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茶吉の日常

ダイリーグ

作者: 茶吉

現役最年長の選手としてギネスに認定された茶吉は今も横浜マリナーズで投げ続けている。

手のひらの面積と指の長さとの絶妙な比率によって生み出されるスピンは独特で、ボールがバットに当たる直前にフワリっと持ち上がる。この誰にも真似できない名人芸のおかげで茶吉は8回裏、おさえの場面にだけ登場する投手だ。

そんな茶吉に大リーグからオファーが来た。娘も妻も新しいことを始めて楽しそうにしているのを見て、茶吉も思い切って環境を変えてみようとオファーに乗ることにした。

ロサンゼルス空港に迎えに来てくれたのは金髪で碧眼の男性マネージャーだった。「普通でしたらプールつき豪邸をご用意するところですが、茶吉さんはおひとり暮らしということですし、セキュリティーのうえでも都合が良いのでこちらのマンションをご用意いたしました。屋上には茶吉さん専用のプライベートジェットが24時間待機してございます。」と言う。球団が用意してくれたのは40階建てビルの最上階のペントハウスで眺めは最高だ。

マネージャーは24時間貼り付いて、あれやこれや世話を焼いてくれる。缶ビールのプルタブでさえ、指を怪我してはならないと、茶吉に開けさせない。もちろん通訳からコンシェルジェの代わりまでする。すべての面倒を見てくれるのだが、ちと過保護が過ぎる。ライバルの球団が握手会に炭疽菌を塗りつけた手で来たり、病気持ちの売春婦を寄越したり、ファンとのふれあいは危険がいっぱいです。とマネージャーは力説するが、あれも危ないからしちゃダメこれも危険だからダメ、と、全然おもしろくない。

試合がある日だけ、茶吉は屋上からプライベートジェットで球場へ連れて行かれ、そこそこ投げたらすぐ帰宅させられ、外へ飲みにも行かせてもらえないどころか缶ビールもマネージャーが買ってきてしまい、いつも冷蔵庫は満杯だ。週2回ほど試合に出て投げるだけで後はずっとペントハウスに閉じ込められて引きこもり生活だ。せっかくロサンゼルスにいるんだからビーチでビールでも飲みたいよ。とマネージャーに愚痴ると、「かしこまりました。ビーチですね。それでしたらバハマに球団が所有する島がございます。美しいプライベートビーチです」よし!そこだ。直ちに出発だ。とプライベートジェットでやってきてみたら、眩しい太陽にエメラルドグリーンのサンゴ礁に豪華なホテルだが、人っ子一人いない。いるのは働いているドアーフ族のメイドたちだ。傘のついたカクテルやフルーツを持ってきたりあれこれ世話を焼いてくれるが、思ってたのとなにかが違う。「ビーチと言えば金髪ビキニのお姉ちゃんがのしのし歩いているもんでしょ」と茶吉が文句を言うと、かしこまりましたとマネジャーが電話で指示を出している。するとドアーフ族のメイドたちがビキニに着替えてぞろぞろとビーチを歩き回ってくれるのだが、「そうじゃなくてダンサーの人間のお姉ちゃんを見たいんだよ」と文句を言うと、「かしこまりました。ではラスベガスにお連れいたします。」とまたプライベートジェットに押し込まれてすぐにラスベガスに着くのはさすがだ。そしてその店もおしゃれな内装で映画そのままだ。これぞまさに思い描いていたパブだ。張り切って茶吉が入店しようとすると、「専用のVIPルームのご用意がございますから」と連れ行かれた2階の部屋はガラス張りで会議でも開けそうな広さがあり、そこから眺めるポールダンサーたちは1階のフロアで踊っているためバービーにんぎょうほどの小ささで、こんなんじゃテレビで観た方がマシじゃあないか!「もっと近くで100ドル札を挟んであげたいんだよ」と文句を言うと「それは契約上できません。ですがハグをしたいとおっしゃるのでしたら良い所にお連れしましょう」とマネージャー。またもプライベートジェットに押し込まれ、向かった先はゴシック様式の大聖堂「ここは孤児院で子供達はみんな大リーガーと会えるのをたのしみにしていたんです。」とマネージャー。子供達がわーいと寄って来て抱きついたりぶら下がったりしている。

契約、契約 ってホント腹立つよな。こんな契約内容、まるで奴隷売買契約じゃないか。しかもこんな契約書にサインしてしまったのが自分だと思うと、いくら英語にコンプレックスを感じていたはいえ、いくら大リーグに舞い上がっていたとはいえ、情けないよなぁ。とへたり込む茶吉に、マネージャーが、

「はいそれが奥様との契約でございます。」

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