表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/46

グリューエン/肉を食うものの逆襲

glühen


赤々と燃える


ほっとして、ロッテは目を閉じた。

意識が、急速に遠のいていくのを感じる。


後ろ手に縛られ、傷だらけの体を晒して、ロッテは床に横たわる。

アレンは心臓を鷲掴みにされるような気持ちになって、彼女の頬をそっと撫でた。


着ていた上着を彼女に被せ、そのまま抱いて部屋の隅に寝かせた。

彼には、まだやることがある。


噛みしめた牙の間から、シューッと息が漏れる。

アレンは、生まれてから経験したことのないような怒りを覚えていた。


もし、彼女を傷つけるものが目の前にいたとしたら?


アレンは、自問した。

答えは、ひとつだった。


軽く床を蹴って、アレンは走り出す。

広げたその手が、壁際に身を寄せたブタの1匹をとらえる。

壁に押し付け、力任せに喉を締め上げる。


呼吸のできないブタは、大きな体をばたつかせて抵抗をする。

しかし、それは肉食獣の圧倒的な力の下ではまったく意味をなさない。

アレンは、力の限りにブタを締め上げる。


口から溢れた泡が手に流れ落ちても、彼はいっこうに力を緩めなかった。

やがて、壁に吊り下げられるようになっていた巨体が脱力する。


喉を締められたブタは失禁し、意識を失った。

生きているか死んでしまったのかは分からない。


締め上げられた兄弟を見て、残りの2匹は恐怖した。

だらんとした弟を床に投げ捨て、大きなオオカミが向き直る。


アレンは、決して牙をむき出して怒りを露わにしていたわけではない。

そんなレベルは、とっくに過ぎていた。

彼の感じる怒りは、高い温度で炎を上げずに燃える鉄のようであった。


「と、当然のことだろう!?」

2匹のうちの兄が、アレンに向かって叫ぶ。


「彼女らは弱い! だから食い物にされるのだよ」

「かつての私たちが、人間に食われる生き物だったように」

彼の主張は、理にかなっている。


実際、今の人間たちの境遇がここまで悪いのは、大昔に彼らが起こした愚行の裏返しなのだ。

かつて人間は力があったので、獣たちを痛めつけた。


今は獣たちが力を持ち、人間を痛めつける。

しかし、アレンにとってそんな理屈はどうでもよかった。


「じゃあ、文句は言えないな」

「力のある俺が、おまえらを食い殺しても」


アレンの揺るぐことのない視線が、ブタに突き刺さる。

彼らは改めて思い出す。

自分たちは、獣の中にあっても食われる存在であったということを。


「覚悟しろ」

「グズグズに解体してやる」

ふらりと体を揺らして、アレンは言い放った。


一番下の弟に続き、次は次男が餌食になる。

しかし、彼はもう抵抗の声すら上げていない。


顔の形が変わるほどに殴られ、今は静かに床に横たわっている。

アレンは顔に飛んだ返り血を手の甲で拭うと、最後の仕上げにかかろうと立ち上がる。


ロッテを探すために打った薬剤の影響もあるのだろうか。

アレンは何のためらいもなく、次々にブタたちを打ちのめしていく。

普段の温和な彼からは、想像もできない暴力性が体中にみなぎる。


チャドの言う、脳のリミッターが外れるとはこういうことなのか。

アレンは自分を冷静に分析した。

彼は野性に戻りつつあった。

ただ本能のままに攻撃し、そして食らう獣に。


一番上のブタは、今まで感じたことのない恐怖を覚えた。

この獣は、間違いなく自分を殺そうとしている。

そのあとどうなろうと、まったく意に介していない様子だ。

彼は、ただ私を解体したがっている……。


彼の考えは正しかった。

もう脚も立たずに床に座り込むブタを、アレンは冷えた目で見下ろす。

すっと腕を伸ばし彼を突き飛ばすと、その巨体に馬乗りになった。


シャツを破ると、その丸々と醜く太った腹を露わにさせた。

その肉に、爪を突き立てる。

ロッテの背中の傷のように、こいつに爪を立てたらどうなるだろう?

アレンはその先を想像して、無意識に笑みさえ浮かべていた。


*****


部屋中に響く叫び声で、ロッテの意識は呼び戻された。

横たわる彼女の視界に、変わり果てた姿のブタが映る。

そのブタから体を起こしたあれは、一体誰だろう。


ロッテには、アレンの姿が見えていた。

しかし、あれは彼ではないような気がした。


圧倒的な力で、力のないものをひねり潰すそのオオカミは、とてもアレンには見えなかった。

彼は、最後のブタを始末しようとしている。

ロッテは、直感的にそう察した。


体はガタガタで、まるで力が入らない。

しっかりするのよと、叱り飛ばす。

足を踏ん張り、彼女は何とか立ち上がる。

出せる限りの速さで、ロッテはアレンの元へ向かった。


*****


爪が、ブタの腹に食い込む。

ヒイヒイと、その体の持ち主は喘いでいる。


腹を引き裂いたら、手を突っ込んで臓物を引きずり出してやる。

アレンの頭に、そんな考えが浮かぶ。


彼はさらに体重をかけて、その爪を腹にめり込ませた。

破れた皮膚から、温かな体液が溢れるのを想像して。

その刹那、アレンは背中に小さな衝撃を感じた。


「アレン、だめ……」

残った力を振り絞って、ロッテはアレンに体をぶつけた。


それそのものに、彼を退けるほどの力はない。

しかし、アレンははっとした。


「だめ、だめ……殺しちゃ、だ、め」

ロッテは途切れ途切れに言葉を振り絞り、アレンに懇願した。


ロッテは思った。

彼に、ブタを殺させてはいけない。


あいつらを殺したら、彼はこの先ずっと苦しむことになる。

わたしの体を見て、手にかけた生き物のことをきっと思い出す。

優しい彼は、きっとどこかに行ってしまう。


ロッテは、何も言わずにアレンに体をぶつけ続けた。

「もういいから、早く、うちに連れて帰って……」

最後にそう言うと、とうとう力尽きて床に倒れた。


アレンは、ようやく我に返る。

爪は、あと一歩でブタの腹を突き破るところだった。


早くなる呼吸を何とか抑えながら、アレンはブタから離れた。

ブタはなおもヒイヒイと喚きながら、そこに転がっている。


意識をなくし、床に倒れているロッテ。

アレンは、その傍らにへたり込んだ。


鼻の奥に違和感を感じ、手の甲で拭うと血が付いている。

耳の辺りからも、血が滲み始める。

薬の効果が切れるらしい。


俺は、ロッテを守れたのだろうか。

アレンは自分に問いかけた。


まだだ、まだ立っていなくてはいけない。

そんな思いとは裏腹に、意識は暗闇に引きずり込まれていく。


ようやく起き上がったブタが、アレンとロッテの背後に立った。

アレンはそれを視界の端にとらえたが、体は言うことを聞いてくれなかった。


*****


ぼんやりとした光の中で、ロッテが笑っている。

長い髪を揺らして、アレンに微笑みかける。


その手を握ろうとして、彼は手を伸ばす。

手と手が触れるかどうかというとき、ロッテの背後に黒い影が現れる。


アレンは、彼女手をつかむことができない。

ロッテは、そのまま黒い塊に飲み込まれていく。


あれは何だ?

いや、あれは誰なんだ?


黒い塊は、だんだんとはっきりとした形を表す。

やがて、大きな1匹のオオカミになった。

それは、アレンだった。


黒いアレンは笑って、ロッテに容赦なく爪を突き立てる。

やめろと叫んでも、声が出ない。


やめろ、やめろ、やめろ、やめてくれ。


彼女の体を抱くように、オオカミは爪を走らせる。

ロッテはのけ反り、苦悶の叫びを上げる。

頼むから、やめてくれ……。


ロッテを引き裂いたそれは、アレンが心に飼う獣だった。

かつて人間の子に言い放たれたあの言葉。


いきものの肉を食う、きたない獣。

命をたやすくもぎ取ることのできる、長い爪をもった獣。


引き裂かれたロッテに手を伸ばし、アレンは目覚めた。

宙に掲げられたその手には、点滴の細いチューブがつながっている。

アレンは、病院のベッドで目を覚ました。

いつも長々と読んでいただき、ありがとうございます。


ここで書くことではないかもしれませんが、1点。

あらすじや前書きに、わたしはドイツ語単語を使っています。

それを「分かりにくい」と不快に感じておられる方もいるかと思います。


指摘を受けるまで特に考えはなかったのですが、明らかな自己満足でしたね。

それに気付きはしましたが、書き溜めた分はこのままのテイストで載せていこうと思います。

ちなみに、既にラストまで書き上げてあります。


この作品はまだ終わっていませんが、次回何か書くことがあれば、より読者の方に楽しんでもらえるような作品を書きたいと思いました。


書き終わってみると、ますますここで書くことではなかったように思います。

とはいえ、今この時点での素直な感想なので、あえてこちらに書かせていただきました。


こんな私と作品ですが、もし好意を持って読んでいただけているなら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ