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紅蓮舞姫とマラカイト(11)

 モーリスの帰りが遅いところを見るに……もしかしたら、あのブキャナン警視に捕まったのかもしれない。そんな兄の身の上をほんの少し心配しながら、窓辺で就寝前の儀式になりつつある、マスクの手入れをしているものの……ラウールの手元はどこか上の空だ。

 無論、ご対面を果たした鮮烈な輝きも気になるが、そちらに関してはコルソの返事を待ってから考えた方がいいだろう。今のところ、リーシャ真教の件で採掘できた()()()に余裕がある以上、もし断られてもいずれ盗み出せばいいのだし……急を要する話でもない。当然ながら、今のラウールが気にしているのは……もう1つの疑念の方だった。


(……どうも腑に落ちませんねぇ……)


 ハーストはきっと、誠心誠意真心込めて(大金を注ぎ込んで)ブキャナン警視を説得(買収)したのだろう。悲しいかな、大企業と警察の癒着はそこまで珍しいことでもないのが、通説だったりするが。ここまで堂々と署内の関係者の口から暴露されるのは、あまりに滑稽だと言わざるを得ない。しかし……それは要するに、ハースト側としてはなりふり構わずとも、今回の件を事故として処理しなければならない何かがあるということ。その裏事情が……ラウールの好奇心を刺激して、仕方ないのである。


 店員の話ではあの衣装は元々、舞台で使われる予定はなかった()()()()()()()の物で……舞台で着るのを望んだのは、スーザンその人だということだったが。おそらくスーザンとて、いくら美しい衣装でも危険なものだと知っていれば……あのマラカイトを舞台で着るなどという、ワガママを通すことはなかっただろう。そんな衣装の利用について、店員の証言と事件の状況がやや食い違っているのに、不穏なものを感じては……漠然としてはいるが、確かな違和感に妙な胸騒ぎがする。

 あの衣装の利用がスーザンの気まぐれだったとしたら、どうしてあそこまでに()()()()()()()が揃っているのだろう? 現場の状況はモーリスの報告(調査)を待つしかないが、スポットライトの仕組みや消化設備の状態までを、役者達が網羅していたとは考えにくい。おそらくこの辺りは、劇場の設計に携わった者か……それこそ、設備の所有者でなければ気にも留めない部分だ。


(それに……あの日、楽屋に山のように平積みにされていたのは……)


 甘ったるい乙女趣味全開のピンクリボンが目印の、サロメ・ジュ・テームのチョコレート。そんなピンクリボンを金切り声を上げてまで全否定していたのだから、スーザンのご贔屓はサロメのチョコレートではないのだろう。そうなると……あのポスターの()()()もお気に入り、のキャッチコピーも真っ赤な嘘だということになる。


(そんなサロメのチョコレートを持ち上げるための衣装に……気を良くするのものなのでしょうかね?)


 やはり、ここは衣装の出所を探る方が先か。そこまで考えると、明日は渦中の宝飾店を訪ねてみようと決めてみる。ちょっとしたお勉強のためにも、何だか気落ちしている助手(キャロル)を連れ出してみるのも、いいかもしれない。

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