スケベ狼にご注意を
なんだか、厳格な人が裏で可愛いお姉ちゃんにおぎゃってたらなんか草ですよね。
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「おぎゃりたい」
「年を考えたら?」
突然のカミングアウトにハーフパンツにTシャツ姿の正明は即答するとベッドに寝そべった。
いきなり罵倒されたのは加々美だ。正明の部屋に遊びに来ていた彼女は絨毯の上で雑誌を読んでいるが、この雑誌はいたって健全なファッション誌だ。
正明のそっけない態度に彼女は大の字になっている正明のお腹を軽く叩く。
それでも彼には酷い打撃だ。
身体をくの字に曲げて正明はベッドの上でのた打ち回ると、ケラケラと笑う加々美に襲い掛かると頬っぺたを掴むと左右に思いっきり引っ張った。
「ぎゃー! いだだだだだ! か弱い女の子になんて事を!」
「うるさい! 熊より強いクセに! 何がおぎゃりたいだ! この狼女!」
「なんだと! この子猫男! 力では私に敵わないクセに! ガブッ!」
「うぎゃあ! 噛むな!」
加々美は軽い上に身体の小さい正明を退かすと彼の頭に噛みついた。狼の性質を持つ彼女の本能なのだろうが、やられた正明は堪ったものじゃない。
正明はジタバタと暴れるが力じゃ勝てないと悟ってか抵抗をやめてしまう。加々美は良い気になってか彼の髪の毛をガジガジを噛んでいる。
「うえええん」
「猫が狼に勝てるもんか、ふふふ、良い髪しているぇ! ふへへぇ!」
「みゃー」
「あっ! 化けた!」
正明は子猫に化けると、逆に加々美の頭に乗って噛みつく。
「いだぁ! 卑怯! 猫だから痛い! ごめん! 謝るから!」
「ふー! うにゃあー!」
短い前足で加々美の頭をテシテシと叩くと、正明は彼女の頭から降りて人間に戻る。
「うー、髪の毛が傷んだ」
「男の子は気にしないんじゃない?」
「気にするよ! こう見えても外見には気を配っていてね」
正明は不機嫌にそう答えると櫛で髪を解かし始める。
加々美は狼に姿を変えるとふてくされたようにぐでーっと寝そべってしまった。
「そもそも、なに? おぎゃりたいって?」
「お姉さん的な人に甘えたいんだよー。志雄ちゃんに頼んだらヤダって断られて、アイリスは変な薬打って来るし、京子ちゃんと真紀ちゃんはなんか違うんだよー。宗次郎は女装して来たから海に落とした。八雲はお兄ちゃんって雰囲気だからダメ」
「真紀でダメならなんで僕? 同じ顔に同じ体格だよ?」
「変身出来るじゃん。正明なら良い感じの人に変身出来るかなーって」
正明は狼の加々美のお腹を撫でながら少し考える。
そして彼は腰にホルスターを召喚すると魔法を発動した。いたってシンプルな変身魔法だが彼は長くウェーブがかかった黒髪の女性に姿を変えた。
その姿は可愛い正明とは違い、おっとりとして優しい印象の美女だ。
「この姿はね。真紀の姿をトレースしたんだよ? 綺麗でしょ?」
「う、うげぇ」
「えぇ・・・・・・嫌だった?」
正明は少し残念そうに笑うと「ごめんね」と言って狼の加々美を撫でる。すると、彼女は飛び上がる様に人間に戻ると正明の胸に顔を埋めた。
偽物とは言え柔らかくて暖かい感触が彼女を包む。
「私が男だったら速攻でS○X!」
「うわぁ! 離れろ! けだもの!」
宇宙世紀の某パイロットのような顔をしてそう言う加々美を蹴飛ばすが、彼女は異常にタフで効かない。
「お姉ちゃんって言って良い!? 憧れなんだ」
「んー、妙なことになったなぁ。よしよし」
「たまんねぇなぁ! おい!」
「やっぱり離れろ‼️ ハゲ!」
「女の子にハゲェ!? なんてことを! 字面だと私がマジでハゲみたいじゃん! 艶のある黒髪に犬の耳みたいにぴょこんと跳ねた頭の毛がトレードマークだよ! 私ハゲじゃないよ!」
「今度余計な事を言ったら口を縫い合わすぞ」
正明はため息をついて元に戻ろうとするが、加々美が「勿体ない!」と叫ぶ。
そもそもおぎゃりたいと言う欲望に付き合ってやれんのだ。
その時だった、正明の部屋にノックと宗次郎の声が響いてきた。
「正明、少しいいか? 今度の商品で新要素を追加した物を作りたいんだが」
気を配ってか扉の外で話している。正明はこれを言い訳に加々美を説得しようとするが、その時彼女が俊敏に正明の胸をしたから持ち上げた。
「ひゃあ!?」
「うへへぇ! ええ乳よのぉ!」
感触はないが、いきなりそんな事をされれば正明でなくともビックリするだろう。
「ぶち殺すぞ! クソ狼! 死ねぇ!」
「な、なんだ? と、取り込み中か・・・・・・いや、その。誰にも言わないから安心してくれ」
扉の前の宗次郎が妙な勘違いをしたと悟った正明は顔を真っ青にすると、加々美を振りほどき扉を体当たりする様に開け放つ。少し先にいた宗次郎にタックルを喰らわせる様にして止めると馬乗りの形で正明は宗次郎へと弁解の言葉を叫んだ。
「宗次郎! 加々美のイタズラで、変な事なんてしてないから!」
「あ、あのぉ・・・・・・誰?」
宗次郎の目線から見ればかなり刺激的だろう。
いきなりラフな格好の女性にまたがられては、これも誤解を招くだろう。
「あ、そうか・・・・・・この姿だと」
正明は変身を解こうとするが、その場面を今度はたまたま近くを通りかかった志雄に見られてしまう。
「あっ! 志雄、こ、これは」
「ごめんなさい! ごゆっくり!」
「待ってェ! 話を聴いて! 僕は、僕は悪くないし、変態じゃない!」
正明は半泣きになりながら、その後に船の中を走り回る事になる。
このあと、妹にも見つかった。