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ヴァイナハツ フェリエン/クリスマスの帰省

Weihnachtsferien


クリスマス休暇

こうして、今年もクリスマス休暇の季節になった。

母のアンゲリカに言われたとおり、アレンはロッテを伴って故郷の村に帰省した。


村は、今年も雪が深かった。

ロータリーで待っていると、またクラクションが鳴る。

ふと見た先には真新しい車があって、窓から手を挙げて合図したのは父ではなく母だった。


「車買ったの?」

車内でアレンが聞く。

新しいと思われる車は、もちろん暖房の効きもいい。


「あんな小さな車に、みんなは乗れないでしょ」

アンゲリカは事も無げに言い放った。

あのボロ車に愛着を持っていた父を思うと、アレンは少し心が痛んだ。


アンゲリカの運転する車は、エンストすることなく家まで到着した。

玄関のドアを開けてくれたのは、父のエーリッヒだった。


もしかしたら母から何か聞いていたのかもしれない。

父は、ロッテを見ても驚かなかった。


「初めまして、アレンの父のエーリッヒです」

「あ、あの」

「ロッテといいます」

「今回は、お招きくださってありがとうございます」

玄関でそんなやり取りをしていると、車庫からアンゲリカが戻ってきた。


「もう、寒いのにこんなところで」

「早く中に入りなさい」

彼女に急かされて、一同は室内に入った。


クリスマスの休暇は、いつも通りランチからスタートした。

今回も、食卓にはアレンの好きな料理が並ぶ。


「まだ余裕があるかしら?」

そう言ってアンゲリカが出してきたのは、けしの実のケーキだった。

それは、ロッテの好物であった。


「一緒にお茶をしたとき、とても美味しそうに食べていたから」

「あそこのお店には劣るかもしれないわよ」


少し照れたように言うと、アンゲリカはケーキを切り分けた。

アレンの隣にいた父が、何やらヒソヒソと耳打ちしてくる。


「アレン、ロッテに負けたな」

「え?」


「母さん、今回はロッテのためにすごく張り切ってたんだぞ」

「駅に迎えに行ったのもそうだよ」


「私とは落ち着いてうちで会ったほうがいいなんて言っていたけど……」

「実は、一刻も早く彼女に会いたかったらしい」

「母さんは娘がほしかったから、嬉しくてたまらないんだよ」

「そうなんだ……」


「ちょっと、オス連中が何をコソコソしているの?」

ケーキを皿に盛りつけながら、アンゲリカが夫と息子を睨んだ。


*****


その翌日、アレンとロッテはエディーとララを訪ねた。


「こんにちはーー!!」

ドアを開けて迎えてくれたのは、やんちゃなオスの三つ子たちだった。

アレンが前回彼らを訪ねたとき、まだララのお腹にいた3匹。

それぞれに割合の違いはあるが、3匹ともコヨーテとプードルを足したような姿をしている。


「はい、少し遅れたけど」

アレンはそう言って、チビたちに用意していたクリスマスプレゼントを手渡した。

3匹は目を輝かせてそれを受け取り、あっという間に包みをビリビリに破いた。

中から出てきたのは、色違いの車のおもちゃだった。


「悪いな、アル」

「ありがとうね」


エディーとララが、親らしく礼を述べた。

アレンは軽く手を振って、それに応えた。


「で? その人はいつ紹介してもらえるわけ?」

エディーにそう言われると、アレンは苦笑いしてロッテを前に押しやった。

わざとらしく咳払いして、彼は親友夫婦にロッテを紹介した。


「彼女はロッテ」

「俺のフィアンセです」

エディーとララは、嬉しそうに顔を見合わせた。


「ねーねー」

()()()()って何?」

舌っ足らずな喋り方で、三つ子が聞く。


「フィアンセっていうのは、結婚を約束した相手のことよ」

ララが子どもたちに説明する。

フィアンセや結婚という言葉を改めて聞いて、ロッテは少し恥ずかしそうにしている。


お客の訪問にはしゃぎすぎた結果、3匹の子どもたちはいつの間にか居間で寝息を立てている。

「やっと静かになったわね」

ブランケットを被せてやりながら、ララが息を吐いた。


「春にはまた2匹増えるんだろ?」

「まあね」

「にぎやかになりそうだよ」

エディーは父親の顔でそう言うと、ララの丸みのあるお腹を撫でた。


ふとアレンが見れば、ロッテがどこかソワソワしている。

緊張しているのだろうか。

そう思って、アレンは声をかけた。


「どうかした?」

ロッテは思いつめたようにアレンを見、少し伸びあがってその耳元にポソポソと何か耳打ちした。

その内容に、アレンは思わず噴き出してしまう。


「どうしたの?」

「いや、あのさ」

アレンはなおも笑いながら言った。


「ララのお腹に触ってみたいんだってさ」

「え?」

エディーとララは顔を見合わせた。

ロッテは顔を赤くしてうつむいている。


「ごめんなさい、あの」

「あの、もしよければ」

「もちろんよ、どうぞ」

ララは快諾した。


ロッテは、ララのお腹にそっと手を触れてみた。

最初に感じるのはふんわりとした感触。

次には、ほんの少し力を入れて触ってみる。

それから、上から下へ撫で下ろす。

その手にぴくりとした動きを感じて、ロッテは思わず手を引っ込めた。


「!?」

「心配しないで」

「よく動くのよ」

ララは、自分のお腹を愛おしそうに眺めた。


そのまなざしは、お腹の中にいる双子に向けられているようだった。

ロッテは、その顔を不思議そうに眺めていた。


そのうちに、また三つ子たちが起き出してきた。

彼らの目下のお気に入りはミニカーではなく、父親よりも大きなアレンだった。

あちこちにぶら下がっては、きゃあきゃあ騒いで喜んでいた。


「オレ、ここー!」

「オレもここ!」

「あー、あー!オレも座るー!!」


お茶の時間に出されたクッキーを手に、3匹はアレンの膝を取り合っていた。

椅子取りゲームのような要領で1匹が弾かれ、大騒ぎをしている。


「おいおい、ケンカするなよ」

エディーが言っても、3匹はいっこうに話を聞かない。


仕方ないのでアレンはあぐらをかき、最後の1匹は脚の間に座らせた。

三つ子はそれでようやく納得したようで、ボロボロと欠片をばら撒きながらクッキーを食べていた。


楽しい時間はあっという間に過ぎ、アレンとロッテの帰る時間になった。

三つ子たちは、アレンと別れるのがとても名残惜しい様子であった。


「おじさん、また来てね」

「妹か弟が生まれたら、また見に来てね」

「おねえちゃんも、また遊びに来てね」

口々に、彼らなりの別れの言葉を口にした。


「ロッテはおねえちゃんなのに、俺はおじさんなんだな……」

帰り道、白い息を吐きながらアレンが苦笑いした。


「疲れた?」

アレンに聞かれ、ロッテは首を振る。


「そんなことない」

「とっても楽しかったわ」

そして、小さく笑った。


「わたし、お腹の大きな獣って初めてで」

「初めて触って、何だかドキドキしちゃった」

「柔らかくて、少し硬くて……」

「温かかった」

「あの中に赤ちゃんがいるなんて、本当に不思議ね……」


手をじっと見つめて、さっきの感触を思い出しているようだった。

そして、自分の腹部にもそっと手を置いてみた。


「わたしたちのところにも……いつかくるのかな」


ロッテの言葉は、白い息と共に風に運ばれていく。

その先を、アレンは見つめる。

まだ傍らにはない、彼とロッテの未来。


「楽しみだ」

アレンは笑ってそう言うと、ロッテの手を握った。


*****


そうこうしているうちに、あっという間に大晦日がやってきた。

大晦日には、アレンのうちで鉛を使った占いをやった。


これは年末年始のパーティーには欠かせないもので、新年の運勢を占う楽しいイベントのひとつである。

鉛をスプーンに乗せて蝋燭であぶり、溶けたら冷水に落とす。

そのときの形から、運勢を連想して占う。


「あら、これはハートみたいね」

「新しい恋の予感かしら?」


夫の鉛を見て、アンゲリカは意味ありげに言う。

もちろん、彼が愛妻家なのを知ってのことなのだが。


いよいよ年越しというときに、アレンはロッテと村を見下ろす丘にやってきた。

年明けのカウントダウンがあちこちから上がり、ゼロと共に花火が打ち合がる。

ピューッという甲高い打ち上げ音に、パンパンパンとあちこちで花火が爆ぜる。


そんな騒がしい年明けも、ロッテにとっては初めてのものだった。

隣には、アレンもいる。

思い出はもうもうとした白煙と火薬の臭いに包まれて、ロッテの心に刻み込まれた。

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