パパラチア・ワンダーロード(15)
お目当ての“ワンダー・パパラチア”の行方を探ろうと、当て所なく外に出てみると。今日も今日とて、駅前では号外が出ているのが目に入る。楽しそうな賑やかさの中に、何故か不穏な空気をいち早く嗅ぎ取って、受け取った紙面に慌てて目を泳がせるラウール。しかし、そこに踊っていたのは……街ぐるみで散々持ち上げていたはずの彼女を一方的に罵る悪趣味な余興でしかなく。まるで首吊りの足を引っ張るような所業に、反吐が出そうだ。
(昨日もお仕事をさせられたのですね、あの子は。しかも、これは……悪い夢か何かでしょうか?)
手元の紙面には逃げ足だけは一流だったはずの泥棒が御用になったと書かれており、あまりのお粗末さがこれでもかと書き連ねられている。しかも、模造宝石作成の手際の悪さに関しては何故か、通りすがりの鑑定士の見解までしっかり記載されており、いい加減なやり口にいよいよ虫唾が走った。この街の大人達は……1人の少女を一方的に追い込んで、何が楽しいと言うのだろう。
(……きっと、彼女が逃げなかったのは俺のせいでしょうね……)
彼女の申し出を断らなければ、こんな事にはならなかったかも知れない。
遅すぎる後悔と一緒に、キャロルの境遇をグルグルと考えながら歩いていると……気がつけば、知らない裏路地に入り込んでしまっていた。どうやら、一昨日出かけたエリアとは別の陶器街のようだが……閑散としたその寒さに、こちら側は随分と活気がないと、身震いする。
(はて……ここはどこでしょうか? 俺とした事が……少し気を取られ過ぎましたか?)
あの美術館の前を通り過ぎたところまでは覚えているが、その後はどの道を辿ったのかが分からない。そんな裏路地の空気に少々物騒な匂いを嗅ぎつけると、本格的に見知らぬ異世界に落ちてしまう前に退散しようと踵を返す。しかし……。
「お兄さん、ここらじゃ見かけない顔だね」
「もしかして、余所者かい?」
「あぁ、お構いなく。行くべき道を少し外れてしまっただけですから、早々に帰ります。こちらの方々にご迷惑をおかけするつもりもありませんから、ご安心を」
雑念に判断を鈍らせた挙句に、あからさまにガラの悪そうな男達に囲まれているのにも、ようやく気づくが……既に逃げ遅れてしまったらしい。しかも人数は5〜6人と結構多い上に、奥に彼らに守られるように佇んでいるのは……どこか嫌な匂いを纏わせた、青い瞳の美女だった。
(あの瞳は……もしかして……)
裏路地の薄明かりでも確かに輝く、鮮烈なロイヤル・ブルー。しかし、その光彩はまるで割れた鏡のように……周囲へ不規則な光を放りばめ続けている。
「……お前がうちの子に変な事を吹き込んだ、鑑定士とやらか?」
「別に、変な事を吹き込んだ記憶はありませんが。……まぁ、彼女の年頃に見合った夢を少しだけ見せてあげたのは、事実ですかね?」
「フゥン……この人数を前にしても、随分と余裕じゃないか。……鑑定士さんとやらは、全員がこうも生意気なもんなのかね?」
「いいや? きっと生意気なのは、俺くらいなものですよ」
彼女の受け答えからしても、先方は自分が同類だということには気づいていないのだろう。それもそのはず、ラウールの瞳は夜になって初めて真価を発揮する特注品だ。昼間の人畜無害なグリーンの色合いでは、同族嫌悪を抱くまでには届かない。
とは言え、この状況は有り体に言えば、袋の鼠。マスクなしの状態で派手なこともできない手前、窮鼠なりに知恵を絞る。やはりここは……穏便かつ素直に、白旗を挙げればいいだろうか?




