チャドス リーベスリーダー/ルームシェア始めました
Chads Liebeslieder
チャドの愛の歌
「ロッテにプロポーズしてOKもらった」
そんなことをぬかすもんだから、ああこいつはきっと薬の副作用で頭がイカレちまったんだなと思った。
*****
アレンが特警部にきて、もうじき1か月になる。
ある日の休憩時間、あいつはそう言った。
プラトニックな関係なのに、婚約だってか?
そう言ってやったら、「そっちはもう解決した」ときたもんだ。
ご丁寧に、Vサインまで付けて。
世の中は、どうしてこうも不公平なのだろうか。
オレは見た目も中身もいいのに、どうしてかメスに縁がない。
アレンは愛想も悪いし、ただデカいだけのやつじゃないか。
いつの間に卒業したか知らんが、ついこの前までは毛むくじゃらの童貞野郎だったんだろうが。
それがどういうわけで、ロッテと婚約なんてことになるんだよ。
おい、ちょっと一度病院行ってこい。
繊細なオレが心の内をさらけ出せる唯一の場所。
オレは、【フェイスブーフ】にログインした。
最近ここで、あるメスと知り合った。
同じユキヒョウで、クールビューティーな雰囲気をまとうクリス。
チャットの頻度や内容からして、おそらくオレに気があるのは間違いないだろう。
『元気?』
ほうら、早速メッセージがきた。
『元気だよ、きみは?』
素早いレスポンス。
これが大事。
それからオレたちは、小一時間ほど会話に熱中した。
オレがアレンの愚痴を書くと、彼女はスマイルマークのスタンプを返してよこした。
『チャドの話、面白くて好き』
はい、好きいただきましたー。
『でもさ』
『その彼がそんなにモテるなら、真似したみたらいいんじゃない?』
彼女の提案は、まったく想定外のものだった。
オレがアレンの真似をする?
気色の悪い話だと鳥肌が立ったが、せっかくクリスが提案してくれたことだ。
騙されたと思って、一度やってみてもいいかもしれない。
*****
「と、いうわけだ」
翌日のランチの時間、オレはメモを片手に早速アレンに挑んだ。
「まったく話が読めん」
オレが説明を端折ったせいで、アレンは怪訝そうに眉を寄せている。
相変わらず、カレーなんか食ってやがる。
カレーと間違えて、ウ●コでも食ってろバーカ。
しかしオレは、メモに『カレーライス』と記入するのを忘れなかった。
どんな些細なポイントも、きっちりコピーさせていただくぜ。
「では、次の質問に移らせていただきます」
教わる側のオレは、やつに丁寧に話しかける。
まったく、謙虚すぎる自分が怖いぜ。
「えーと、キスですが」
「ベロは入れる派ですか、入れない派ですか?」
「キスがねちっこいと怒られたことはありますか?」
「はあ?」
答えたくないのなら、それでもいい。
罪を犯したものにだって、黙秘権はあるのだ。
「では、夜の生活ですが」
「あなたはニャンニャンする派ですか、しない派ですか?」
「俺はイヌ科だからニャンニャンはしねーよ」
「そうですか」
ニャンニャンはしない、とオレはメモに書き込んだ。
「プレイスタイルは、上派ですか?それとも下派ですか?」
「……」
アレンは、石像のような顔をして固まっている。
おやまあ、まだ童貞を卒業したばかりのキミには刺激の強い話だったかね?
答えないまま、アレンは席を立つ。
ランチのトレイを手に、返却口でフローリアンと何か話している。
ハハン、きっとモテパカにどう答えたものか相談してるんだな?
意外とシャイなやつだな。
=====
現実はこうだった。
「なあ、チャドっていつもあんなのか?」
「何か変な質問ばっかされて怖いんだけど……」
「そうなの?」
「まあ、8割方いつもあんな感じだよ」
「マジか……あいつ、例の薬の使い過ぎでどうかなってるんじゃないのか?」
「労災もんだぞ、だとしたら……」
*****
その晩、オレはまたクリスとチャットをした。
『そうなんだ……チャドも頑張ってるね』
文面から、そこはかとなく元気のなさが伝わってくる。
『どうかした? 元気ないね?』
『チャドは鋭いね』
『実はルームメイトが突然出て行っちゃって……代わりを見つけるのが億劫なんだ』
オレははっとした。
おいおい、一番肝心なことを忘れてたぞ。
アレンとロッテも、最初はただのルームメイトじゃなかったか?
そうだ、何はともあれルームシェアじゃねえか!!
『もし相手が見つからなくて困ってるなら……オレが一緒に住もうか?』
いつもは返事の早いクリスだが、さすがに今回はそういうわけにはいかないらしい。
『チャドが、嫌じゃないなら……』
画面の向こうで、赤くなった頬を両手で包んで胸を高鳴らせているクリス。
そんな彼女が、手に取るように分かるぜ。
*****
こうして、オレたちはルームシェアをすることになった。
まずはお試しでということにしたので、オレの元の部屋はそのままにしておいた。
オレはアレンと違って、ガツガツ攻めるガチの肉食獣だぜ。
クリスと発展するのも、時間の問題だな。
「おい、大丈夫か」
ルンルン気分でいたオレの邪魔をするのは、すっかり悪獣ヅラになったアレンじゃないか。
「大丈夫って、何がだよ」
「ずーーっとニマニマしてるだろ」
「気味が悪すぎる」
気味が悪い?
へっ、おまえがよく言うぜ。
ロッテとのことを思い出し笑いしてる、ムッツリ変態野郎はどこのどいつだっつうの。
「そういや、ロッテの反応はどうだったんだよ?」
「その剃り込み頭」
オレは気味が悪いと言われたニマニマ顔で聞いてやった。
「ふっ……」
「カッコいいってさ」
アレンは、珍しく勝ち誇ったような笑みを浮かべやがる。
「当てが外れて、おあいにく様だな!」
最後には、べーっと舌を出しやがる。
すごくムカついたが、部屋に帰ればクリスがいることを思い出し、オレはまたニマニマに戻ることにした。
*****
「そんでよ、めっちゃムカついたってわけ!」
「楽しいんだから、ニマニマもするってなあ?」
家に帰って、ソファでビールを飲みながらクリスに昼間の話をする。
彼女はクスクスと笑いながら、楽しそうに聞いている。
「ほんと、チャドの話は笑えるよ」
目に溜まった涙を拭い、クリスはなおもおかしそうに言う。
ああ、いいなー、こういうの。
やっぱルームシェア最強だな。
「ところで……さっきの」
「ん?」
「一緒にいるの、楽しい?」
クリスは、少し酔っているらしい。
少し赤くなった目で、オレを見つめる。
オレはごくっと唾を飲み込み、続けた。
「そりゃ、楽しいよ」
「好きなやつと一緒に暮らすのは……」
言った。
言ったぜ、オレは。
どうする? クリス……。
クリスは、すっと目を閉じた。
それが何の合図なのか、オレには分かる。
ビールの瓶をテーブルに置いて、オレはクリスにキスをした。
今しがた飲んだ、ビールの味。
それが生々しくて、どうにも興奮してしまう。
体の関係には、押しも大切だと思う。
彼女が恥じらって嫌がるようなら、いっそグイグイ攻めてやろう。
クリスはもう、オレなしじゃ生きられなくなるぜ。
キスをしたまま、オレとクリスはソファに倒れ込む。
お互いの吐く息が熱い。
オレは彼女の体に今すぐ触れたくて、服の上からあちこちを触る。
「せっかちだね」
彼女はそう言って、オレの手を自分のジーンズの中に誘い込む。
おいおい、いきなりこっちかよ。
同じユキヒョウだけあって、彼女もなかなかに肉食系だな……。
ジーンズの中は、柔らかくて温かかった。
久々の、メスの温もり……。
感動してまったりしていたら、次第に柔らかさが失われていくのに気付いた。
あれ、何これ。
この、棒みたいなの……。
オレは、即座にその何かをつかんだ。
「ほんとせっかちだね……」
クリスが悶えた。
*****
「チ●コ付いてた」
「何だよ、それぇ」
フローリアンは、信じられないという顔をしている。
オレだって、信じられない。
「チャドでOKだったってことは、その彼はゲイだったの?」
「正確には、バイだ」
「チャドってば……普通気付かない?」
「気付かねえよ、あれは! クールビューティーで、ハスキーボイスだと思ったんだよ」
フローリアンに訴えながら、オレはふと思った。
「おい、このことは絶対アルに言うなよ」
「あいつに知られたら……」
そこまで言ったとき、目の前のフローリアンがオレの頭上を指している。
何だよと思って振り返ると、そこにはあいつがいた。
ランチのトレーを手に、アルは無表情でオレを見下ろしている。
チッ、軽蔑でも何でもすりゃいいさ。
あいつは何も言わずに同じテーブルに着いた。
おい、またカレーかよ。
「またカレーだね」
そういうフローリアンを尻目に、アルはカレーを一口頬張った。
口を動かしていると思ったら、急に噴き出す。
「ちょっと、アルー!」
「何だよ、きったねえな!」
「わ、悪い……」
そう言って口を押えたあいつは、体を小刻みに震わせている。
「アル……もしかして笑ってる?」
「はあ!?」
オレは驚いてアルを見る。
くふ、くふという笑い声を噛み殺す音が、時おり口から洩れていた。
「……アルがこんな風になるの、ぼく見たことない」
フローリアンも、口をあんぐりと開けている。
その後しばらく、アルのやつはなかなかカレーを食べられなかった。
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おまけ
うん、ベロは入れる派だな。
ロッテにキスをした後、アレンは唇を舐めて思った。
「どうしたの? 難しい顔して」
「え? あ、いや……」
もうひとつ気になったことを、アレンはロッテに聞いてみようと思った。
「あのさ」
「俺のキスってねちっこい?」
「はあ?」
ロッテも、さすがに困惑した。
くそ、チャドのやつ。
あいつがあんなことを聞くから……。
珍しく、八つ当たりをしてしまうアレンなのだった。




