パパラチア・ワンダーロード(6)
「あの……皆様方。それはそうと、もし良ければサファイアについて、もう少し詳しく伺いできませんか? 特に……今までどんな活躍をしていたのか、とか……」
「あ! そ、そうですわね! 大変、失礼いたしました。ウフフ……お兄さんも何だかんだで、サファイアにご興味がおありで?」
「……えぇ、まぁ。ある意味、とても興味深いですけど……」
自分が突き落としてしまったその場の空気を取り持ちつつ、仕方なしに彼女達に話を振ってみる。先ほどの空騒ぎ加減からしても……彼女達も誰かの息が掛かっていそうな気がしないでもないが。わざわざここに足を運んだのは、サファイアの足跡を確認するためだ。特段、ご婦人方の興を削ぎ落としに来たわけではない。
「そう言えば……お兄さんは、どんなお仕事でこちらにいらしたんですかぁ?」
「へぇっ?」
しかし、突如何かがゾワゾワするような猫撫で声でそんな事を聞かれたものだから、流石のラウールも間抜けな声を上げつつ……つい、それらしい内容を答えてしまう。一体……今の話題に、自分の仕事がどう関係してくるのだろう?
「あ……あぁ……。俺はコーネ美術館の方から、ご依頼をいただきまして。鑑定士として、呼ばれてるんですけど……」
「か、鑑定士ッ⁉︎」
「お兄さんは何の鑑定士なんですかッ⁉︎」
「は、はい……宝石の鑑定士ですけど……」
「おぉ〜‼︎」
ラウールが思わず白状した身の上にますます興奮しながら……先ほどまで夢中だったはずのサファイアの話題から、グングン離れていくご婦人方。そんな彼女達の様子に……何やら不穏な予感を咄嗟に感じ取ると、仕方なしにいつもの意地悪路線に切り替えるか……と、早々にその場を取り繕うのを諦める。
「あぁ、そう言えば……依頼主のコーネ美術館で妙な物を拝見してきましてね。俺としては、あまりのお粗末さに笑いを堪えるのに必死でした」
「妙な……物?」
「えぇ。オールドコーネの陶磁器コレクション……“3時のお茶会シリーズ”の作品群の中に、明らかに出来のよろしくない偽物が混ざっていたものですから。もしこの記事にある“ワンダー・パパラチア”があのウサギの瞳だった場合、そんなガラクタに対して予告状を出している時点で、サファイアの方は勉強不足だと言わざるを得ません」
「な、なんですって⁉︎ あの……宝石が偽物ッ⁉︎」
「まぁ、俺はまさにその宝石の鑑定に呼ばれていたのですけど。……輝きといい、色といい。正直なところ、鑑定するまでもない程にあり得ない出来でした。もし、俺がグリードだったら、バカバカしすぎて相手にしないでしょうねぇ……」
ここであの瞳が偽物だと白々しく嘯くのは、ルール違反だと分かっていつつも……あれだけ酷い出来だったのだから、遅かれ早かれ露見する事だろう。それに、あの瞳は既に“摺り替え済み”の模造品なのは、彼女もおそらく知っているはず。だとすれば……。
(ここで俺が喋った内容が面白おかしい記事になれば……サファイアはきっと食いつくでしょう。彼女の方から、何かアクションがあればいいのですけど)
何れにしても、未だにサファイアの目的はちっとも見えてこない。敢えてあの出来なのか、本気であの出来なのか。そもそも、どうして無事盗み出しているはずの“ワンダー・パパラチア”に対して、予告状を出しているのか。
(もしかして……あの宝石を摺り替えたのは、別の人物だったりするのでしょうか?)
結果として盛大にサファイアを扱き下ろしてしまい、漏れなく彼女の大ファンらしいご婦人方を怒らせてしまったとあっては……当初の目的も果たせずに、スゴスゴと逃げ帰るしかないのだが。仕方なしに、後の調査は図書館あたりで新聞のバックナンバーでも眺めてみるかと、気分もサッサと切り替える。
別に全ての事件を追えずともいい。……ただ、被害者達の傾向を掴めれば。そのくらいの情報を得るのに、わざわざ面倒なご機嫌とりをする必要も……ない、はず。




