではなく、弟さんを取締役に指定したのです。だけど……弟さんはあなたの横暴が自分の恋人に向き始めたのにも、しっかり気づいていました。だから、本当は……()()()する前に、身を引くつもりだったのですよ」


 忍び込んだハースト本社で小耳に挟んだ情報を元に、事実確認に足を運んでみれば。そこには甲斐甲斐しく、スーザンを見舞うランディの姿があった。彼らがどんな話をしているのかは、窓の外からは決して窺い知ることはできない。それでも、ランディの少しだけ寂しそうな笑顔は……傷心のあちら側(ラウール)の目にはあまりに、理解したくもないものでしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ