紅蓮舞姫とマラカイト(3)
(おや……? こんなところに、デカデカと……フゥン? 彼女はチョコレートマニアなのと同時に、広告塔でもあるのですね)
閑古鳥が鳴いているアンティークショップのカウンターで、新聞を広げてみれば。広告欄にいつぞやの一流女優が豪奢な衣装を纏いながら、大輪の笑顔を咲かせていた。「大女優もお気に入り……サロメ・ジュ・テームのチョコレート」等と、謳い文句が鮮やかな色合いで掲載されているのを見ても、彼女へのギャラも含めて……随分な気合の入りようだ。そんな事を考えながらも、店にポツネンと1人きりの状況に、改めて苦々しい気分になるラウール。と、言うのも……。
(ソーニャに家計を任せたのは、失敗かもしれませんね……。自分の趣味への散財は掛け値なしなのだから、いけない)
楽屋の一件があったのにもめげずに、ソーニャとキャロルはオペラ観劇の何かに目覚めたらしい。あまり贅沢は許されないはずの家計の事情にも関わらず、彼女達はこぞってラウールに店番を押し付けては、事あるごとに出かけるようになっていた。
モーリスとラウールにしてみれば、彼女達の贅沢に思わず眉を顰めたくなるものの……モーリスはともかく、ラウール自身もコーヒーに関してはかなりの散財をしている手前、彼女達だけを強く責めることができないのも、歯痒い。
そうして、いつものようにソーニャの暴走にはある程度諦めたところで、もう一度新聞の広告に目を落とす。もちろん、ラウールが気にしているのはチョコレートではなく……彼女が纏っている衣装の方だ。孔雀の羽をモチーフにしているらしい衣装には、明らかに豪奢程度では済まされないあるものが縫い込まれている。新聞の粗雑な印刷でさえも、鮮烈さを失わない艶やかな輝き。その孔雀の羽の目に鎮座するのは、独特な紋様といい、美しいグリーンといい、おそらく……。
(なるほど、サロメ……ですか。そう言えば、紅蓮舞姫も戯曲・サロメを下敷きにしているものでしたね)
原題の小説に孔雀のスカートを纏ったサロメの挿絵があったのを俄かに思い出し、少しばかり興味を唆られる。おそらく、原題の意匠を踏襲したのだろう。孔雀繋がりで縫い込まれた、夥しい数の孔雀石・マラカイトはちっぽけな紙面の中でも、ある意味で美しいスーザンを遺憾無く引き立たせていた。原題にやや背徳的な部分があることから、差し障りのない悲恋物語に書き換えられたのが『紅蓮舞姫』だと、キャロルが買い求めたパンフレットにも載ってはいたが。正直なところ、そんな事よりも、ラウールとしてはこのマラカイトがどこからやって来たのかが、気になる。
(フフフ……次はこれを狙ってみるのも、一興でしょうか。これだけ数があるのだから……もしかしたら、その中に“彼女”がいるかもしれません)
きっと先日のオペラ観劇がなければ、新聞の広告など我関せずと目にも留めなかっただろう。こうして目に付いたのも、何かのご縁と……かなり勝手な事を考えながら、内心で舌舐めずりするラウールであった。




