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パパラチア・ワンダーロード(23)

 途中下車のロンディーネでコーヒー豆(恋焦がれたツバメ缶)を購入しつつ……彼女の身支度(お着替え)を整えさせた後は、復路の列車でひたすら家路を行くだけ。

 そんな車窓には、いよいよ枯れ地になり始めた穀倉地帯の風景が映り続けていた。ラウールにしてみれば退屈でしかないありふれた風景でも、谷間の暮らししか知らない彼女には新鮮なものらしい。窓際で嬉しそうにはしゃぎながら、変装用の瓶底メガネさえもかなぐり捨てて、瞳を輝かせる同伴者の姿に……これで良かったのだと、自分を納得させる。


「あ、あの……そう言えば、ラウールさん……」

「どうしましたか、キャロル。何か、気になることでも?」

「これから助手にしてもらえるのは、嬉しいのですけど……えっと……」

「あぁ、その辺りは心配いりませんよ。……俺の店には君と同じように、()()()で同居しているソーニャという世話係がいましてね。レディの嗜みは彼女から教えてもらうといいでしょう」

「それも心配だけど、そうじゃなくて……」

「うん? ……他に何が心配なのです?」

「……マムに何も話してこなかったな、なんて思って……」

「その事ですか。大丈夫ですよ。……黒幕の存在も含めて、ある程度の()()()はしてありますから」


 出立前に抜かりなく電報で保護対象の存在に、調査結果……それと“ワンダー・パパラチア”の確保に成功した事を報告しておけば、後はホワイトムッシュ(飼い主)の方でなんとかしてくれるだろう。そこまで考えて、最後の夢の後の証拠品として受け取ったミレット・ジャーナルの号外に目を落とせば。怪盗紳士が成敗した怪物の正体と、怪盗が元怪傑・サファイアを攫って行ったことが書かれていた。そこに書かれているのは、確かに1つの事実ではあるだろう。だけど……その筆致にあの街の住人はここまでしても、()()()をやめる気はないのだという事も見せつけられた気がして、いよいよ落胆する。


「館長さんが化け物だったなんて……まだ信じられないな……」

「でしょうね。だけど……君をそんな風にしたのも彼なのですから、少しはスッキリしましたか?」

「ウゥン……ちっともスッキリしない。だって……騙されていたとしても、館長さんが私達を助けてくれたのは、本当だもの。……こうなる前に、何かいい方法はなかったのかな……」

「さぁ。……何れにしても、コーネの事はこの際ですから、綺麗さっぱり忘れてしまった方がいいでしょう。あの街はこの先、どこまでもワンダーランドでい続けるつもりみたいですから。とは言え……その気持ち(優しさ)は忘れないようにしてください」


 号外の結びを確認する限り、コーネの街を騙し続けた怪物、タラント・ハッターの絞首刑は明後日に執行されるとある。キャロルの言葉を借りれば、その日は元々彼女が処刑される日だったらしい。執行日の一致に、キャロルが罪悪感を感じるのは無理もないのかもしれないが。かと言って、それはどこまでも……因果応報でしかない。


(自分が作り出したワンダーランドに、最後は締め殺されるなんて。きっと彼は……終焉を望んだフリをして、新しい余興(舞台)を始めたかったのでしょう。本当に……どこまでも下らないったら、ありません)


 怪盗紳士を招き入れた事が本当に致命的な失敗になるとは、考えも及ばなかったのだろう。おそらく彼は……自分の力を過信しすぎていたのだ。サファイアという強力な核石に対する慢心と、長い間生き延びてきたという矜恃で……ホワイトムッシュの飼い慣らした(チェシャ猫)さえも、従えられると考えていたのだろう。

 そんな事を図らずとも考えていると……ふと、キャロルが静かな事にも気づく。不意の静寂に慌てて隣を確かめれば、穏やかな晩秋の日差しの温もりに安心し切ったのか……今度は眠たくなってきたらしいキャロルが、横で船を漕いでいた。自分の腕にもたれかかりながら、きっと()()()()()()()のであろう少女を見守ると同時に、自分がいつかの誰かと同じように助手を持つ日が来るなんて……と、底抜けに()()()()()()気分にさせられる。

 いつだって、自分の中の轍に逆らってみても。気がつけば、誰かさんの足跡の上を確かに歩いている。だけど……今はその道標も決して、不愉快ではなかった。

【おまけ・サファイアについて】

あまりに有名すぎて、説明不要とさえも思われますが……一応の様式美で呟かせていただきますと。

モース硬度はルビー共々、大凡9。

ダイヤモンドに次ぐ硬さを持つ上に、靭性(素材の粘り具合)に関してダイヤモンドよりも傷つきにくいとされる、かなりパワフルな宝石であります。

「コランダム」という鉱物の仲間で、同じ仲間にルビーの存在があります。


さて……そのルビーとサファイアの関係についてですが。

赤い物を別枠でルビーと呼んでいるだけであって、やや乱暴な言い方ではありますが、赤色以外の宝石質コランダムは全てサファイアとなります。

そのため、サファイアは一般的に青い宝石として有名ですが、ホワイトにピンク、果てはブラックまで……非常に色の種類が多い宝石でもあります。

そして、青以外のサファイアは一律「ファンシーカラーサファイア」と……ちょっと身近に感じられる通称名で流通していますが。

……そこは、腐ってもサファイア。

一般的にどの色でも、サファイアは高価な宝石でありますです、ハイ。


中でも、オレンジ色を強く示すサファイアは“パパラチア・サファイア(蓮の花)”と呼ばれ、特に珍重されます。

とは言え……作者は個人的には、やっぱりサファイアは青がいいなと思ってしまいます。

オレンジも好きですけどね。でも……やっぱりサファイアは青、という印象が強いです。


【参考作品】

『不思議の国のアリス』

『鏡の国のアリス』

『アリス・イン・ワンダーランド』


まぁ……言われずとも、でしょうか。

個人的に映画の方は帽子屋が目立ちすぎていると、思ったりします。

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