パパラチア・ワンダーロード(21)
「あぁ……そう言えば。あなたは大泥棒のグリードが本当はどんな存在か、ご存知ですか?」
目の前で猛るは、明らかなる異形。それなのに、グリードときたら。慌てもせず、怯えもせず……いかにも不敵にニタリと笑うと、やや突拍子もない質問を投げる。
【ソンナモノ、知ルカ……! タダ、ワタシニハ……】
「不気味に笑う不愉快なコソ泥、と言ったところですか? ……まぁ、それでもいいでしょう。だけど、俺にとって……泥棒はそれこそ、どこまでも余興でしかないのです。今回はちょっとした手違いでロンバルディア姓を名乗る羽目になりましたが。本当のファミリーネームはジェムトフィア、と申しまして。……そのキーワードに、心当たりは?」
【……ジェム……ト、フィア……? マ、マサカッ?】
しかし、関係なさそうな質問には、しっかりと意図があった様子。カケラ達にとって恐怖以外の意味を成さない彼の言葉に、突如怯み始める漆黒の巨竜。深いブルーの瞳に相応しく、その輝きに底無しの畏怖を嗅ぎ取ると……いつぞやに誰かが使うのを躊躇った、忘れ形見をその咆哮に向けて構えて見せる。
「えぇ、その“まさか”です。Jem tor Fear……宝石達の懸念となるもの。俺は元々、兵器側として生み出されたカケラでしてね。……こんな事をしている事情を説明する義理はないと思いますが、少なくとも飼い慣らされた虎を騙っている手前……あなたの存在をそのまま野放しにはできないと、判断しました。さて、これまでの酔狂に対して申し開きすることは? ……最後の懺悔くらいは、聞いて差し上げますよ」
【ウ、ウルサイッ! ワタシハ、コノ世界で……ズット、王トシテ生キ続ケルノダ! 邪魔ハサセナイッ!】
「……おやおや。本当に……怪物はどこまでも卑しい怪物でしかないのですね。この街の盤面上では最初から……キングは撤退済みでしょうに!」
自由を奪われる前に、何とかしてグリードを食い殺そうと、突進してくる怪物。しかし、グリードの方は巨竜の突進にも慌てず……冷静に彼の首元目掛けて、渾身の一撃を放つ。ほんの少しの差で届かなかった牙を軽やかに躱しながら、彼の頭に飛び乗ると……今度はコーネルピンの剣で、怪しく輝く紫色の角を刎ねる。突然の痛みにのたうち回る、大きな頭の上でバランスをとりながら、長い尻尾をスロープ代わりに滑り降りてみるものの。……なかなかにしぶとい、ドラゴンの顛末を見届けようと振り向けば。方向感覚さえも失った彼が、あろうことか壁を粉砕しながら外に飛び出したのが、目に入った。
(あぁ、不味いことになりましたねぇ。あんな大勢の前で、姿を晒されたら……追加のファンサービスをしなければならないではないですか……)
ご乱心のドラゴンの登場に、突如木霊する絶叫と興奮の歓声。ソワレの登場人物には、あまりにお誂え向きすぎる怪物に……呆れた事に、逃げ出す馬鹿は誰1人いないらしい。外の熱狂にやれやれと首を振りつつ、慌てて怪物の機能を停止させなければと駆け出すが。……予告外のカーテンコールをする事になるなんて、不格好にも程があるではないか。
「……全く、良識だけでなく、理性も失ってどうするのです……! あぁ、ご安心を。この怪物めは俺の方できっちり締め上げますから、皆様に危害は及びません。ただ……回収には少し時間がかかりますから、しばらく美術館は閉館させてくださいね」
やっぱりどこか無理をしながら、今度こそトドメの拘束を仕掛けつつ……誰に向けるでもなく、ウィンクしてやれば。怪しさ満点の大泥棒のお願いも聞いてあげちゃうと言わんばかりに、一生懸命頷く観客達の反応に不愉快を募らせる。どうにもこうにも……尽く、自分は舞台俳優には向いていないらしい。




