パパラチア・ワンダーロード(9)
合成コランダムのうち、あの偽物はクズ宝石を溶解させ再結晶させて作られた物……通称コーネ・コランダム。ここコーネは谷間に位置するという立地の関係か、鉱石や陶土の産出はそれなりにあるものの、大きく質の良い宝石が採掘されることは無きに等しい。そんな事情の中で、宝飾陶器の町としてそれなりに発展はしてきたが、現在は軽くて日常遣いにも適しているアーネルト産磁器の台頭で、窯元が相次いで倒産していると……それとなく、聞いたこともあった。
慢性的に中流階級の層が分厚くなり始めた経済状況で、日常遣いできない食器など今更、お呼びではない。きっとこの街は、頑なにオールドコーネのブランド力に固執した結果……谷間に引き籠っている間に、世間の波に乗り遅れたのだ。慌てて挽回しようにも、既に後の祭り。装飾品としてのオールドコーネの価値も、減衰しているとあれば……新しい産業を見出す余力さえもないこの街で、取り残された設備の流用は往々にして、考えられることだろう。
(だとすると、あの模造品はそんな窯元で作られたということでしょうか……?)
加工に高熱の火力が必要なのは、オールドコーネもコーネ・コランダムも変わらない。用途が違う時点で、設備を同一とするのは少々、乱暴にも思えるが……決して、不可能な芸当でもないはずだ。だとすれば、今日はこの後は窯元巡りをしてみるのも一考……か。
ややカフェイン不足の頭でそんなことを考えながら、とりあえず駅前の観光案内所で窯元が集中しているエリアを確認しようと足を向けてみると、いつぞやと同じように号外を配っているらしい人集りが目に入る。その様子に、しめしめと……内心でほくそ笑むラウール。
「号ー外! 号外だよ〜‼︎」
「あ、お兄さん。俺にも1部、ください」
「はいよ、どうぞ!」
気さくな配達員から受け取った誌面に早速、目を泳がせれば。目論見通り、意地悪な鑑定士によってサファイアが馬鹿にされたらしいことが、つらつらと記載されている。渦中の鑑定士の特徴については、好意的に書かれていたのは意外だったが。彼女達のあの様子では、それは仕方ないのかもしれないと、お褒めの言葉も早々に腹に落とし込む。何れにしても、ここまで大々的に情報が流布されれば、何かしらのアクションは見込めるだろう。
(それはさて置き、そろそろきちんとしたコーヒーが飲みたいですね……。この際、出来の悪いエスプレッソでも構いません……。あぁ、でも。できれば、フルシティローストのマウント・クロツバメが飲みたいですねぇ……)
しかし、悲しいかな。絶賛コーヒー難民中のラウールの思考は現在、8割ほどがカフェインを求める大合唱で埋め尽くされている。自分のカフェイン中毒をとことん自覚しながら……今度から長期間の外出にはコーヒーの道具もある程度持ち込もうかと、真剣に悩み始めるラウールだった。




