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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神と楽しむ異世界ライフーその後の日常ー

作者: 真むらさき

 今日も天気がいい。

 澄み切った青空、そよぐ気持ちのいい風、日も高く昇り、綿のような雲が幾つも空を漂っている。

 喉かなレムルの森は、いつもと変わらない。

 住み着いた住民たちは、みんな気さくで明るく、いつも笑顔を絶やさない。

 みんな住み馴れてきたのか、行きかう人たちも顔馴染みになっているようで、挨拶を交わしている。

 これも代表者を始めとする理事の方々のお陰だな。

 うんうん、いい事だ。この調子で頑張ってもらおう。

 でも、面倒事を引き受けてくれているから、その対価に値する何か褒賞とか考えないといけないのかな。特に言ってきてはいないけど、これは課題にしておこう。


 そんなのどかな麓の居住区とは裏腹に、裏手にあたる頂上付近の鍛錬場では今、爆炎、爆風、雷、吹雪と目まぐるしく変わる凄まじい世界となっている。

 戦場? 異常気象? いえ、単なる手合せと言う鍛錬です。

 その中で、手合せしている一人と三人。そう、邪王、ゼグ・リコッサザニエとフォックスピープルのハーフ、ファルタリア、樹海の魔女、サリア・ヴァリシッサ、唯一の人族、ルージュ。

 みんな楽しそうに遊んでいる。いや、手合せしている。全員、爆風で髪の毛をなびかせながらね。


「くっそー。まだダメかぁー。アハハー、たのしいー」


 今、邪王リコの相手をしているのは、ファルタリア。

 美しい笑顔だが、その動きは凄まじく一段と磨きがかかり、バトルアックスを片手に持ち、受け、避け、踏み込んで、と数人のファルタリアが出現しているまでに進化している。


 少し離れて見ているサリアとルージュは、既に終わっていたので、つまらなそうだ。

 ――そして決着がついた。


「はい、リコちゃん。今日はこれでおしまいですよ」

「うん、たのしかった。ファルおねーちゃん。サリアおねーちゃん、ルージュおねーちゃん、またねー。アハハー」


 手を振り、艶やかな黒髪をたなびかせ、屈託のない可愛い笑顔で走って帰って行った。世の中では恐れられている邪王リコなのに。

 鍛錬場の先にある畑では、今もデスナイト二体が、毎日畑を耕している。

 疲れを知らない、睡眠もいらないデスナイト。


 ――一体欲しいと思うのは俺だけか。


 その畑の先にある岩壁にダンジョンを作り、当たり前のように住み家にしている。

 ファルタリアたちは手慣れたもので、邪王の強さに勝っているので、気になどしていないし、時折、鍛錬後に仲良く、邪王リコの家の幻想的な風呂に一緒に入っている。

 サリアが言っていたが、リコの家が、このほど完成したそうだ。

 今度泊りに来て欲しいと言っていたらしいが、やんわり断ろうと思う。


 レムルの森は今ものどか、なのだろう。

 ――多分。


 今日はコーマがお勤めでいない。

 午後の昼下がり、特にする事も無かったので、我が家の居間でくつろいでいたら、椅子に座って妖精の果物を食べていたファルタリアが、思い出したように立ち上がり、笑顔で俺に振り向き、大きな毛並みのいい尻尾を揺らし、三角の耳を、ピコピコ、させる。


「ラサキさん。今度リコちゃんを家に招いて一緒に夕飯食べませんか?」

「ん? いいよ。前にも呼んだこともあるし、好きにすれば? で、今度その料理は誰が作るのか?」


 揺らしていた尻尾が突如止まり、真顔になる。


「ええぇ? ラサキさんが作ってくれないのですかぁ?」

「ファルおねーちゃん。が思いついたのだから、やはりもてなすファルおねーちゃんが作らないといけないだろ」


 艶やかな毛並みで膨らんでいる尻尾が、項垂れるようにしぼんで、耳も垂れ下がり、何をするのかと思えば、すがり付いて来た。


「冷たい事言わずに、作ってくださいよぉ。ラサキさーん」

「挑戦してみたらいいよ。結構、美味しく作れるかもよ?」

「ええぇ? 私は無理ですぅ、絶対無理ですぅ。ラサキさーん、お願いしますよぉ」


 懇願しているし、余り無理強いしても可哀そうかな。それに料理は嫌いじゃないからね。

 でも一応、嫌々やる事にしようか。


「ハァ。仕方ないな。いいよ、俺が作るよ」

「あー、ありがとうございます。こんなにいじめるなんて、ラサキさんは相変わらず、私の事スキスキですね。いいですよ、いいですよ、抱きしめますからこの胸に飛び込んで来てください」


 一歩下がり両手を広げ、豊満な二つの実を張り、尻尾と耳が生き返ったファルアリア。

 さっきまですがり付いていたのに、何言っているんだ?

 そう言う俺も、いつもの事で慣れているんだけどね。

 これも見慣れた光景、そして楽しい毎日。


「でしたらボクが作りますよ?」


 ファルタリアが、ハッ、とルージュに振り返り、仁王立ちになる。

 片手を腰に当て、軽く前かがみになって、片手で人差し指を立て小さく横に振る。


「ルージュ、それを言ったらダメですよ。それでは私とラサキさんの愛の駆け引きが出来ません」

「何だ、ワザとかよ」

「違いますよぉ。でもこの話は横に置いといて」


 ファルタリアは、両手で無い荷物をどける仕草をする。


「久しぶりに手合せしませんか?」


 は? 話しがぶっ飛んだぞ? 誘うリコは蚊帳の外でいいのか?

 ――いいや、気にしないでおこう。


「まあ、久しぶりだからいいけど」


 俺の一言で、無関心で椅子に座り、浮いた足を揺らしてそっぽを向いていたサリアが振り向き食いつく。


「そうかや、あたいもやるがや。楽しみがや」


 ルージュも、たわわな破壊兵器を揺らし嬉しそうだ。あ、失礼、勝手に揺れるんだったね。


「うわー、久しぶりです。ボク、もう緊張してきました」

「え? 俺とファルタリアだけじゃないのか?」

「ダメがや。あたいも手合せするがや」

「ラサキさん、酷いですよ。ボクもお願いします」

「ああ、わかったよ。三人ともね、了解した」


 あー、これでフラグが立った気がした。鍛錬場で手合せするのだから、邪王リコも参戦しそうな雰囲気だ。

 ――いいけどさ。

 でも、リコがやりたいと言い出したら、初の手合せになるのか。気を引き締めよう。


 三人は、久しぶりの手合せに喜んで、ファルタリアはバトルアックスのバトちゃんの手入れを始め、バトちゃんしっかりね、とか言っているし、サリアとルージュはテーブルに相対し座り、俺と自身を果物で見立て、上に横にと動かし、ブツブツ、言いながら仮想戦闘している。

 余りにも熱心なので、少し怖く感じたよ。

 ――もしかしたら、勝てないかもしれない。


 日も傾く頃、コーマがお勤めから帰って来た。相変わらず美しく、可愛い笑顔で両手を首に巻きつけてくる。


「ただいま、ラサキ……んー」

「……お帰り、コーマ」


 しばしイチャこきました。


「さて、夕食を作ろう」


 キッチンに立てば、ルージュが来る。


「ボクも手伝います」


 下処理は一緒に行い、他愛もない話しをしながらの作業なので、隣のルージュも嬉しそうだ。

 そして俺が肉野菜炒めを作り、ルージュが盛りつけテーブルに運ぶ。

 最近では、これが日常になっている。

 楽しく談笑しながら美味しく食べ、その流れで風呂に入り、三人が、ちんこの歌、を輪唱して、聞きたくも無いけど聞こえるので、聞きながら温まる。

 コーマも隣で、聞いているのか、笑みを浮かべ楽しそうに温まっている。

 しかしながら、こう、いつもいつも、毎回毎回、歌っているけど、飽きないのか?

 それも一曲だけだし、ちんこが気に入ったのなら新しい曲とか作るのが普通じゃないのか? 作ってほしくはない、作ってほしいなどと思わない、けど何故作らないのかが解せないでいる。

 少しだけ聞きたいな、と思った、けど、今では強い嫁になっているし、藪蛇になりそうだし、逆に言いくるめられそうだから、やめておこう。

 そして仲良く就寝。


 翌日。

 俺が眼を覚ますのに合わせ、引っ付いているコーマも眼を開ける。


「おはよう、ラサキ……ん」

「ん……おはよう、コーマ。こんな毎日でいいのか? 俺の好き勝手にしているけど」

「うん、いいよ。私も楽しいしね。ウフフ」

「ならいいんだけどさ。でも不満があったらいつでも言ってくれよな。俺も空気読めないからさ」

「ウフフ。いいのよ、ラサキの好きにして……んー」


 ――いい嫁だよ、うん。

 そんな会話をしていたけれど、他の三人は既に目が覚めていたようだ。

 まだかまだか、と目を瞑りながら待っていたみたいだね。

 で、コーマが起き上がり離れると、すかさずルージュが覆いかぶさるように口づけして来た。

 あー、破壊兵器のタユンが変形して凄い事に――いや、見ていない、決して。


「んー。おはようございます」

「おはよう、ルージュ」


 あっ、と言う間の出来事で、してやられたファルタリアは、一瞬、苦悶の表情を浮かべたけどすぐ直り顔を近づける。


「ラサキさん、おはようございます。んー」

「おはよう、ファルタリア」


 位置的にいつも不利なサリアは、自覚しているのか、最後でいいのか、余裕なのか、ゆっくりと股間から這い上がって来た。

 俺的に見たら不利には見えないけど――一番密着度があるし。


「おはようがや。んー」

「おはよう、サリア」


 三人が狩りに出かけない時は、こうしていつもと変わらない朝を迎えた。

 朝食を食べ、一段落し、装備したファルタリアたち三人は先に家を出た。

 全員、気合が入っているオーラを感じたよ。

 でも、コーマが妖艶の笑みを浮かべ襲ってきたので、しばしイチャこきました。

 散々イチャこいて気が済んだコーマは、口づけしながら消える。


「楽しんでね。ウフフ」

「ああ、ありがとう」


 そして俺も装備して家を出る。


「さて、行こうか」


 森の小道を抜け、妖精のレズリアーナさんたちに任せている畑を横目に通り過ぎ、鍛錬場に出向いた。

 その先には、正義の味方の如く三人が、無言で仁王立ちして俺を待っていた。

 今日の俺って悪者扱いなのか? まあ今更気にしても仕方がないので歩み寄る。

 ん? リコはいないようだね。

 そう言えば、リコを家に呼ぶって言っていたけど、どうしたのだろうか。

 まあいいや、ファルタリアに任せよう。


 代表するようにファルタリアが、両手を腰に当てていたけど、毛並みのいい尻尾を振りながら、片手を俺に向け指を差す。


「今日こそはラサキさんに勝ちますよ。覚悟してくださいね」


 サリアは両手を腰に当て、可愛い胸を張る。


「あたいも勝つがや」


 ルージュは両腕を、きつそうに組んで胸を張る。


「ボクも負けませんよ」


 うわっ、凄い強気だよ。俺も気を引き締めよう。

 三人と一〇mほどの距離で向き合う。


「俺はいつでもいいよ。誰から始める?」


 事前に決まっていたのか、可愛い耳を、ピコッ、とさせながらファルタリアが一歩前に出る。


「私から行きます」


 いつになく、緊張し真剣な表情のファルタリア。

 おいおい、やる気じゃなく殺気を放っているんだけど、そこまでするのか? 参ったな、気を抜いたら殺されかねないから、俺も緊張感を持ってしっかりやろう。

 俺とファルタリアは、鍛錬場の中央に移動し、サリアとルージュはその場で観戦する形になる。

 そして相対する、バトルアックスを構えるファルタリアと剣を中段で構える俺。


「ファルタリア、いつでもいいよ」

「はい。では行きます」


 刹那、ファルタリアが三人に分裂して俺を襲う。二人は残像なのに、当たり前のように攻撃してくる。

 初っ端から出鱈目だろ。

 バトルアックスが唸り、風切音まで出る程の、怒涛の連続攻撃だった。

 この馬鹿力から発揮される力強い撃ち筋。この破壊的攻撃は、誰も太刀打ちできないよ。

 受ける剣との重厚な激しい金属音が、山々に響き渡る。

 だがしかし、悲しいかな、三人のように見えても攻撃力は三倍にはならず、逆に少なかった。俺にとっては、単純な陽動攻撃、と言ったところか。

 俺は一瞬の隙を見て反撃するが、防御に徹する一人に戻ったファルタリアは、連続で繰り出す剣を、半予知化の能力もあるので、先を読んで軽々とバトルアックスで全て受けきった。

 さらに半予知化をフルに使用しているファルタリアが、俺の剣筋を読みバトルアックスが重力を無視した動きでかち上げ、刹那、横一線、振り切った。

 間に合わない、と一瞬の判断を踏んだ俺は、握っていた剣を放し一歩下がりバトルアックスが空を切る。

 紙一重で避け瞬時に戻り、落ちる前の剣を掴んだ。

 全力で振り切ったファルタリアは、手ごたえがあるはずの攻撃が空振りに終わった事で、ほんの僅かな一瞬、判断がおくれた。

 俺は見逃さないよ。

 僅かな体勢が崩れた所に、予知化しても体勢が間に合わない速さで、強めにファルタリアのバトルアックスを叩き落とし、重力を無視した剣さばきで首元に切っ先を向けた。

 手合せの終始、一分足らずで終了。

 力なく座り込むファルタリアは、耳が項垂れ下を向く。


「フゥ。負けました。降参です……う、うぇ」


 あーあ、大粒の涙を流し泣き出しちゃったよ。相変わらず感情豊かだな。


「ファルタリアも凄いよ。強くなったね」

「う、うぇ、同情はいらないです。勝てないにしても同格くらいで挑めると思ったんですけど……まだまだです……」


 泣き止んで立ち上がり、項垂れながら尻尾も力なくしぼみ、サリアたちの所まで戻った。

 今の攻防で、二人は戦意喪失しているんじゃないのか? 


 ――あ、全然大丈夫だ。

 やる気満々、闘志を燃やす二人がそこにいた。

 次はサリアが前に出た。


「ファルタリアの仇は、あたいが取るがや」


 ハァ? 手合せだろ? 何だよ仇って。やはり悪者扱いなのか。

 ――まあ、いいけどさ。

 俺も久しぶりの手合せなんで、楽しくなってきたしさ。

 対峙すると、眼に炎を燃やすようなサリアのやる気、ではなく、やはり殺気が伝わって来た。

 俺は一度構えを解き剣を下す。


「サリア、一つだけ言っておくけど、レムルの森は壊すなよ」

「え? 少し待つがや」


 後ろを向き、ブツブツ、言い始めているし。おいおい、壊す気だったのか? 頼むよ止めてくれ。

 ルージュを見れば、焦った表情でしゃがみこみ、地面に何か描いている。

 おいおいおい、ルージュもかよ。住んでいる場所を簡単に壊すのはよそうよ。

 手合せくらいで、タレーヌの丘みたいになるのはまっぴらゴメンだぞ。

 確かにサリアとルージュの攻撃魔法は、今では手に追えないレベルだから、仕方がないけど、そこは自重しようね、お願いだからさ。

 納得したのか立ち上がるサリアは、俺を見て腰を低く落とし半身で構える。


「ラサキ、いいがや」

「俺はいつでもいいよ」

「行くがや」


 刹那、両手を一瞬地面に付け、俺を含む範囲を超える、大きな魔方陣が足元に展開されると同時に、両手を俺に向ける。


 ――速いな。

 だがしかし、この間を見逃す手はないから踏み込んだ。その時足元から氷の槍が飛び出てきた。

 立ち止まり剣で受け流しながら横に一歩踏み出せば、その足元からも凍りの槍が放たれる。受けると同時に瞬時に後方に飛んで回避。

 なるほど、あの地面に展開された魔方陣全体が罠だったのか。

 今の思考で俺はわずかだが、サリアに時間を与えてしまった。

 サリアも気づかない訳がない。

 サリアの両手の前には、赤青緑黄と色とりどりの魔方陣が展開されていた。


「ハッ!」


 サリアの魔方陣から氷、炎、雷、風の攻撃が、怒涛の勢いで連射された。

 本来俺は、魔法の無効化をするが、全てでは無い。特にサリアとルージュの最上位の魔法だけは無理だから、それに近い攻撃なのだろう。

 慎重に見定め、剣で受け、避け、弾き飛ばし始めるが、今度は横から後ろから、と縦横無尽に攻撃が放たれる。


 ――え? 何だ?

 サリアは両手を俺に向けたまま動かない。いや、世の中に存在しない最上位の魔法を大安売りの如く駆使しているからか、動けないのだろう。

 いつになく真剣な表情のサリアを見ればわかるよ。

 怒涛の攻撃は止まず、衰えず、ここまで凄まじいと俺は防戦一方になる。

 だがしかし、防戦に徹すれば少しの余裕も生まれる。

 ん? おかしいだろ。

 いくら叩き落としても、弾き飛ばしても数が減らない攻撃。範囲攻撃も避けてもまたすぐに湧いたように放たれる。

 受け続けながらも冷静に観察すれば、上にも横にも後ろにも見えづらい魔方陣が展開され、俺を包囲していた。

 攻撃が魔方陣に吸い込まれすぐに放たれる。なるほどね、無くならない訳だ。

 なら切り伏せようか。

 未だに怒涛の勢いで連射されている攻撃を全て両断し切り伏せ、範囲魔法も剣の平で吹き飛ばし消滅させた。

 刹那、一足飛びに、動かないサリアに踏み込んで剣の切っ先を向け勝負あり。


 とはいかなかった。

 切っ先を向けるであろう場所に魔方陣が仕掛けられて、赤黒い獄炎が轟音と共に正面に向け爆ぜる。

 一瞬の判断が命取りだが直前に剣を放し、俺はサリアの後ろに回り込み手刀を首筋に当てる。

 サリアは両手を上げ、つまらなそうにため息をつく。


「ハァ。負けがや、降参がや」

「サリアの攻撃も凄かったよ」

「ラサキは強すぎがや」


 ファルタリア程では無かったものの、落胆した歩き方で二人の所に戻った。

 いやー、新鮮で楽しいな。

 でも、一歩間違えば死んでしまいそうな攻撃だよな。

 ――気を抜かず最後までしっかりやろう。

 最後のルージュが歩いて来て、所定の位置に立つ。眼力も強く、またもや殺気を放っているし。


「ラサキさん。胸をお借りしますがボクも本気で行きます」


 剣を構える俺と対峙するルージュは、剣を構えている。そうか、剣で勝負する気なのか。


「ルージュ、俺はいいよ」

「では行きます」


 対峙したまま動かない。

 ルージュは何かをしている素振りも無く、剣を俺に向けたまま微動だにしていない。

 俺が動くのを待っているのか? なら行って見ようか。

 地面を強く蹴り、一足飛びにルージュとの間合いを詰め、切りかかる。

 それを待っていたように、ルージュは地面を蹴り、合わせて後方に飛び間合いを確保した。

 俺がルージュのいた場所に立ち、更に踏み込もうしたら同時に、俺を中心に十数mの白い魔方陣が展開された。

 躊躇しないでルージュに切りかかる。が、俺の動きが鈍る。待っていたルージュは既に剣を鞘におさめ、両手を俺に向けていた。

 魔法も発動していたらしく、青と赤の魔方陣が展開されて、俺に氷と炎の矢が連射で放たれていた。

 とても動きづらいけど、鈍い動きでもルージュの攻撃は辛うじて回避できた。


 おかしいぞ? 魔法の無効化が履行していない? いや違うな。何か訳がありそうだ。

 さすがのルージュもサリアと同様に、真剣な表情で最上位魔法を発動しているので、動けない。

 全て受けきれば俺の反撃開始だ。

 それも呼んでいたのか、攻撃が終わったと同時に、剣を抜きざま地面を強く蹴り、飛び込んで切りかかって来た。

 以前よりも、数段速くなった連撃と素早さに、動きづらい俺は少し押された。

 だぁー、動きづらいぞ、くっそー。

 ファルタリアよりは、確実に遅いルージュの連撃攻撃にこうも苦戦するとは。

 刹那、今までとは違う速さのルージュの体を乗せた強い撃ち込みで、俺は一瞬だけ止まった。


 あ、しまった。

 ルージュの腕が伸びて、手の平が差し出される。ゼロ距離からの魔法攻撃だ。

 咄嗟の判断で、邪魔になると知って握っていた剣を放し、後方に強く飛んだ。

 瞬間ルージュの攻撃魔法が発動したが、間一髪空振りに終わる。


 ――あれ? 動けるぞ?

 あ、何故だかルージュが悔しがっている。

 あー、成る程。俺に魔法が効かないから、剣自体に動きを鈍くする魔法を掛けたのか。

 頭がいいな。

 手の内がバレたルージュは、剣を鞘に納めた。


「フゥ。降参です」

「凄いな、ルージュ。目の付け所が違うよ」

「仕掛けがバレたらそれまでです。ありがとうございました」

「一ついいかな。始めた時の地面に現れた魔方陣はいつ仕掛けたんだ?」

「はい。構えている時に、足で。二人の戦闘をいつも見て、対ラサキさん用に考えました。ハハッ」

「いい作戦だよ。一時はどうなるかと思ったくらいだ」

「でも負けは負けです」


 負けを認め、二人の所に戻った。

 俺は少し考える。今の内容で三人同時に対戦したら、確実に負ける。どうあがいても無理だ。

 一人一人のいいところを使えば、一〇〇%負ける。

 俺はコーマのお陰で弱くなっていないはずだから、三人は強くなっている。

 そこまで強くなっているとは。

 でも、この先何を目指すのだろうか――疑問は残るが気にするのはよそう。


 手合せも終わり、一息ついて帰り道になれば三人は、いつもの屈託のない笑顔が戻った。

 あれはあれ、これはこれ、と言う事で、切り替えの早い三人は、久しぶりに腕を組もうと順番を決めていたらしい。

 まずルージュが嬉しそうに腕を絡め引っ付く。

 綺麗な紫色の髪を揺らし、破壊兵器も揺らし、楽しそうだ。

 次にサリアが引っ付いて来た。

 透き通った白髪を揺らし、必死に胸を擦り付け、嬉しそうだ。

 最後にファルタリアが、優しく腕を組んで来た。

 毛並みのいい艶やかな大きくなった尻尾を揺らし、笑顔が絶えなかった。

 こうして歩くと、ごく普通の可愛い綺麗な嫁たちだけど、凄まじく出鱈目な強さを持っているなんて、レムルの住民たちは知らないだろうな。

 魔王、邪王、覇王、勇者を凌駕する三人の嫁。

 普通に、ごく普通に、簡単に、世界征服できそうだ。

 リコたちも喜ぶだろうな――しないけどさ。

 ま、三人もそんな事は微塵も考えていないだろうし、今に始まった事じゃない。強いと安心だし、何でも任せられるから良しとしておこう。


 妖精の畑を過ぎた辺りで三人と別れ、俺一人で家に帰る。

 その訳は、森へ狩りに行ってくる。との事だった。今日くらい休めばいいのに。

 働き者の嫁たちに感謝しよう。

 家が見えて来た。窓越しにコーマが見えた。お勤めから帰って来たようだね。

 家に入るとコーマが椅子に座り、妖精の果物を美味しそうに食べていた。

 うんうん、食べる姿も様になって可愛いよ。


「お帰り、ラサキ。ありがと、ウフフ」

「ただいま、コーマ」

「楽しかった?」

「ああ、楽しかったけど、三人の強さは尋常では無く、俺に追いついて来たよ。三人同時に相手したら、絶対に勝てないよ」

「仕方がないのよ。嫁なんだから」

「そういうものなのか?」

「うん、そういうものよ。ウフフ」

「まあ、今更いいけどさ。さて、夕食の準備に取り掛かるよ」

「今日はシチューがいいな。野菜と柔らかいお肉が一杯の」

「了解。今日は三人も動いたから、腹を空かせて帰って来るだろう。いつもより多めに作るよ」


 三人が獲れた肉を持って帰って来た。下処理は終わっているので、塩漬け用、干し肉用、生肉用と分け、食品庫に仕舞った。

 家に入り、三人着替えて来れば、既に俺がテーブルに料理を盛り付けておいた。


「美味しそうですねぇ、いただきます。あむ」

「美味そうがや。いただくがや。あむ」

「ボクも手伝えばよかった。いただきます。あむ」

「美味しいね。ウフフ」

「今日は多目に作ったから沢山食べな」


 夕食の団らんのひと時。

 ファルタリアが、開口一番に手合せについて話し、サリア、ルージュも反省点を話した。

 だが、しかし、真面目な話をするのもほんの少しで終わり、三人とも口攻撃の集中砲火が始まって、俺がズルいだの、酷いだの、情け容赦しないだの、まあ好き勝手に言ってくれましたよ。

 手合せの仕返しか? ま、いいさ、それでみんなの笑いが取れるなら大眼に見よう。

 聞いていたコーマも、クスクス、笑っているし、楽しそうだからさ。

 こうして談笑し、美味しく食べ、みんな満足したようだ。

 風呂では、ちんこの歌を聞いて温まった。


 四人は順番に、おやすみ、と口づけして寝室に入った。


 今日は久しぶりにお勤めが無いので、星を眺め夜酒を楽しもうと、一人庭先の椅子に座りグラスに注いだ蒸留酒をあおった。

 時折だけど、最近は俺にも一人の夜の時間を取ってくれるようになった。

 自分を見つめる時間なんて無かった気がしたから、このひと時も充実したよ。

 頃合いを見て居間に戻り、椅子に座って飲み直しだ。グラスに注いだ蒸留酒をあおり、力なく背もたれに寄りかかる。


 ――とても充実した毎日を送っている。

 コーマを始め、俺と三人の嫁は、強いから襲われるようなことはこれっぽっちも無い。ドラゴン級のとんでもない事でも起こらない限り、安心して生活し楽しめる。

 でもこの先、数十年が経ったときの事を考えると、真面目に悩む。

 コーマは、この先俺が死んだら元の神としての生活に戻る。

 一番寿命の長い、樹海の魔女サリアは、あと五八〇年ほどある。

 フォックスピープルのファルタリアも、あと一八〇年ほどある。

 人族のルージュは俺と同じかと思ったら違うらしい。

 魔女に近くなってしまって、サリアが言うには、ルージュの寿命は、あと一〇〇年はあるとの事。

 寿命を迎えた時、俺にとっては、一番いい死に方だよ。

 更に子沢山に恵まれたのなら言う事無しだ。

 皆に囲まれ看取られるのだから、これ以上の幸せはない。

 その後の事なんて、別に考えなくてもいい。俺はいないのだから、後はお任せして考える必要も無い。

けれど、心配になる。

 そんな葛藤、ジレンマ、矛盾、を忘れるように深夜まで一人酒をあおった。

 と、ここまでは精神年齢四〇過ぎの考え。


今は若いのだし、先も長いし、まだ誰にもつまらない話なんてするつもりもない。


「飲み過ぎたかな。さて、寝よう」


 

 ある晴れた朝。

 朝食を食べ、談笑していたら。ファルタリアが、思い立ったように耳を、ピコピコ、させる。


「あ、そうそう、ラサキさん。湖に泳ぎに行きませんか?」

「え? ラクナデ湖は吊り専門で遊泳禁止だったぞ? それに遠いし」

「ああ、あそこかや。あむ」

「あそこですか。ラサキさんが行くならボクも行きます」

「ウフフ」

「え? みんな知っている湖なのか?」


 ファルタリア曰く。

 獣を獲りに行けば、同じ場所だけだと効率が悪い。なので、レムルの森周辺からレズリアーナさんが住んでいた森に掛けて広範囲に散策し、獣を獲った。

 獣を獲りながらの散策は楽しく、毎回範囲を変えていたら偶然湖を見つけた。

 水質も良さそうで、透明度もある。冷たくも無いし、泳ぎやすそうな砂浜があったので一度泳いでみたいと思った。


「何だ。その時に泳いで来れば良かったのに」

「ダメですよぉ。ラサキさんが加わらないと、一緒じゃないとつまらないですよぉ」

「俺はいいけど、水着無いぞ? 誰も見ていないのなら全裸でもいいけどさ。見慣れているしね」

「では、私たち三人は本日、シャルテンの町に水着を買いに行ってきます」


 で、結局その後すぐに出かけ、帰ってくるまでの間は、ご想像の通り、妖艶な笑みを浮かべたコーマに、襲われるように、イチャ、こきました。


「ウフフ、楽しいね」


 三人が出かける時に、あったのなら一番高い水着を購入するように言っておいた。

 こういう時こそ金貨を減らさないと。


 しっかり買って来た三人。

 水着を売っている商店があるなんて、シャルテンの町も侮れないな。一体どこで泳ぐのか使うのか。

 その答えは、ファルタリアが聞いて来た。


「旅行の時に、時折購入する人がいるそうです」


 それだけで在庫をするって、赤字だろ。でも店の職人気質に少しだけ感動もした――偉いな。

 ついでに俺の水着も買ってくれたらしい。どんな色か、袋を開け見ようとしたら見せてくれなかった。

 ファルタリアは、笑顔で毛並みのいい金色の大きな尻尾を大きく揺らし、楽しそうに話す。


「ラサキさん。湖に行ってからのお楽しみですよ。見たいでしょうけど、まだ見てはいけません。エヘヘ」

「俺の水着くらいは――」

「ダメです!」

「そ、そうか。了解した」


 余計な事言って、藪蛇になりそうだから素直に従おう。


 その湖までは、我が家から直接進めば四時間ほどで着くらしい。

 前日の夜に、あーだのこーだの、いるのいらないの、キャッキャエヘヘ、といつになく大騒ぎして準備を終えた。

 

 まだ日も昇らない早朝に出かける。

 日帰りなので、装備と腰袋で十分だった。ただルージュだけは、代表して背負い袋も背負った。中には敷き布と、みんなの水着が入っている。

 ファルタリアの先導で、レムルの町とは反対側の森の中を進む。その後ろにサリアとルージュも知っているように進む。

 その後ろで、コーマは嬉しそうに俺と腕を組んで歩いている。

 鬱蒼と茂る草だけど、ここはよく通るのだろう。人が歩ける小道になっていた。


 日も昇り、木々の間から木漏れ日が差す森の中、小鳥のさえずりが聞こえ森林浴で心が安らぐ。

 この辺から、大人がやっと一人歩けるくらい細い小道になっている。多分、狩りがしやすいように一列に進んだのだろう。

 先頭を歩くファルタリアが一度立ち止まり、振り返る。


「この先ですよー。もうすぐでーす」

「了解した」


 今までの工程で、サリアとルージュは終始、ブツブツ、と念仏のような小声で話しいていると思ったら、二人でコソコソ、ちんこの歌、を輪唱していた。

 ――単に暇だったのね。いいよ、聞かなかった事にしておくよ――ハァ。


「着きましたー。ここでーす」


 森の先が開け、明るくなる。日に照らされた白い砂浜がまばゆく光っている。

 その先に湖がひっそりとたたずんでいるように見えた。

 ラクナデ湖より小さいけれど、綺麗な湖だった。日が高くなっているので砂がやや熱い。

 下見している三人は、周知しているので砂浜沿いに少し進めば、大きな木の枝が砂浜に覆いかぶさるように生え、広い木陰になっていた。

 ルージュが、タユンタユン、させながら敷き布を砂浜に広げこちらに振り返る。


「ここに荷物を置いて下さい」

「了解、いい場所だな」

「ラサキ。着替えるがや」


 みんな荷物を下ろし、装備も外す。

 ファルタリアが袋から、赤、濃紺、濃い緑の水着を並べると、三人は、あっ、と言う間に全裸になる。


 ――ある種の特技だよ、うん。

 こんな山奥なら誰も来ないよ。そのままでも――と思ったけど、また言われるだろうから黙っていよう。

 コーマは一度消え、すぐに現れた。おお、純白のビキニだ。

 スタイルが抜群にいい上に、白のビキニがボディラインを引き立たせている。

 コーマは、艶やかな長い銀髪を首筋から両手で掻き上げ、俺にポーズをとる。


「ラサキ。どう?」

「うん。とても似合っているよ。綺麗だ」

「ありがと。ウフフ」


 次はファルタリアだ。

 濃い緑のワンピース? なのだが――違うのか?

 首筋で結んだ二本の濃い緑の細い生地が、胸の先だけ通りそのまま股間へ。

 何だ? ほぼほぼ、露出しているだろ。

 一回転するファルタリアの尻に生地が食い込んで、大きな尻尾を挟み、そのまま首に戻って結んでいる。


「ラサキさーん、どうですかぁー。エヘヘ」

「お、おう。似合っているよ――ファ、ファルタリアらしいよ」


 取り敢えずほめておこう。

 綺麗なプロポーションだから確かに似合ってはいるしさ。

 でも、歩き辛くないのか? 普通に考えて食い込まないのか? 乳の先だけだからずれないのか? まあ、気に入っているようだから、いっか。


 サリアは――。

 濃紺のワンピース。似合っている、うん。ごく普通に見えるくらい似合っている。うん、健全に思えるしいい事だな。

 しかし、しかし、だ。なぜ胸に貼ってある四角い白地の布に、サリア、と書かれているんだ?

 何故名前を書く必要があるんだ? 何かの集団行動用なのか?


「ラサキ。どうかや? 似合うかや?」


 サリアは満面の笑顔で、透き通った白髪を揺らしながら一回転しポーズをとる。


「と、とても似合っているよ。可愛いよ、うん」

「そ、そうかや? アハハー」


 本人が選んだのなら、文句を言ったら可哀そうだし、突っ込んでも仕方がない。

 誰も何も言わないしさ。

 コーマは木陰で立って湖を眺めている。

 二人は泳ぐ前に準備運動しているし。


 最後はルージュ。

 ん? 座り込んで体を拭く布で頬被りをしている。


「ルージュ、どうした? 具合でも悪いのか?」

「い、いえ。は、恥ずかしいので……」

「みんな一緒だよ。ファルタリアとサリアは泳ぎに行ってしまったよ?」

「わ、笑いませんか?」

「誰がルージュを笑うんだよ。それにルージュは俺の大事な嫁だしさ。全裸を見ているくらいだから問題なしさ」


 ルージュは立ち上がり、俺に向いて布を落とす。両手を前で組んで頬を赤らめ。潤んだ瞳でうつむくルージュ。


 ――っ! あ、鼻血出そうになっちゃった。


 赤いビキニなのだけれど、とても似合っているのだけれど、その赤い生地は、とんでもない破壊兵器を、これでもか、と必死に支えている感じが伝わってきている。

 思わず手を握り締め、頑張れ、と言いたくなった。


「ど、どうでしょうか。ぜ、ぜい肉が……」

「とても似合っているよ、ルージュ。俺には勿体ないくらいだよ」

「本当ですか? ボク、嬉しいです」


 艶やかな紫の長い髪を揺らし、歩み寄り抱きついて来るルージュ。

 どぁぁ。破壊兵器+αだっ。

 理性を保ちながら手を回し優しく包んだ。

 離れたルージュは、とても可愛らしい笑顔になった。


「ボクも泳いできます。ハハ」

「ああ、行っておいで」


 ルージュは軽やかに走って行ったけど、タユンは後ろ姿でも、確認できるんだ、と一人思った。

 いやー、いつも全裸を見て、それこそ見慣れていたので、少し馬鹿にしていたけど、これはこれで、新たな発見だな、ありだようん、あり、だ

 。四人の違う一面、容姿を見た気がしたよ。布生地一枚でこうも変わるとは。

 久しぶりに眼福した気分だ。

 あ、俺は黒い水着です。

 コーマは泳がず、木陰の布に座り、持って来た妖精の果物を美味しそうに食べている。


「コーマは泳がないのか?」

「うん。私は見ているだけで楽しいよ。それにあれじゃ、誰も入れないでしょ。ウフフ」

「まあ、確かにな」


 十数分前。

 湖に入った三人は、泳ぐ前に水で体を慣らそうと、水を掛け合った。

 細かい水しぶきが三人を捉え、屈託のない笑顔が眩しく。それは一枚の絵になるような光景だった。


 だがしかし、それはすぐに終わりを告げる。

 ファルタリアが少し強めに水を掛け、サリアがもう少し強めに水を掛け、ルージュも強めに水を掛け。

 俗に言う水掛け論が始まり、掛ける水が上回り、さらに上回り、今現在晴れた日の中、湖だけは嵐が巻き起こっている。

 ファルタリアが馬鹿力で水を巻き上げれば、サリアが水竜巻を起こし、ルージュも負けじ、と大きな水柱を発生させている。

 そのお陰なのか、空から魚が何匹も振って来る現象にまで発展していた。

 競争心があるのはいい事だし、特に何も言わない。

 しかしながら加減を覚えろよ。

 既に湖の水の量が三分の一は減少、消滅しているぞ? 生態系が崩れるぞ? 全く。

 俺は大声を張り上げた。


「ストーップ! 三人とも止めーっ!」


 途中の動作で、ピタリ、と止まり、こちらを向く三人。

 刹那、上空まで上がっていた巨大な水の塊が、一気に落ちて来た。しばらくは水しぶきが凄かったけど、やがて落ち着き、元の静かな湖になる。

 その中でも、落ちて来た水にも、大波にも負けず、ケロッ、としている三人がまだ止まってこっちを見ていた。

 ファルタリアを先頭に三人が上がって来た。


「ラサキさん、どうしましたか?」

「何かや?」

「何ですか? ラサキさん」


 水が滴る三人は、色っぽくて美しい――って、違うし!


「もう少し手加減を覚えなさい。湖の水が減ってしまったよ。それにこの廻りの魚を見ろよ」

「わぁー、食料が出来ましたねぇ。私、拾ってきまーす」


 ファルタリアは、反省の色も見せず、袋を持って拾い回り始めた。

 じゃ、先にこの二人に――。


「なら、あたいも拾うがや」

「でしたらボクも」


 二人も拾い始めた。

 全く聞く耳持たず反省の欠けらも無い。俺って、どの位置にいるのだろうか。

 呆れ顔で座って三人を眺めれば、コーマが後ろから首筋に両腕を回してくる。


「ウフフ。ラサキはラサキよ。気にしないで」

「ああ、みんなが楽しければそれでいいよ。ハハハ」

「今晩は魚料理ね。ウフフ」

「さて、何を作ろうか」


 そんな楽しい一日だった。

 これからも続きますように。

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