紅蓮舞姫とマラカイト(18)
「あぁ、それと……劇場の設備について、少し不審な事があったから一応、伝えておくよ。スーザンさんがあの衣装を着ると決まってから、色々と照明器具と緞帳に手が入っていたのが分かってね。多分、その辺りはラウールの予想通りだと思うけど……」
ハースト・グループの内部の泥沼を想像しては、苦々しい気分に浸っているラウールを慰めるかのうように、モーリスが調査報告を続けている。興味が“舞姫のマラカイト ”に移っているラウールにとって、事件の真相は既に興味の範疇外に追いやられていたが……折角調べてきてくれたのだから、耳を傾けるのは最低限のマナーだと、やや薄情に思い直す。
「不審な点……ですか?」
「あぁ。スーザンさんの衣装がどんな物か、ラウールも知っていると思うけど……舞台衣装っていうのは、なかなかに寒そうだよな。衣装自体は毛織物でできているとは言え、あれだけ肩や背中が大胆に露出しているとなれば、いくら室内でも凍えてしまうよ。そんな衣装を着せたばっかりに、大事な主演女優に風邪をひかれては大変だと、劇場側としては持ち主の意向もあって防寒仕様に設備を変更した、ということだったのだけど」
「ま、その大事な主演女優は大根役者もいいところでしたが」
「……今、それは問題にするべき事じゃないと思うが……。まぁ、それはともかく。スーザンさんの体を温める配慮という名目で……緞帳の枚数が倍になっていた上に、スポットライトの位置が軒並み下がっていた。しかも主役の立ち位置のスポットライトは倍に増えていて……これではどんな寒がりさんでも、文句なしにヌクヌクだろう」
「なるほど。保温性を高めた上に、それだけのスポットライトを浴びれば……舞台の上はさぞ暖かった事でしょう。しかし……そんな舞台の上で発火剤込みの帯電性の高い毛織物を着込んだら、きっと暖かいどころじゃ済まなくなる。その結果が先日の大炎上、というわけですか」
事件の真相には興味ないと、思いつつ。自分の予想が正しい事を証明するのは、気分がいい。そこまで考えると、とある青年貴族のせいで乗り気ではなかったオークションへの飛び込み参加をしてみるのも一興かと思いつく。本当はオークションが終わった後に、新しい持ち主から盗み出してもいいだろうかと考えていたが。
(ククク……面白くなってきました。やっぱり、盗み出すからには……皆様と遊ばせて頂かないと)
きっとオークション会場にはハースト・グループの関係者が入り込んでいるだろうし、場合によってはマラカイトの現持ち主も居合わせているかもしれない。余興のついでに、ちょっとした意地悪をするのもまた……大泥棒の横暴だと、クスクスと意地悪く笑い始めるラウール。そんな弟の悪巧みに目ざとく気づいては結局、どんな説教も弟には無意味なのだと、一方で自身の無駄骨を悟るモーリスであった。




