表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/823

黒真珠の鍵(1)

「兄さん。そう言えば、ルヴィア嬢はその後……元気でしょうかね?」

「きっと、大丈夫さ。お祖父様とお祖母様の所に、無事に返せてやれたのだから。少なくとも、お前が心配する必要はないと思うよ」

「……でしょうね」


 結局、しっかりと盗み出した“彗星のアレキサンドライト”を片手で事もなげに弄びながら。モーリスに、ルヴィアのその後を問うグリード。口先では納得している様子を見せているが、彼の表情はどこか不服そうで……そんな弟の面持ちにやれやれとため息を吐きながら、彼を慰めると同時に、朝刊の内容を詰るモーリス。

 勿論、弟の()()()()()には、歴とした理由がある。それに関しては仕方がないと諦める一方で、手口は改めた方がいいのではないかと、モーリスは常々考えていた。


「……その様子だと、それ……ハズレだったのか?」

「うん、まぁ。……俺が普通になるのに必要なのはコレじゃないって、白髭にハッキリ言われたよ」

「そうか。それは……残念だったな。いずれにしても、悪ふざけは程々に。大体、毎回予告状を出さなくてもいいだろう? 本当に……お前が捕まったらどうしようと、ヒヤヒヤしっぱなしのこちらの身にもなってくれ。ほら、今日の朝刊にもしっかりとお前がそいつを盗み出したと、きっちり載っているんだから。あまり目立つような真似は、しない方がいいと思うな」

「あぁ、兄さんに心配かけているのは、分かっていますよ。それに関しては、とても申し訳ないとは思っていますけど……俺としては、ただ盗むのはつまらない。折角、()()()()()()で生まれたんだ。だったら……それが治るまでは、存分に楽しんだっていいでしょ? その間はお遊びはちょっと、やめられないかな」

「……お前の遊び好きは、それだけが理由ではない気がするけれど。とにかく、僕はそろそろ出かけてくるよ。今日は大人しく店番してろよ? 一応、この店は僕達の大事な拠点なんだから。それにわざわざ盗まなくたって、ここで待っていればお目当てのものがやってくるかも」

「……どうでしょうね。こんな寂れたアンティークショップに足を運ぶ物好きは、そうそういないと思いますけど」

「そう言いなさんな。これでも父さんと母さんが必死に守った店なんだ。……たまには、店の中を掃除くらいしたらどうなんだ?」

「分かりました、分かりましたよ。俺は今日は非番ということで、檻の中の掃除に勤しむ事にします」

「全く……ひねくれ具合も、相変わらずか。まぁ、いい。……何かめぼしい情報があったら、持ち帰ってくるから。それじゃ、留守を頼んだよ……()()()()

「へーい。行ってらっさーい。お気をつけて〜」


 やや投げやりに兄の背中を見送ると、既に固くなりつつあるライ麦パンを齧りながら、モーリスが置き去りにして行った新聞に目を落とすラウール。そうして……一面に踊っているロヴァニアの間抜けな怒り顔に、少しだけクスクスと愉快そうに笑いを零すと、急に悲しげにため息をつく。


 街を丸ごと遊び場にして()()()()()をしない限り、忘れられない理由と事情。初めからなかったはずの何かを探し求めて、彼は満月の度に「強欲」を名乗ることにしたが、欲しいのは名声でも財宝でもない。欲しいものはただ1つ……この身を救うらしい、「彗星」という名を冠する宝石。その至宝を探し当てるまでは、彼のお遊びが終わりを迎えることは、決してない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ