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パパラチア・ワンダーロード(4)

 美術館という空間は、本当にいい。変に纏わりついてくる相手もいないし、ひんやりとした静寂の空気がとにかく肌に馴染む。

 ……そんな事を考えながら順路を進んでいると、折角の上機嫌を台無しにするような喧騒が目の前に広がっているのが見えてくる。やっぱり、人というのは()()()()()()には群がる習性があるらしい。そんな群衆に囲まれているのが間違いなく、自分もお目当ての展示品(模造品)だという事に気づくと、ますます遣る瀬ない。


(仕方ありません。……俺もこの場合はどこまでも見物客なのですし、文句は言えませんね)


 少しばかり大人の判断をしながら、とりあえず目的を達成しようと輪の外に加わって、背伸びをしてみる。そうしてみたところで、ちっとも()()()()姿()を拝見することはできないが……それでも順番は少しずつ進んでいるみたいだ。しばらく人に揉まれるのを我慢すれば、一目垣間見ることくらいは許されるだろう。


(あぁ、やっとですか……。やれやれ。展示されているのが()()だというのに、随分と盛況なのですね……)


 展示品がどんな物かさえも知らされていなかったが、恭しく鎮座しているそれは……何やら、ウサギを象った陶器製の置物らしい。そんな白磁の肌を眺めてみれば、瞳に確かにそれらしい夕陽色の輝きが嵌められているのが、目に入る。


(これは……オールドコーネのアンティークコレクションでしょうか? ……なるほど、偽物なのは瞳だけのようですね)


 しかし残念ながら、ラウールの目にはそれはどこまでも偽物でしかなく……その出来はギリギリ及第点だと、次の客に順路を譲りながら考える。元々嵌っていた宝石が本物だったのかは不明だが、あのガラスビーズのような輝きに胡散臭さがしっかりと乗っていたのを認めると、人知れず笑いがこみ上げてくる。宝石泥棒を名乗るには、随分とお粗末な気がするが。もしかしたら、彼女の()()の方は本物なのかもしれない。


(しかし……いよいよ、分からなくなってきました。腕試しの一環だったとしても、お仕事が杜撰にも程があります。あの程度の出来で、今までよく()()でしたね……)


 少しばかり、彼女の不出来に身につまされる思いをしながら、美術館を後にする。……純粋な金品目的なのであれば、わざわざ盗品を戻す必要はないだろう。しかし、あまり作りもよろしくない偽物を用意してまで、盗品を戻すというリスキーな事をしている時点で……彼女の目的はそこまで、単純でもないはずだ。


(目的を探るほうが先……でしょうか。盗品の所在も突き止めなければいけませんが、この場合は()()何か事情があるのかもしれませんねぇ……)


 仕方ない。午後は怪傑・サファイアの足取りと、被害者達をを洗う事にしよう。そして、ついでに自分の口に合うコーヒーの出所を確保しようと決めると、まずは先程の号外を出していた出版社を訪ねてみようと考える。あれだけ鼻息の荒い記事を書き上げていたのだから、きっとその記者も彼女の()()()()に違いない。

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