紅蓮舞姫とマラカイト(6)
次の満月までに自分も一度、衣装を間近で見ておきたいのだが。そんな事を考えながら、恒例になったお留守番のカウンターで渋々、売り物のマラカイトのペンダントを手入れをするラウール。
マラカイトは古来から絵具や顔料として使われてきた一方で……その粉塵は、人の肌を爛れさせる毒性も秘めている。更に、あまりの脆さも相まって、とても日常遣いできる代物でもないはずなのだが……そんな事情さえも些細な事と受け流すのもまた、大企業の権力なのかもしれない。
(石言葉は危険な愛情……。マラカイトはサロメの愛を騙るには、お誂え向きなのかもしれませんねぇ……)
手に入らぬ聖人の口づけに固執したが故に、その首を落とさせてまで願いを成就させた、鬼女・サロメ。紅蓮舞姫では、そんなサロメの方を悲劇のヒロインとして仕立てており、横恋慕をした女帝の手から恋人を救い出すため……彼女は真実の愛を示さんと燃え盛る炎の中で踊り続けた、と言う筋書きに書き換えられていた。とは言え……。
(サロメにしても、ロゼにしても。結局、その愛は成就しないではないですか。互いの気持ちが生きていなければ、愛は無意味なものでしかない……)
マラカイトを清めるついでにそんな事を思い出しかけて、やれやれと首を振る。どうやら思っていた以上に、自分も恋人達の毒気に感化されてしまったようだ。
「ラ、ラウールさん! そのっ! 大変なのッ!」
「……おや、キャロル。お帰りなさい……と言う前に、どうしたのです? そんなに慌てて」
ややセンチメンタルな気分に浸っていたラウールの感傷を吹き飛ばすかのように、キャロルが真っ赤な顔をしながら店に転がり込んでくる。しばらくして……彼女の足の速さにようやく追いついたらしいソーニャもまた、息を切らしながらご帰宅召されるが。彼女達の様子からするに、相当の事があったらしい。
「ラ、ラウール様。……マリオンさんが……!」
「マリオンさんが……一体、どうしたのです?」
「逮捕されちゃったの……!」
「……はい?」
マリオンが逮捕? 一体……何が起こったと言うのだろう?
肩で息をする2人のレディに詳細を教えてもらおうと、彼女達が落ち着くまで一頻り待ったところで、ようやくソーニャの方が口を開く。彼女の話からするに……罪状は「殺人未遂」という事らしい。
「マリオンさんが、誰を殺しかけたと言うのです?」
「えぇ、今日の紅蓮舞姫の舞台の最中に……スーザンさんの衣装が本当に燃え始めて……。まだ、殺人未遂ですけど、スーザンさんも大火傷をしてしまって。意識不明の重体みたいなんです……。それで、あまり仲が良くなかったライバルのマリオンさんが衣装に細工したんじゃないかって、事情聴取に連れて行かれたのですわ……」
「それはそれは……そんなぼんやりした内容で捕縛されたのでは、マリオンさんも可哀想に……。それにしても、その衣装って……まさか、赤に孔雀の羽の模様のものですか?」
「えっ……ラウールさん、知ってたの? あの衣装……」
「もちろんですよ。何せ、新聞の広告にも大きく載っていましたし。それに……あの衣装に使われていたマラカイトが気になっていまして」
「……ラウール様、もしかして……」
「それ以上は結構です、ソーニャ。まぁ……そういう事です」
キャロルの前で公言できる程、ラウールも自分の手癖の悪さを反省していないわけではない。何にしても、彼女達の話からスーザンが大火傷を負っている時点で、衣装も焼失していると考えた方がいいだろう。無論、こればかりはスーザンも気の毒過ぎると言わざるを得ないが。……折角の獲物が失われた事に、何よりも落胆するラウール。こんな事なら、早めにソーニャとキャロルの観劇に混ぜてもらうべきだったのかもしれない。




