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死神の飼い猫ぷらす  作者: 稲狭などか
6/14

羊喫茶

羊ぃ

1


 街の隅にある落ち着いたレトロな喫茶店のカウンターで八雲は食器やティーカップを磨いていた。

 それを遠目から近所の奥様方が見てはヒソヒソと仲間内で話している。

 彼はクセっ毛に銀縁の眼鏡に緩い雰囲気を持った優しい顔つき、それでも身長は高く180㎝ほどはある。色白で落ち着いた笑顔が奥様方には人気となっている。

 彼はこの喫茶店にはあまり居ないのだが、以前に困っている所を助ける形で店員のふりをした縁から時々働きに来ているのだ。


「店長、遅いな。僕だけだと不安なんだけど」


 八雲は窓の外を眺めながら独り言を呟くと、新たにお客がドアのベルを鳴らしながら入って来た。女子高生が三人、こんな古い雰囲気の喫茶店に来るなんて珍しいな、と考えながら八雲は静かな声で彼女達をむかえいれる。


「いらっしゃいませ」

「こ、コーヒー・・・・・・3つで」

「かしこまりました」


 カウンター席に着いた彼女達は八雲がコーヒーを淹れる様子をじっと見ていた。

 八雲は隅っこに座る注文をした女の子と目が合うと、笑顔を返すが、彼女はそっぽを向いてしまった。少し残念に思う八雲だが、それすらも八雲にはありがたい感情だった。

 感情の、欠落。

 かつて八雲が奪われたのは人間らしい感情だった。心の問題とかではない、感情をそのまま奪い取られたのだ。実の両親によって。

 仲間達と同じだ、そんなこんなで両親を殺して、今は人間を捨てて人間らしい感情を謳歌できている。


「お待たせいたしました」


 淹れ終わったコーヒーを彼女達の前に出すと、八雲は下がったがその時、女の子の一人が彼に話しかけてきた。


「お、お兄さんは、何歳ですか?」


 なんか、慌てて聞いたような感じだが、八雲は素直に答えを返した。


「29歳です」

「え、えぇ!?」

「あっ! い、いやその! 間違えちゃった。お兄ちゃんの歳だった。僕は17です」


 実年齢を暴露して焦った八雲は慌てて偽の歳に言い直す。


「あっ、ビックリした。お兄さん大人っぽいから、なんだ同い年だ」

「そうですね。よく老け顔って言われます」

「老けてなんかいない、と思うけど」


 同い年とわかったからか女の子の態度が砕けた感じになった。むしろその方が話しやすい。

 宗次郎ならここで変な事を言うのだろうが、八雲は言葉を慎重に選ぼうと心がける。


「そう? なら、嬉しいな」

「名前は? 何て言うの?」

「八雲。八に、空の雲で、八雲」

「ヤクモ、八雲君。ねえ、名前は八雲君だって! 千博、名前聴けたよ!」

「う、うん」


 八雲は隅っこにいる女の子に視線を移す。

 千博と呼ばれた女の子は、なんと言うか、普通の女の子だった。派手でもなければ、地味でもない。アイリスとは真逆のタイプだなと、八雲は思う。

 どうやら、恥ずかしがり屋のようだ。

 正明や加々美ならすんなりと溶け込めるのだろうが、八雲には荷が重い。


「え、えっと! す、好きな人はいますか!」


 突然の大声に八雲は目を丸くして固まってしまった。

 好きな、人? と彼は思考を巡らせるが、好きな人は沢山いる。


「いるよ、大切な人」

「ひゅっ!?」

「あっ、調度来たね。僕の大切な人の一人」


 八雲が笑顔で手を振る先には少し涼し気な瞳のクールそうな男、宗次郎が扉から入って来た。それを見て女子高生達は顔を一気に赤くする。


「よっ、八雲。女子高生と仲良しに談笑か? 嫉妬するぞ?」

「嫉妬はよしてよ、君がむせび泣いて転がりまわるのは目障りなんだ」

「よし、むせび泣くか」

「お客様の前ではご遠慮を?」


 八雲は女の子達へ向ける笑顔よりも自然な顔で宗次郎の胸板を拳で軽く叩く。

 その光景を見ていた千博と言う女の子が顔を抑える。それを見た、宗次郎は八雲に耳打ちする。

 

「おい、八雲・・・・・・その子、多分お前の事好きだぜ?」

「え? どういう事?」

「鈍いなぁ、あの子顔を真っ赤にしてお前を見てるぜ? 気持ちにはしっかりと答えてやれよ?」

「待ってよ、決めつけるのは」

「あの!」


 椅子から立ち上がった千博は今にも過呼吸でも起こしそうな勢いだ。

 八雲はその表情に目を丸くする、若干引いているようにも見て取れるが実際に引いているだろう。何が来ると構える彼だが突然目の前に突き出されたのはスケッチブック。


「ん?」


 宗次郎は八雲と一緒に首を傾げた。


「私の、漫画の主人公にお兄さんをモデルにしても良いですか!?」


 八雲は変な早とちりをした宗次郎に悪魔の様な眼力を向けてから、笑顔で彼女達に向き直ると快く返事を返す。


「僕で良ければ喜んで」

「あ、ありがとうございます! えっと、スケッチしても良いですか!?」

「どうぞ? 立ち止まったりは難しいですが、良いですか?」

「だいじょうぶです! 補完します! 妄想力で!」

「良かった」


 早速彼女は八雲をスケッチし始めた。

 八雲は店番に戻るが、宗次郎は「じゃ、八雲。俺は戻るぜ? 様子を見に来ただけだからな」と言って店から出ようとするが。


「待って下さい! そちらのお兄さんも、ぜひスケッチしたいんです! お兄さん凄くかっこよくて、スラッとした手足とか涼し気な目元とかマジでドストライクな萌えポイントです!」

「いいんじゃない!? いくらでも描くがいいよ! ふふふっ、わかってるね。お嬢さんは可愛らしさだけじゃなく、感性も一級だ! 羊! 俺にもコーヒー、もう少し居座るぜ!」

「調子がいい鴉だなぁ・・・・・・はい、只今」


 宗次郎はターンを決めながら流れるようにテーブル席に付くと、足を組んでポーズを決める。

 その日は少しだけ騒がしくなった店内と、紙へとぺンを走らせる音が響いていた。



 後日。


「千博ちゃんが完成した漫画をくれたよ」

「よし! 読もうぜ、俺が主人公か?」

「いや、僕らしいよ?」

「なら俺は名悪役だな!」

「ポジティブだね」


 WELT・SO・HEILENの八雲が支配する領域。

 天候も、環境も落ち着いた場所で、八雲の船である帆船の甲板で宗次郎と一緒に千博から貰った漫画を開くと二人は固まった。

 その表紙には何だか、アレな感じで見つめ合う八雲と宗次郎をイメージしたキャラクター。


「これは・・・・・・アレなジャンル?」

「アレだろうな。もうね、これしかねぇよ」


 とりあえず読み進めていく二人だったが、完璧に18禁な内容でもあり結構過激ではあった。宗次郎はドSな俺様系、金持ちで才能あふれる人物で敗北を知らない御曹司。八雲は主人公で俗に言う草食系で恋愛には奥手であり、自分の中で芽生えていた「ソッチへの感情」に戸惑って葛藤するキャラ。

 始めは真顔で読み進めていた二人だが。


「あれ? 意外と面白くね?」

「うん、面白いね」


 2人はデバイスで正明達を全員呼び出してこの漫画を読ませてみた。

 始めは全員が抵抗がある感じだったが、読み終わる頃にはみんながすんなりと。


「そうですね、確かにビックリしましたけど内容は緻密で説得力があります」

「ねぇ、宗次郎が八雲に〇〇〇されて、後ろからガン〇〇されていてヤバいよね! あははっ! 二人ってそう言う」

「「違う!」」

「面白い、ゲーム、造りたい」

「す、凄い・・・・・・けど、面白い」


 志雄は真面目に、加々美はネタとして、アイリスはクリエイト魂が刺激され、京子は顔を抑えている。

 そして、正明は。


「ゲーム作ろうか」


 と言うと、デバイスにその漫画をコピーする。

 そして正明は八雲に問いかける。


「この作者とコンタクトを取って続編か、ゲーム用のシナリオを考えてもらおう! 世の中に広めるのはまだ先だ! 埋もれる前にファンを獲得してしまおう。デビューのいい踏み台になるだろう、それに絵のタッチも繊細だ。スケッチなどでコツコツと画力を上げて来たタイプだな?」

「ま、正明?」

「オリジナル同人と言うジャンルか? それだと今一か? いや、宣伝は僕がなんとかしよう。競争相手は多いが、最近は王道より奇をてらう作品が大半だ。説得力のある王道は目を引く、勝機は十分、よし! まずは先生に楽しんで描いてもらおう! 作者の人間性も考えないといけないからな! それに、本人の許可も必要だし」


 何か、とんでもない事を言っているが八雲はため息を吐くと次のお手伝いの時に正明も連れて行く事にした。

 なんだか、正明にも災難が降ってきそうだが八雲は面白そうなので黙った。

作者はノリノリでゲームを作って、大成功。彼女はスカウトされて、女子高生作家として活躍する。

正明は作中で八雲を寝取ろうと策を巡らす宗次郎の弟役で出された。本人はソッチの性癖意外は結構似てると言っていたが、微妙な顔をしていた

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