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死神の飼い猫ぷらす  作者: 稲狭などか
4/14

スライム事件

昔を思い出すネタですね。(スーパー個人的に)

1


 WELT・SO・HEILENは七つの領域と船で構成された大型総合ギルドだ。

 その維持費はそれぞれのメンバーが開発した物を売るか、もしくは力を様々な企業やギルドに貸すことで捻出した物で賄われている。

 だが、たてついたギルドを殲滅し、そいつらの技術と財産を奪うなどして懐はだいぶ潤っているのが現状だ。

 それによってそれぞれの領域には結構、遊びに片寄った施設が存在している。それで最も力を入れたのが風呂だったのだが、それも調子に乗ったメンバーのせいでまともな風呂少ない。

 伊達正明は宗次郎が作った新しい風呂のネタに付き合わされていた。

 広い建物にいくつもの湯船が並ぶリゾート施設の様な所に正明は腰にタオルだけの格好で立っていた。女の子の様な姿をしているが、とある層には大ウケするであろう。

 当の本人は目の前の青い「何か」で満たされた湯船を眺めて呆然としていた。


「これ、何?」


 独り言の様に呟くが、正明はしゃがんでその何かを触る。すると、柔らかく粘性のある事がわかった。

 これが何か、どう考えてもスライムだ。

 エロ同人誌の定番ネタに引きずり込むつもりかと、正明はその場を後にしようとするが。


(出入口は全て封鎖したぜ! ははは! 腰にホルスターのないお前は女の子よりも非力! 大人しく堪能してしまうのだな!)


 宗次郎の声で放送が入り、丁度入ってきた入り口にも鉄格子が高速で降りてきた。

 割りと本気でムッとした正明は子猫に姿を変える。これは人外化の影響で習得したものなので魔力は必要ない。

 匂いを嗅いだり、前足でテシテシとひっぱたいたりとかなり警戒しているが、そうこうしている内にスライムで足を滑らせた正明は湯船に落っこちてしまった。

 慌てて人間に戻って顔をスライムから脱出させるが、意外とスライムはある程度暖まれる温度で、正明の腕力でも手を自由に動かせる。


「はぁ、意外と良いかも。なんか全身包まれてるみたい」

「なかなかだろ? そのスライムはアイリス監修の元で俺が作った」


 放送ではなく、宗次郎本人が背中から黒い翼を広げて天井から降りてきた。

 どうやら放送でなく天井から話していたようだ。


「最初はびっくりしたけど、気持ちいいよ」

「生きてるスライムなら、お前を凌辱させたのにな」

「僕は男だから需要はないよ」

「あるんだなー、それが。お前も絡まれた思い出があるだろ」

「吐いていい?」

「止めろ、女性陣にも試すんだから」


 正明は湯船に両手両足をぐーっと伸ばす。猫のクセに風呂好きな彼は本当に気持ち良さそうな顔をする。気の抜けたその顔はスライムで身体が隠れているため、女の子にしか見えない。構図的には女の子をスライム風呂にぶちこんでいる屑野郎と、思いのほか堪能している被害者の図だ。

 宗次郎はその事に気付くと微妙な顔をして羽を畳んで通路側に着地する。

 正明はのんきにぐでーっとくつろいでいる。もう一つの機能があるのだが、これは悪用すると先程まで宗次郎が冗談で言っていたことが現実となる。

 彼は少し考えると、正明の頭を突く。


「もう一つの機能を見てみないか? 変な事はしないと誓う。俺の趣味じゃないしな」

「んぅ?」

「お前、本当に顔だけだと女の子だな。もう少しゴッツイ野郎なら変な気も使わないんだがな」

「いいよ、やっても。どうせ今は抵抗できないし・・・・・・眠くなって来たし」

「あぁ、ボーっとしているんだな。ここまで無防備なのも珍しいな、マタタビでも嗅いだみたいだ。じゃ、やるぞ」


 宗次郎は湯船に右手を入れると、スライムの術式に自分の魔力を流し込んだ。するとスライムが動き出した。


「これはな、魔力で動かせるスライムで自由に硬化したり軟化したりして形を変える。勿論、物をつかんだりも可能だ。どう言う事かって言うとな」


 スライムは正明の身体に巻き付くように硬化して密着すると、まるでマッサージ機の様に彼の全身を解し始めた。

 背中のツボを刺激され、正明はビクッと身体を弾ませた。


「ん~・・・・・・これヤバい。寝る」

「本当に気持ちよさそうだな。本当なら入っている人間が自分で操作するから、力加減も自由自在だ。お前なら小瓶を一本持ち込むだけでいい」

「宗次郎、もう少し肩とふくらはぎを強くして」

「凝っているのか?」

「足はね。肩は何となく気持ちいから」

「わかった。下半身ですね?」

「変な所に感覚あったら大声で叫ぶからね?」

「だからそんな趣味ねーって」


 そんな事を言いながらスライム風呂を堪能していると、脱衣所から声が聴こえて来た。


「ん? メイドが掃除でもし始めたのか? おい、正明?」

「すーっ、んんぅ」


 正明は爆睡している。宗次郎は右手を湯船から取ると、脱衣所の方角を見る。正明を閉じ込める為の魔法も解除してある。自由に出入りできるのだが、このタイミングで女性が入って来るのはいただけない。

 時間帯で男風呂と女風呂と変わるのだが、今は男風呂の時間だ。

 そう思って宗次郎は風呂場の時計を確認する。

 時計は女風呂になる時間帯を示していた。


「おい、もしかしてこの声って! おいおい、お約束の展開でもやって来るか!? おい、正明! 起きろぉ! 殺されるぞぉ!」

「くぅ、くぅ・・・・・・みゅぅ」

「可愛い寝息を立ててる場合じゃねぇ!」


 宗次郎は正明を湯船から引っ張り出そうとするが、その時に風呂に入って来た志雄と目が合った。彼女の後ろには京子や巧もいる。

 志雄は宗次郎の姿を見ると、身体をゾワッと震わせると急いでタオルを身体に巻き付ける。惜しい事にタオルで身体の前面を隠していたので宗次郎には何も見えていない。それどころか正明を見ていた時間が長いから彼が見たのは既にタオルを身体に巻いた彼女の姿だけだった。


「待て! 少し待て! 覗きでもなければ、悪ふざけでもない! 暴力に訴えるのが賢いやり方では無い事を思い出してくれ!」

「な、なんで宗次郎がいるんですか? それに、み、見ました?」

「見る余裕があるなら笑顔でいる!」

「何していたんですか?」

「え?」

「真紀に何をしているんですか?」


 宗次郎は少し固まった。

 言っている意味が少し解らなかったのだ。コイツは正明で、真紀は今は別の場所にいるだろう。だが、そこで宗次郎は理解した。

 今は女性陣が風呂を使う時間帯だ。ならばこの場所にいる男は宗次郎だけとなる、正明と真紀は同じ顔をしている上に、今の正明は目を閉じて寝ているし身体はスライムで隠れている。

 今の宗次郎は裸の真紀の使っている浴槽に両手を突っ込んで彼女を引き上げる変態にしか見えないだろう。

 つまりは、詰みである。


「コイツは正明だ!」

「これ以上は見苦しいですよ! 彼女に変な事をしないで下さい!」

「ま、まてっ! ぶへ!」


 顔面を引っ叩かれた宗次郎は人形のように吹き飛ばされ、別の浴槽に頭から突っ込んだ。

 支えを失った正明の身体は再び首まで沈んでしまう。それでも正明はのんきに寝息を立てている。


「まったく。真紀も災難ですね。何だか妙な物に漬けられて」

「これはスライムか? へぇ、面白そうなもの作るな。おい宗次郎、首の骨は繋がっているか?」


 湯船からずぶ濡れの宗次郎が顔をのぞかせるが、女性陣はタオルで身体を隠しているから強気なのか志雄以外は特に気にしてない様子だ。

 流石に裸を見られたらこの二人も宗次郎に攻撃を加えるだろう。


「繋がってるけど、腑に落ちねぇ。それはアイリスと作ったスライム風呂だよ」

「エロいことする気か?」

「命知らずな男じゃないぞ? 俺はやましい事は考えてない、そして正明を引き抜くなよ。そいつは何も着てないぞ」

「え? 正明なの?」


 京子が意外そうな顔をするが、宗次郎は湯船から上がって桶に水を汲んで正明の頭にぶっかける。


「ぎゃ! な、なに!? 冷たっ!」

「あっ、左目が蒼い」

「な? 言ったろ?」

「え!? あ、えっと」


 正明はまさに仰天した様子で女性陣の方を見上げると、顔を真っ赤に染めると焦ってスライムの中に隠れるが息が続かなく直ぐに浮き上がっては溺れるようにその場から離れていく。


「大丈夫ですよ、正明には非がありません」

「だっ! ダメだよ! 裸でこんな、ゲホっ! ご、ごめんなさい!」


 正明はその場にいるみんなの魔力を吸い取って術式を組み上げで転移魔法で消えてしまった。

 その時に湯船の中に空間の穴が開いた衝撃でスライムが辺りにぶちまけられてしまう。

 宗次郎は持ち前の反射神経と飛行能力でスライムをかわすが、女性陣は頭から思いっきり被って全身がスライムでベトベトになってしまう。宗次郎は顔を抑えてタイミングが悪かったと反省しているが、その後に悲劇は訪れた。


「え? えぇ! な、何ですかコレ!」

「えっ! ちょ!」

「きゃあ!」

「はぁ?」


 宗次郎は何かあったのかとそちらを見ると、彼女達が身体に巻いていたバスタオルが溶けていたのだ。手で隠しているが、その光景は宗次郎に社会的死を叩き付けるには余りにも十分すぎる威力を持っていた。

 志雄は涙目で宗次郎を睨む付けると近くにあった桶を剛速球で投げて来た。

 躱して宗次郎は最高速で外に逃げていくが、調度入ってこようとしていた加々美を衝突する。


「ぐっ!?」

「ぎゃ!?」


 派手にすっ転ぶ加々美だが、宗次郎は必死に彼女の姿を見ないように脱衣所を出て行った。

 逃げる途中で宗次郎は着替えを気だるげに引きずって廊下を歩くアイリスに出くわすと、あのイカれスライムの事について尋ねた。


「おい! あのスライムもしかしてお約束か!? お約束のアレなのか!?」

「ご明察、服だけ、溶かす。私が付け足した、お約束機能~」


 両手を上げて得意げにそう言うアイリスに拳骨を喰らわせると、宗次郎は後ろから飛んで来た桶で気を失った。

 スライム風呂は意外と好評だったが、その裏でボコボコニされた哀れな男がいたことを彼女達は忘れてはならない。


                                    以上、伊達真紀の日記より

正明は女性の裸に免疫無いです。

仕事中は別だけどね。

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