黒竜、メイドと触れ合う
タイトルの通り、今回はメイドさん達と触れ合います。
ザクロは今、昨日に
無理やり連れてこられ、着替えをさせられた部屋(確か脱衣所とか言ってた)で髪の手入れを昨日と同じメイド達にされていた。
なぜこんな所にいるかのか、時間は遡る。
カルと別れ、庭園から戻ったザクロは与えられた部屋で眠った。
日が上る頃に目を覚ましたが、することもなくボーッと外の景色を眺めていた。
日が上って一時間くらいたった頃、部屋の扉をコンコンと叩く音がした。
そしてそのすぐあとに「失礼します」と言ってジェードが中に入ってきた。
しかしジェードはザクロを見ると、呆れた顔をする。
それもその筈だ。
ザクロの髪は寝起きのままでボサボサ、寝癖も直していない。
顔も洗った様子もなく、ワンピースを着たまま眠ったようでワンピースにはシワがついている。
「メイ、ハンナ、マリエル、ツバキ」
ジェードが手を叩いてから名前らしきものを4人、呼んだ。
呼んですぐあと、昨日、ザクロを洗い、着替えさせたメイドが4人現れた。
彼女らの姿を見たザクロは若干顔をひきつり、数歩後ろに下がった。
「お呼びですか?ジェード様」
「彼女の身支度をお願いします」
ジェードはそう言ってザクロを見る。
メイド達は「かしこまりました」と笑顔で言った。
嫌な予感がしたザクロは逃げようとしたが、逃げられなかった。
ザクロが逃げることを予測していたジェードがザクロが逃げる前に腕を掴んでいたのだ。
これにより、あっさりとメイド達に捕まったザクロは昨日と同じく無理やり連れてこられた場所、脱衣所に拉致されたのだった。
「そういえば、ちゃんと自己紹介していませんでしたわね」
ザクロの髪をとかしていた茶髪の長髪のメイドがそう言った。
昨日から見ていると彼女が中心になって他の三人に指示を出している姿をよく見かけていた。
どうやらこの中では彼女がリーダー格であることが分かる。
メイド達はザクロの正面に立つと、一人一人お辞儀をしながら自己紹介をしていく。
最初にリーダー格と思われる長髪茶髪のメイドからお辞儀をして口を開いた。
「私はメイです。ジェート様の直属の部下で副メイド長をしております。
ちなみに父は子爵の位を持っていますので位は低いですが一応、貴族ですわ」
続いてメイの隣に立っていたメガネに三つ編みを二本にした茶髪のメイドがお辞儀をする。
「私はハンナです。
一般人なんですけど、お裁縫が得意でそれがジェード様に褒められて…ジェード様の部下になりました。
ご縁があれば、その、これからもよろしくお願いします」
緊張しているのかハンナは顔を赤く染めながら度々口ごもっていた。
続いてハンナの隣に立つ猫耳のついた見たところ、まだ未成年の少女がお辞儀をした。
「私はマリエルです!見ての通り猫の獣人です!」
マリエルは軽やかな足取りでザクロに近づいてザクロの両手を握った。
「ザクロさんは竜族なんですよね?
私、竜族に会えるなんて感激です!
今度、城下に住んでいる私の家族にも会ってもらえませんか?
あ、でもこんな事を急に言ったら迷惑ですよね?」
マリエルは次々に言葉を発する。
そのせいでザクロは口を挟むことが出来ずに困っていた。
「ところでザクロ様は--むぐっ」
「マリエル、ザクロ様が困っています。少しは落ち着いてください」
喋り続けるマリエルの口を手で抑えたのはマリエルの隣に立っていた黒髪のメイドだった。
マリエルが落ち着いたのを確認すると、彼女は手を放した。
「ザクロ様、マリエルが失礼しました。
彼女は少々、喋りすぎることが多くて…」
「ごめんなさい」
「いや、少し驚いただけだ。気にしないで欲しい」
マリエルとくのメイドに頭を下げて謝られたザクロは戸惑いながらも気にしないように言った。
頭を上げた黒髪のメイドは続けて自己紹介をした。
「私はツバキ。以後、お見知りおきを」
ツバキが淡々と発する言葉は落ち着いた感じがした。
「ツバキの名前だけ他と感じが違うな」
4人の名前を一通り聞いたザクロはツバキだけは、自分と似ている感じがした。
「私は“ヤマトの国”の出なのです」
「ヤマトの国?」
昨夜、カルからも同じ単語を聞いたのをザクロは思い出した。
確か東国の島国だったか?
「ヤマトの国はここから遥か遠く、海に囲まれた東国の島国です。
島国ゆえに他国の発展について行けず、風習や技術が古いのです」
--古いゆえに名前も古風な名をつけられることが一般的である。
ツバキは淡々とザクロに説明をする。
ザクロの問いに答えたツバキは今度はザクロに質問をした。
「ザクロ様のお名前も私と似ているようですが、竜族は古風な名が一般的なのですか?」
「他の竜は知らないが黒竜はそんな感じだ。
最も、自分の名前が古いものだとは知らなかったが…」
自分達が外との関わりをしていない間に外は名前すらも変化している。
ザクロは改めて自分が無知であることを思い知らされた。
メイド達の自己紹介が終わった後、ザクロは再び髪の手入れをされた。
「出来ました!」
元気よくそう言ったマリエルは嬉しそうな顔をしながら、ザクロに鏡を向けた。
髪型は昨日と同じく三つ編みで先の方を桃色のリボンで結ばれていた。
「どうですか?」
ザクロの感想が気になったマリエルはザクロに顔を近付けて言った。
ザクロは急に顔を近づかれて一瞬驚いたが、冷静に髪を観察して答える。
「この布は余計な気もするが、この髪型は邪魔にならなくて悪くない」
マリエルは期待をしていた答えと違ったことに残念そうな顔をした。
耳と尻尾も垂れ下がっているのを見ると、かなりガッカリしているのが分かる。
それを見たハンナがすかさずフォローにはいる。
「その、私は可愛いと思います!
ピンクのリボンもお似合いですよ!」
ハンナのフォローによりマリエルは再び嬉しそうな顔をした。
メイとツバキもザクロを見て頷いた。
「次はお洋服ですね」
メイはそう言ってタンスを開いてザクロが着る服を捜し始めた。
「もう少し機動性のいい服をくれ。
この服はどうも慣れない」
ザクロは着ているワンピースの裾を掴んではためかせた。
「大丈夫ですよ。
きっと気に入ります」
そう言ってメイが取り出した服を見てザクロは思わず目を丸くさせた。
「この服は…!」
***
シエルは自室で大量の書類と向き合っていた。
真剣な顔でただひたすら紙に筆を走らせている。
仕事をしていると、ガチャ、と部屋の扉が開く音がした。
シエルはため息をついて筆を持つ手を止めたが、顔は上げなかった。
「ノックぐらいしたらどうだ?
一応、俺は王族だぞ」
シエルには姿を見ずとも誰が入って来たか分かっていたのだった。
「別にいいじゃないか。
俺と君の仲だろう?」
部屋に入ってきたのはクォーツだった。
クォーツは注意をされても全く気にする様子もなく、扉を閉めて部屋の中へ入った。
そして、迷うことなく部屋にあるソファに座った。
まるで自分の部屋のように寛いでいる。
「随分と書類があるけど、シエルが書類を貯めるなんて珍しいね」
シエルはいつも真面目に仕事に取り組んでいた。
その日に来た書類は遅くても次の日には終わらせている。
書類を貯めるなんてことは今までにしなかった。クォーツはシエルの部屋によく訪れていた為、その事を知っていた。
だからシエルが大量の書類を残しておいているのが珍しかった。
「これは俺のじゃない」
シエルは筆を走らせながら言い、言葉を続ける。
「アルベルトのだ」
「アルベルト殿下か。成る程」
シエルの答えにクォーツは納得した。
アルベルト=フォン=レダ=アルフォーツ
レダ王国第三王子でレダ王国国王の第一の側室の子。
母親に甘やかされて育ったせいか、ワガママで自分の思い通りにならないとすぐに癇癪を起こし、自分より身分の低い者を見下している。
しかも、自分では業務をしようとはしないくせに国王の座を狙っているのだから、どうしようもない奴だ。
これがクォーツにとってのアルベルトの印象だった。
「アルベルト殿下の書類を君が仕上げる必要はないんじゃないかい?」
「この書類がないと俺のが片付かないから仕方なくやっているんだ」
深いため息をついたシエルは書き終わった書類を右につまさっている書類の束の一番上に置き、左にある書類の束の一番上から一枚、書類を自分の前に置いた。
「少しは休んだら?」
シエルがあまりにも仕事に集中しているので、クォーツは心配して休憩するように言ったが、シエルは首を横に振った。
「今日中に終わらせなければならない」
「明日から何かあるのかい?」
「明後日、北の国境に行くことになったから、明日はその準備をしたくてな…」
レダ王国の北にある国境。
そこにはヴェルズ帝国とレダ王国を隔てる城壁がある。
そして、現在は王国と帝国が互いに睨み合っている戦場でもある。
しかし、帝国は本格的に攻めることはせず、弓矢や投石などの攻撃をするくらいしかしてこない。
帝国が何を考えているのか分からない。
攻撃をせずにただ威嚇しているだけだなんて…。
「ただの兵の交代と補給に行くだけだから2、3日で戻ってくる予定だがな」
「なら、ちょうど良かったな」
クォーツの言葉にシエルは書類の上で走らせている筆をピタリと止め、顔を上げた。
「“ちょうどいい”とはどういう意味だ?」
シエルの問いかけにクォーツは口元を釣り上げて答えた。
「ザクロを俺に貸して欲しい。
黒竜を研究したいんだ」
「何…?」
クォーツの言葉にシエルは驚いた。
そして同時に怒りも感じた。
「ザクロはいい研究材料だ。だから君が城を空けている間、俺に貸して欲しい」
気がつけばシエルは勢いよく立ち上がり、クォーツの襟元を両手で掴んでいた。
そして、クォーツに対して怒りをあらわにした。
「お前、自分が何を言っているのか分かっているのか?」
静かな声だが、怒りを含む声だった。
シエルが怒っていることは明らかである筈なのに、クォーツは気にすることなく、いつもと同じだった。
「よく分かっているよ。
彼女を研究すれば、“四竜”をもっと理解できるだけではなく、“魔術”だってもっと完璧に近づける」
そう笑顔で言ったクォーツにシエルは恐怖を感じた。
気付けばモブ予定だったメイドさん達に名前がついてた…。
そして、なんかクォーツが悪い奴に…。
ここまで読んでいただきありがとうございます。