黒竜、決意する1
投稿が遅くなってしまい、申し訳ありません。
お待たせいたしました。
ザクロは今、城の廊下を歩いていた。
しかし、同じ道を行ったり来たりしている。
彼女は城の中で迷っているのである。
「シエルの部屋はこんなに遠かっただろうか?」
ザクロが城の中を歩き回っているのはシエルの部屋を目指しているからである。
彼女がなぜ、シエルの部屋を目指しているのか…。
少し時間は戻る。
ザクロはメイドであるメイ達に身支度をさせられていた。
その時に手渡された服を見てザクロは驚いた。
ザクロは手渡された服に何一つ文句を言わずに着替える。
「この服、どうして…?」
ザクロが着替えた服は彼女がもともと身に着けていた服だった。
和服のような見た目ではあるが、袖はなく、背中も空いている。
下は膝まで上げたくくり袴でその下には黒色のタイツを身に着けてる。
「やはりいつも着ている服は落ち着く」
しかし、なぜこの服がここにあるのか?
確か捨てられたと聞いていたが…。
「そちらはザクロ様が着ていた服を見ながら、新たに作った服ですよ」
ザクロが首を傾げていると、メイが答えた。
ザクロはメイの方を振り向き、メイは言葉を続ける。
「ザクロ様の衣服はボロボロで修復はできませんでしたが、同じ服を作ることはできます。…完全に同じく作ることはできませんが…。」
確かによく見ると細かいところは異なっている。
だが、大まかなところは以前とさほど変わらないため、多少違っても気にしなかった。
「なぜ新しく作ったんだ?別の服を用意すればいいだろう」
ザクロとしては別の服でも問題はなかった。
確かに着慣れている服の方がいいが、特にこだわりがある訳ではない。
…ワンピース?とかいうのは嫌だが…。
「シエル様のご命令で、作らせていただきました」
「シエルが…?」
シエルがわざわざ作るように言ったのか。
なぜ?
少し首を捻ってその理由を考えてみたが、答えは出なかった。
理由は分からないが…
「とりあえず礼は言っておこう。
シエルはどこにいるか分かるか?」
してもらった恩に礼は言わねばならない。
そのついでに服を作った理由も聞いておこう。
ザクロはシエルに会いに行くため、メイ達にシエルの居場所を尋ねた。
「シエル様ならご自分のお部屋にいると思います」
「お部屋までご案内をいたします」
ツバキがまだ城には不慣れなザクロを案内しようとしたが、ザクロは首を横に振って断る仕草をした。
「昨日、行ったから大丈夫だ。
お前達も仕事があるのだから、あまり迷惑はかけたくない」
そう言ってザクロは部屋を出て行った。
そして、時間は現在に戻る。
シエルに服の礼を言うためにシエルの部屋に向かっていたのだが、完全に道に迷ってしまった。
一度シエルの部屋に案内されたが、このように広く複雑な道を歩いたこのないザクロは一回では道を完全に覚えることはできていなかった。
やはり、案内してもらうべきだったと今更ながら後悔していた。
しかし、立ち止まっていても仕方がないので歩くことだけはやめなかった。
誰か、・・・出来れば知り合いか下働きの者でも通って欲しいものだ。
そんなことを思いながら必死に記憶を探りながら歩いていた為か、ザクロは角を曲がろうとした時、人の気配に気付かずにぶつかってしまった。
身体能力が高かったザクロは咄嗟にバランスをとった為、転ぶことはなかったが、相手の方はそうはいかなかった。
ザクロは咄嗟にぶつかった相手の腕を掴み、自分の方に引き寄せる。
引き寄せられた相手は当然、ザクロの方に倒れこむ状態になる。ザクロはよろけることなく、引き寄せた相手を受け止めた。
「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます」
女の声だった。
受け止めた女性は突然のことに驚いていたが、ザクロの声を聞いて落ち着くと、ザクロから離れた。
「姫様!お怪我は!?」
「姫様?」
姫と呼ばれた女性についてついていたであろう兵士が血相を変えてよってくる。
「大丈夫よ。こちらの方が受け止めてくださったの」
「しかし、元はといえばこの者が姫様にぶつかったのが原因ではないですか」
そう言って兵士はザクロを睨んだ。
兵士に睨まれてもザクロは平然としていた。
「私の不注意が悪いのです」
「いや、私の不注意だ。
不慣れな場所なのに考え事をしていたのが悪い。怪我はしてないか?」
ザクロはぶつかった女性の体を見て、怪我がないか確認をする。
目に見える範囲では怪我をしてはいないようだった。
「はい、どこも痛くはありません。
ところで…初めてお会いしますよね?」
「お前とは初めて会うな」
「なっ!姫様に対して“お前”だと!!」
ザクロと女性の会話を女性の背後に控えていた兵士は黙って聞いていたが、ザクロの発言が気に入らなかったのか突然、二人の間に割り込んできた。
女性の前に立ち、ザクロに対して敵意を向ける。
ザクロは敵意を向けられても平然としている。
「このお方を知らないのか!」
「知らない」
「このお方をどなたと心得る!」
「誰だ?」
「このお方はレダ王国第二王女“アクアマリン=フォン=レダ=アルフォーツ”様だぞ!」
「?」
兵士が女性の名前を語ってもいまいちピンとこないザクロは首を傾げることしかできなかった。
とりあえず、王族であることだけは分かった。
「誰なのかよく分からないが、私は王族とぶつかってしまったのか」
王族であることを告げても態度を変えないザクロに怒りが限界を超えた兵士は腰に差している剣に手をかけた。
「ホーク!待って!」
いち早く兵士の行動に気づいたアクアマリンは兵士を止めるが、兵士はその声が耳に入っていないようで剣をザクロに向けて抜こうとした…
が、それは叶わなかった。
ザクロは兵士の動きを読んでいたようで、兵士の剣を抑えこんでいた為、兵士は剣を抜くことができなかった。
それでも兵士は力ずくで抜こうとしたが、ビクともしない。
「(この女、なんて力だ。剣が抜けない…!)」
「ホーク、冷静になりなさい」
アクアマリンの言葉に冷静になったホークと呼ばれた兵士はようやく冷静さを取り戻した。
ホークが冷静になったと判断したザクロは剣を抑えつけていた手を放した。
「ホーク、あなたが私の為に怒ってくれるのは嬉しく思います。
ですが、あなたは熱くなりすぎなのです」
「姫様、すみません…。」
ホークを叱責したアクアマリンはザクロを真っすぐにとらえ、頭を下げた。
「私の従者が失礼をしました。主人である私が彼の代わりに謝ります」
「姫様が頭を下げることは…!」
自分の主が頭を下げる姿を見て、慌てて止めるホーク。
しかし、それでもアクアマリンは頭を下げることをやめなかった。
「頭を上げろ」
ザクロはアクアマリンの行動に困っていた。
自分の不注意でぶつかってしまったのだし、ぶつかった相手が一国の姫だというのならその従者が自分を叱責するのは当然のこと。
なので、アクアマリンは悪くない。
「正直、謝られても困る。それに、お前は何一つ悪くない」
「しかし、ホークはあなたに剣を向けようとしました。
そのせいであなたは怪我をしたのかもしれないのです」
「結果的に私は怪我は負っていない」
ザクロにそう言われ、アクアマリンは渋々と頭を上げた。
「ですが、これでは私の気が収まりません。なにかお詫びをさせてください」
アクアマリンは納得したわけではなかった。
詫びなど必要なかったザクロだったが、アクアマリンの表情を見る限り彼女が引き下がることはなさそうだった。
顎に手をおき、少し考えたザクロは一つ思いついた。
「ならば一つ頼みがある。シエルの部屋の場所を知っているか?」
「シエルお兄様のお部屋ですか?知っています」
「そこに行きたいのだが案内をしてほしい」
「分かりました。私についてきてください」
そう言ってアクアマリンはザクロが歩いてきた道の方に進んで行った。
ホークもアクアマリンの後に続く。
「そっちの道だったのか」
そう小さくつぶやいたザクロは二人の後を追うようについて行った。
***
ザクロがアクアマリンに道案内をされているころ、シエルはクォーツの襟元を乱暴に掴み怒りを向けていた。
怒りを向けている理由はクォーツがザクロを“研究材料”として扱っているからだ。
「ザクロは道具ではない」
「道具じゃないことくらいわかるよ。生きているんだから」
シエルに怒りを向けられても気にする様子のないクォーツはいつも通りの様子だ。
いつまでも襟元を掴まれていることに嫌気を感じたクォーツはシエルを振り払い、乱れた襟元を直した。
「それに、生きているからこそ研究しがいがある」
その言葉を聞き、更なる怒りを覚えたシエルは再びクォーツに向かおうとした時だった…。
コンコンコン
シエルの部屋をノックする音が聞こえた。
「入れ」
クォーツとの会話を中断し、ノックをした者の入室を許可する。
「失礼します」と言って扉を開け、扉を開けたまま中に入ってきたのは城の兵士だった。
兵士はシエルの他にクォーツの姿があったことに驚いた。
「要件はなんだ?」
「はっ!至急、報告したいことがありまして…」
兵士はシエルに報告をしたいことがあるようだが、クォーツの姿をちらりと見た。
どうやら、クォーツにも言ってもいいのかどうか悩んでいるようだ。
そのことを察したシエルは兵士に対し、
「気にせずに報告してくれ」
と言った。
シエルの許可を得た兵士は姿勢を正し、声を出した。
「先ほど、北の国境の連絡兵から緊急の通達がありました」
“緊急”という言葉を耳にし、シエルとクォーツは表情を険しくした。
重要な通達であることはその時点であることが分かる。
「ヴェルズ帝国は青竜と思われる竜を投入してきました!」
「青竜が!?」
その声は声質の高い声だった。
シエルの声でもクォーツの声でも、もちろん、報告に来た兵士の声でもない。
それに、その声は部屋の外から聞こえてきた。
聞いたことのある声。
シエルとクォーツにはその声の主が誰なのか分かっていた。
声の主は二人の姿を見える場所に足を進める。
その後ろにはアクアマリンとホークが立っている。
「ザクロ…」
二人の予想通りの人物だった為、驚くことはない。
ザクロはシエルとクォーツを目に入れずに兵士に話しかける。
「それは本当に青竜なのか?」
「連絡兵の報告ではそのようですが…」
突然現れたザクロに兵士は警戒をしていたが、ザクロの真剣な表情にザクロの質問につい答えてしまった。
兵士の答えを聞いたザクロは踵を返すと、シエルの部屋の丁度反対にあった窓に向かって走り出した。
そして、勢いよくその窓に体当たりをし、窓から身を投げ出した。
その行動にその場の全員は驚いた。
ザクロが突然身を投げ出したことに、アクアマリンは顔を青くし、悲鳴をあげる。
彼らが今いる場所は城の高い位置にある。
当然、生身の人間がそんな場所から落ちれば生きている訳がない。
ザクロは死んでしまっただろうと誰もが予想した。
…シエルとクォーツ以外は。
次の瞬間、ザクロが落ちていった所から黒い竜が姿を現した。
突然、黒い竜が現れたことに更に驚くアクアマリン達。
「黒竜!?なぜ、ここに?」
その黒竜の正体がザクロであることはシエルとクォーツにはわかっていた。
黒竜の姿になったザクロはそのまま空に飛び立とうと、翼を大きく羽ばたかせた。
翼を羽ばたかせることで、強い風が割れた窓から室内に入ってくる。
強い風を受け、ホークと兵士は立つのがやっとのようで、アクアマリンは立つことができず、床に手をついて踏ん張っていた。
しかし、シエルとクォーツは強い風に立ち向かい、空に飛び立とうとするザクロに向かって走っていった。
「ザクロ!待て!」
そして、ギリギリのところで黒竜の尻尾に抱き着いた。
「お兄様!クォーツ様!」
アクアマリンの声も二人には届くことなく、黒竜は二人が尻尾に抱き着いていることを気にせず、空に飛び立って行った…。
投稿が遅くなって申し訳ありませんでした。
次の投稿はできるだけもう少し早くしようと思います。
…多分。