パパラチア・ワンダーロード(16)
彼らの身なりを見れば、彼女達の生活が困窮しているらしい事は一目瞭然。表向きはひ弱な鑑定士を気取っている以上……自分でも不本意だが、ここはお仕事の成果を遺憾無く発揮するのが手っ取り早いか。
「あぁ……もしかして、この辺りは通行料が必要だったのですか? でしたら……知らぬ事とはいえ、勝手に入り込んで申し訳ありませんでした。通行料と迷惑料をお支払いしますから、金貨1枚で許していただけませんかね?」
「金貨⁉︎」
「あ、姐御! いかがします? こいつ……金貨を出すって、言ってますぜ?」
普段は銅貨単位の金額しか使わないラウールだが。可愛い孫とやらのお小遣いにムッシュが用意してくれた金額にモノを言わせて、ここは乗り切ろうと咄嗟に判断する。それで穏便に逃してもらえるのなら……金貨1枚は決して、高くはないだろう。
「……ったく、ますます気に入らないね……。その澄ました顔に、その気取った感じ……。それに、あんたの目つきは本当に不愉快だ。何より……お前があの子を誑かしたせいで計画が台無しになったのだから、金貨1枚じゃとても足りないね」
「なるほど、怪傑・サファイアの通称名はイミテーションでしたか? その通り名から、もっと気高い人物なのだと思っていましたけど……それは俺の勝手な勘違いだったのですね。ちょっと憧れていたのに、非常に残念です」
有りもしない感傷をきっちり構築して、さも落胆して見せると……ラウールの様子がいよいよ癪に障るのだろう。姐御様が怒りを乗せた瞳のまま、唐突に高笑いし始める。
「本当に……本当に、小癪なクソガキが……! 誰も好き好んで、こんな風になったわけじゃないさ。私達はね……ワンダー・ロードに飼い殺しにされて放り出された、捨て猫なんだよ。こっち側が生き延びるため、首に鈴を付けていたのに……首輪を外そうとしたらば、外すどころか締め上げやがった!」
「……こっち側……?」
「コーネは元々……コーネ川を挟んで並んでいた2つの街だったんだ。山を切り崩したぼた山で、川が埋まっちまってね。それで、1つの街になったんだが……生憎と、最初はお互いにうまくやっていけなかったらしくてねぇ……」
力なくそんな事を呟きながら、当時の不仲とこの街が狂っている理由を誰に向けるでもなく続ける、元・サファイア。彼女の話から察するに……この街には谷間という閉鎖的な空間が生んだ、歪んだ狂気が潜んでいる事が見えてくる。
(そういう事ですか。この街の狂気を生んだのは……元は本当にちっぽけな覇権争いだった、と)
ポーンとポーンが刺し違えれば、今度はナイトが出てきて……次はルークにビショップ、キング……。その繰り返しで、2人のクィーンが対峙する頃には……オールドコーネの商標は西側のホワイト・クィーンが掌握していた。それに焦った東側のブラック・クィーンは仕方なしに、誰かが吹き込んだらしいコーネ・コランダムの生成技術で巻き返しを図るものの。既にオールドコーネの価値さえもが急落した状態でのコーネのネームバリューは、谷底から這い上がる余力さえ残していなかった。
そこでようやく手を取り合って作られたのが、あの“3時のお茶会”を含む陶磁器と宝石の合作で……そうなると、あの美術館には最初から本物など存在していなかったのだろう。ラウールが精巧な偽物と判別したあの大粒のサファイアも……最初から摺り替えられてなど、いなかったのだ。
(だとすると……あぁ、してやられましたか。この依頼は最初から……おとぎ話の続きでしかなかったのですね)
依頼主がわざわざホワイトムッシュに協力を要請してきたのも、何故かタイミングよく怪盗・グリード宛に予告状が出されていたのも。全てが……仕組まれた事。そこまで考えると、こんな所で油を売っている暇はないと焦り始めるラウール。このまま放っておいたら、きっと……本当に彼女の首輪は本格的に締め上げられてしまう。




