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パパラチア・ワンダーロード(20)

 核にして、生き存えてきた。彼の言葉が意味するところを逡巡する間もなく、穏やかな表情を貼り付けたままの怪人が牙を剥く。サファイアのモース硬度は大凡、9。それだけでも自分の核石よりも優れているのに、サファイアの靭性はダイヤモンドの上を行く。丁度、新入荷していたレアストーンを調子に乗って持ってきたはいいものの。コーネルピンの追加耐性を乗せてみたところで、屈強なサファイアに敵うはずもなく。しかも……。


(あぁ、なるほど。今まで()()()に本物を摺り替えさせていたのは……このためですか。それはどこまでも……どこまでも、自分のためだったのですね……!)


 見れば、タラントは周囲の美術品ではなく自分の懐から取り出した宝石を貪り始めている。おそらく彼はワンダー・ロード……裏舞台の領主としての権限を最大限に発揮しながら、模造宝石(コーネ産業)興隆を口実に、この街の本物をかき集めていたのだ。生き存える、とはそういう意味か……そんな事を考えながら、タラントの剣戟を幾度となくコーネルピン(ヴォーパル)の剣で弾き返す事、10数分。気づけば、いつの間にか2人は美術館の大広間に出ていた。

 おそらく、彼の方も美術館長としての矜恃までは失っていなかったのだろう。そうして周囲を気にしなくていい状況になるや否や、サファイアとルビーの効果を嵩増しし……いつしか銀の底で見た、巨人と同じ姿になり始める。だが、有り余る力をきちんと制御しているのを見る限り、彼自身はこの状態になるのは初めてでもないのだろう。その慣れた手際の鮮やかさに……カケラの男性ならではの能力を遺憾無く発揮しているのもまた、グリードは不愉快だと考える。


【……飼い慣らされているとは言え、猛獣は猛獣なのですね。こうも容易く全てを弾き返されると、流石に頭にきますねぇ……】

「それはこちらのセリフですよ。……アンチエイジングだか何だか、知りませんが。そこまでして、生きていたいのですか? その状態になれば、自分の命(核石の寿命)を縮めるのは必然……だからと言って、()()()に周囲を巻き込んでいいわけではありません」

【おや、そうですか? このコーネは今も昔も……いつだって、私の物ですよ。ここに住う者を利用するのは、領主として当然の権利だと思いますが】

「その慢心を満たすために、こんな狭い街で()を巻いていたのですか? あなたには、外の広い世界に飛び出すという選択肢はなかったのでしょうか?」

【ありませんね。この街はいつだって、私の思うがままです。これ以上に楽しいことがありますか? 住人も、産業も……エンターテイメントも。全てが私の掌の上にある。……何て、素晴らしいことでしょう。それに……現にあなただって、一座に加わるためにやってきてくれたではありませんか。たまにこうして面白い事を提供してやれば、彼らはそれ以上の文句は言いません。私はね……この街の領主であると同時に、座長でもあるのです。きちんと彼らの興を満たす仕事もこなしていますよ?】

「なるほど。()()も領主のお仕事のうち、というわけですか」


 敢えて生意気な反応を示してやれば、グリードの態度がいよいよ気に食わないとばかりに、唸り声を上げ始める紺碧の怪物。そうして最後の姿を留める頃には、目の前の巨人はビッシリと鱗を纏った1匹のドラゴンへと姿を変えていた。煌々と輝く青い瞳に、この街で見つけたお気に入りのカフェの名前がBlue Lord(青目卿)だった事を思い出し、いよいよコーヒー以上に苦々しい気分になる。

 言論の混沌(ジャバヴォック)が振りまいた洗脳()が、末端の些末な場所にまで侵攻しているのを考えても、この街の神経麻痺は既に末期状態だろう。そして……元凶でもある怪物は、自分の作り上げた世界(ワンダーランド)を眺めるだけでは飽き足らず……自分自身さえも物語の登場人物に仕立て上げた末に、()()()()()へと成り果てていた。そんなワンダー・ロード(良識を失った怪物)との対話には、もう終着点を見出すことはできないと考えるべきか。だとすると、こうなった以上……あまりにも不本意なシナリオだが、こちらも自分の領分(存在意義)を発揮するしかない。

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