パパラチア・ワンダーロード(17)
1人で焦ってみたところで、自分を取り巻く状況は何1つ変わらない。多勢に無勢と囲まれながら、一刻も早くこの窮地から抜け出す段取りをあれこれと考えてみるが……仕方ない。あまり気分のいいシナリオではないが……この場合は、目の前の同類の泣き所を突っつくのが手っ取り早そうだ。
「……そう言えば、あなたはサファイアのカケラでしょうか? そんなにひび割れて……その瞳の状態では、既に歩くのもままならないのでは?」
「ほぉ……あんたには私がどんな存在か分かるんだね? 伊達に宝石の鑑定士をやっていないということかい?」
「えぇ、まぁ。依頼主にはそういう趣味をお持ちの方も、少なくありませんでしたから。ですが……俺はどちらかというと、インスペクター側なのですけれど」
「……」
宝石鑑定士が吐いた、ちょっとした自己紹介の単語に心当たりがあるのだろう。ラウールの立場を即座に理解したらしい姐御様の顔が、たちまち苦悶に満ちた表情に変わる。その心情をきめ細かく読み取ると、この申し出への食いつきは抜群だと……もう一押しと、交渉を続けてみる。
「俺には、あなた達を悪いようにするつもりはありません。ですから、もし大人しく解放してくださるのなら……それなりの援助は約束しましょう。いずれにしても。通行料はお約束通りお渡ししますよ。……少なくとも、俺はあなた達の敵ではない事を理解していただけると、いいのですけれど」
そんな事を言いつつ、約束の保釈金をサファイアの方に放れば。彼女の方も素気無く受け取ると……少しだけ不機嫌な顔を見せる。確かに雲った表情が、虚勢の中に一握りだけ残った悲哀なのだと気づくと、約束は守らねばと考えるが……どこまでも詰めの甘い計画に、つくづく自分はワーカホリックなのだと、自嘲してしまう。
「……ふん、まぁいいだろう。お前らの援助とやらを期待するつもりもないが……こんなところで追い剥ぎも格好悪い。お前達、行くよ」
「へ、へい!」
サファイアさえ納得させれば、取り巻き達に気を遣う必要はないらしい。鋭く勝気な彼女の合図に、お供達の方はラウールに一瞥するでもなく、引き揚げていく。そうして彼女達の背中を最後の最後まで、見送るつもりでいたが……ふと、姐御様が何かを思い出したらしい。振り向きざま、鋭利な輝きを残した瞳でラウールを一頻り睨むと、別れ際に1つの置き土産を提案し始める。
「……そうそう。もし良ければ、あんたが頼みもしない夢を見せてやれるというのなら……後は好きにして構わないよ。やってやれるものなら、やってみろってんだ」
「えぇ。できることなら……そのつもりです。折角ですから、この街の夢の跡を引き継ぐのも、悪くないでしょう」
互いに表面では朧げな何かを探りながら、互いに奥底で確かな何かを納得する。そうして、確かに後悔をしているらしい彼女の諦めをしっかりと受け取ると……肩の荷がずしりと載せ替えられたのも、自覚するラウールだった。




