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ノイエ アルバイト2/歓迎会

「アルーー! やっと来たね!」

「おう、これから頑張れよ!!」


翌日は朝からうるさかった。

ついにフローリアンとチャドと顔を合わせたアレンは、彼らから大いに歓迎されたのだった。

新しい仕事を任される不安は、しかしいくらか和らいだ。


朝礼でドミニクが話したことによると、アレンは当分の間は訓練に専念することになるらしい。

しっかりと基礎を固めてから現場に放り込むつもりだと、彼は高らかに宣言した。

それはそれで、アレンにとってもありがたい話ではあった。


「話は以上だ」

「今日は特に現場での任務はない」

「新入りを()()()()やるんだな」


ドミニクは意味ありげにそう言うと、書類の積まれたデスクに戻っていった。

訳が分からずアレンがボーッとしていると、その両サイドをフローリアンとチャドが挟んだ。


「さ、行こうか?」

フローリアンがにこやかな顔で言う。


「どこへ?」

「シャワー室だよ」

チャドもニヤニヤしている。


「はあ?」

アレンはグイグイと引かれながら、他のメンバーも連れ立ってシャワー室に向かった。


アレンは、パンツ1枚でシャワー室の椅子に座らされている。

彼の座る椅子の下には、ブルーシートが敷いてあった。


「何が始まるんだよ」

状況がまるで飲み込めないアレンは、少し不安になった。


「大丈夫、大丈夫」

「新入りはみんなやることだから」

フローリアンは手をひらひらとさせてそう言った。


「さ、とっとと始めようぜ」

「こいつ、体もデカいし毛も多いからな」

そういうチャドの手には、電動のバリカンが握られていた。


「ちょっと……何だそれ」

アレンはたじろいだが、助けてくれるものは誰もいなさそうだった。

中には、スマホで動画の録画準備をしているやつさえいる。


「ではみなさん、始めまーす」

チャドが明るい声で言い、バリカンが静かに唸り出した。


「ちょっと、待っ……」

「アル、動くとハゲちまうぞ」

ヴィイイイイイイイーン……。


*****


ブルーシートの上には、黒みがかった灰色の毛が束になって落ちている。


「あー、やっぱ疲れたわ」

「毛多すぎだぞ、テメー」

バリカンのスイッチを切り、チャドが汗を拭う。


「はい、こんな感じでーす」

フローリアンが、アレンに鏡を渡した。


「おいおい……」

そこに映る自分を見て、アレンは愕然とした。


どちらかといえば長めだった体毛は、全体的に短く刈り込まれている。

特筆すべきは、その頭部であった。


サイドは短くなってバックにだけ元の毛が残してあり、まるで馬のたてがみのようになっている。

サイド部分には、ご丁寧に模様が剃り込んである。

一見するに、かなりガラの悪そうなオオカミになってしまった。


「何だよ、コレ……」

刈った毛は戻ってこないが、アレンは一応不満をぶつけてみた。


「何って、これがうちの通過儀礼なの」

「アレン、カッコよくなってよかったじゃん」

フローリアンは、何ら悪びれることはない。


アレンは、鏡の中で睨みをきかせてみた。

凶悪な顔がそこにあり、ロッテがこれを見たらどう思うだろうと不安になった。


「冗談はさておき、これってけっこう理にかなってるんだよ」

「本当かよ」

「ほんとほんと」


「これからは訓練後にしょっちゅうシャワーを使うだろうし、毛が長いと面倒でしょ?」

「顔で怖がらせるっていうのも、実は警備テクニックのひとつなんだから」

「まあ、抑止力? みたいな?」

フローリアンはそう説明したが、アレンはどこか釈然としなかった。


「そういうこと」

一仕事終えたチャドは、満足そうな顔をしている。


「しっかし、おっかねえ面になっちまったなー」

「誰のせいだ、誰の」


「これじゃあ、ロッテが怖がって近付かなくなるかもなあ~」

アレンの一番痛いところを、チャドが容赦なく突いてくる。


「え? ロッテって?」

事情を知らない同僚たちが、興味ありげに群がってくる。


「あー、もう!」

「また説明するから!」

アレンはどっと疲れが出た。


その日の夕方、アレンは私服のフードを被って帰宅した。

ゆっくりとドアを開けて玄関を確認すると、ロッテはまだ帰ってきていないようだった。


こんな自分と鉢合わせしたら、ロッテは腰を抜かすかもしれない。

そう思ったアレンはそそくさと部屋に入り、支度をしてシャワーを浴びる。


フローリアンの言ったことは、とりあえずは正解だった。

アレンは、シャワー後の体の水切れがいいのに気付く。


以前はぶるぶると体を振って、まず大まかに水分を取り除かなければならなかった。

シャワー中にも抜けた毛で排水溝が詰まるし、それを取りつつの浴びるのは大変だった。


はたき落とした毛の残りはあったが、それでも今までとは全然違った。

アレンは、少し気を持ち直した。


そんな思いも、鏡を見たときには再びどこかへ行ってしまった。

特に、サイドの剃り込みがいただけない。


チャドのヤツめ……。

アレンは牙を噛みしめた。


ロッテにはどう説明しよう。

そんなことを考えながら、ズボンだけ履いてバスルームを出た。


そこで、ロッテと鉢合わせした。

彼女が帰ってきたのに、シャワーの音で気が付かなかったのだ。


「アレン……」

次に何か言おうとしたようだったが、ロッテは固まった。


全体的に毛が短くなって、おまけに頭はガラの悪いモヒカンスタイルだ。

いつも通りに接してくれというほうが、無理な話というものだった。


「何か……痩せた?」

彼女の精一杯のフォローだろうか。


「いや、痩せてはない……」

「仕事に支障が出るから、毛を剃ったんだよ」

とりあえず、そういうことにしておいた。


ロッテは、黙っている。

黙って、じっとアレンを見ている。


さあ、次はどうする?

急に涙をためて後ずさりでもされたら、俺はしばらく立ち直れそうにない。


「……いい」

ロッテはぼそっと呟いた。

依然として、その澄んだ瞳はアレンをとらえている。


「何て?」

「いいよ、すっごくいい!」

今度は、はっきりとそう言った。


「いいじゃない、カッコいいよ」

目をキラキラと輝かせて、頬もほんのりと赤くなっている。


「え、いいの?」

「怖くない?」

「うんうん」


予想と180度違う反応をされ、アレンは肩透かしを食らった。

彼が考えを整理している間にも、ロッテは彼のあちこちを観察している。


そして最後には正面に回り、やっぱりじーっと見つめてくるのだった。

夢見る少女のような瞳で。


「そんなによかった? 見とれるくらいに?」

「うんうん」

恥ずかしがることもなく、ロッテは言う。


「でもさ、ちょっと見すぎじゃない?」

「いいじゃない、減るもんじゃないし」


ロッテはお決まりのセリフを口にし、なおもアレンを観察している。

その嬉しそうな様子に、体が温まる気配を感じる。


「じゃあ、そういうことで」

彼はそう言うと、ロッテを担ぎ上げた。


「何? 何?」

ばたばたする彼女を、今は共同の寝室と化している自分の部屋に押し込んだ。

バタンと閉じられたドアの中からは、じゃれ合うアレンとロッテの声が聞こえる。


ああ、シャワーを浴びたのにまた汗かくなあ……。

アレンはふと思った。


しかし、短い毛ならまた浴びればいい。

そう思い直して、ロッテとの()()()()に集中することにした。

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