黒竜、レダ王国国王と対面する
投稿が遅くなってすみません。
黒竜ちゃんが国王と対面します。
シエルに連れられ、ザクロは王がいるという謁見の間の扉の前に立っていた。
当然、扉には見張りの兵士が扉の左右に一人ずつ立っている。
シエルは扉の前に立っている兵士に近づき話しかける。
「陛下に汚れた姿でもいいか聞いてきてくれないか?」
兵士は少し待つようにシエルに言うと、扉の奥へと入って行った。
しばらくすると、先ほどの兵士が戻って来てシエルに“汚れた姿でも問題ない”ということを伝えた。
兵士は二人が中に入れるようにゆっくりと扉を開いた。
シエルは扉が完全に開いたのを確認すると中に足を進めた。
ザクロもシエルに続いて中に入って行く。
中に入ると謁見の間の奥には玉座があり、右の玉座には王様が座っていて左には王妃が座っていた。
謁見の間の左右の壁際には武装した兵士が国王たちを護るように立っている。
「陛下、お呼びでしょうか?」
「疲れているのに呼び寄せてすまなかったな」
「いえ…」
ザクロは目線だけを国王の方に向けて国王を観察した。
「(この男がレダ王国国王、リベリオン=フォン=レダ=アルフォーツ)」
見た目は40歳くらいか?人間の常識はよく分からないが、国王にしては若い方なにかもしれない。
ザクロがリベリオン国王を観察していると国王はザクロの方に顔を向けた。
ザクロは国王に見られていることに少し緊張した。
「この少女が黒竜か?」
「はい」
リベリオン国王はザクロを隅々まで見た。
しかし、黒竜らしいところがなに一つ確認されず首をかしげる。
「見たところ、普通の少女のようだが?本当にこの者が黒竜か?」
「お前がなんと言おうが、私は黒竜だ」
見られていることに不快を感じたのか、ザクロはリベリオン国王に対して悪態をついた。
その悪態に怒りを感じた王妃は立ち上がり、ザクロに対し怒鳴った。
「王に対し無礼ではありませんかっ!!」
「落ち着くのだ。余は気にしておらぬ」
国王に言われ、落ち着きを取り戻した王妃は深呼吸をして再び玉座に座った。
それでもザクロに対する怒りは消えておらず、睨みつけている。
王妃に睨みつけられてもザクロは気にする様子は全くなかった。
「王妃が失礼した」
リベリオン国王は王妃に代わり、ザクロに謝罪をした。
謝罪を受けてもザクロは興味がないため、無視をする。
そんなザクロの態度に王妃は再び怒りを感じたが、怒りを面に出さずにこらえていた。
ザクロの態度にシエルはため息をつき、呆れていた。
「申し訳ありません。ザクロはいつもこんな感じなので…」
「気にしておらぬ。それよりもその者が本当に黒竜であるのか証拠を見せてもらえぬか?」
シエルが目でザクロに訴えかける。
“国王に証拠を見せろ”
と訴えているようだ。
ザクロは顎に手をあて考える。
証拠を見せるに一番手っ取り早い方法がある。
しかし、この場所の一部を破壊してしまうかもしれない。
「(まあ、いいか。私が困るわけではないし)」
意を決したザクロは目を閉じて精神を集中させる。
内なる魔力が全身に広がるのを感じると、ザクロの体が光り出した。
その光は次第に大きく広がる。
やがて光が消えるとそこには人の姿をしたザクロはなく、大きな黒竜がいる。
黒竜になるにあたり、謁見の間の壁や柱を少し破壊してしまったが、目の前にいる黒竜に皆、目を奪われている為に今は気にする人はいなかった。
『これで信じてもらえたか?』
ザクロの声だった。しかしその声は耳から聞こえてはこなかった。
「今の声は何だ?」
『竜の姿になるとどうも言葉を話せなくなるので精神に直接、語りかけている』
ただでさえ、黒竜に驚くというのに“精神に直接語りかける”ということに更に驚く一行。
『国王、証拠は見せた。これでいいんだろう?』
ザクロはリベリオン国王に話しかけるがリベリオン国王は反応を示さない。
『国王?』
再度、呼びかけるが反応はなし。
驚きすぎて気絶でもしたのかと思ったときだった。
「おぉぉおおおおおっ!!」
突然、立ち上がり雄叫びをあげた。
そして全力でザクロの方へ走り出し、飛びつくように抱きついたのだ。
リベリエン国王の突然の行動にザクロは驚きと同時に若干ひき、その様子を見ていたシエルや兵士たちは呆れていた。
「黒竜!黒竜が私の目の前にいるぅ!まさか黒竜に会える日がくるとは!そうだ!手形!手形を取らせてくれっ!私の一生に一度のお願いだからぁ!」
リベリオン国王は頬を黒竜ザクロの皮膚にスリスリさせながら早口で色々と喋っている。
竜の姿でいる間、リベリオン国王は抱き付いたままなのかもしれないと思ったザクロは人の姿になりたくなった。
『証拠は見せたし、人の姿になってもいいか?』
「人の姿に…?」
シエルはザクロが人の姿に戻ったときのことを考えた。
国王は今、竜の姿になったザクロに抱きついている。
そのままザクロが人に戻ったとしよう。
ザクロの人の姿は成人前の少女の姿。
となると、少女に抱き付いて頬をスリスリしている国王の図が完成してしまう。
「ちょ、ちょっと待て!今、陛下を引き離すから!」
そんな国王を見たくないシエルは人の姿になろうとするザクロを慌てて止め、抵抗するリベリオン国王を少し乱暴に引き離した。
ザクロはリベリオン国王が自分から離れるのを確認すると再び光り出し竜から人の姿に戻った。
「すごい!竜が人になった!黒竜はやはりすごい!」
人になっても国王の状態に変化はなかった。
今にもザクロに飛びつこうとしている。
そんな国王をシエルや兵士たちも必死に抑えつけていた。
***
「取り乱してしまい申し訳ない」
しばらくしてようやく落ち着きを取り戻した国王は咳払いをしながらザクロに謝罪した。
シエルや兵士たちはどこか疲れきっているように見えた。
「余は竜が大好きで、竜を目の前にするとついはしゃいしまうのだ」
「竜が好き?恐ろしくはないのか?」
国王の言葉に驚きと疑問、両方のことがザクロの頭に浮かんだ。
竜は力の弱い竜であってもその力は強大だ。
口から放つブレスはあらゆる物を燃やし、爪や牙は切り裂く。
嫌われることはあっても好かれることはない。
事実、ザクロが帝国に捕まっていた時、帝国兵はザクロを恐れていた。
国王は先ほど、竜の姿のザクロを見たときと同じ笑顔を浮かべて答えた。
「余が竜を恐れることはない!
なぜなら竜が大好きだからだ!」
その答えにザクロは呆れた顔をしながら「あ、そう…」と右手で頭を抱えながら呟いた。
しかし、リベリオン国王は「それに…」と付け足して話を続けた。
話を続ける国王にザクロは呆れ顔を戻し、耳を傾ける。
「相手をよく知りもせず、竜というだけで嫌うのは好かぬ。話せば優しい竜もなかにはいる。
…まあ、竜の言葉は何一つ理解できぬが…」
「言葉が理解できないのならば、優しいかどうかなんて分からないだろうに…」
ザクロは呆れたように言い放った。
ザクロの言葉にリベリオン国王は困ったように笑って言う。
「そなたの言うことは尤もであるが、言葉は通じずとも分かるのだよ」
ザクロには、リベリオン国王の言っていることが分からなかった。
話もせず、ましてや心を読むでもなく、それで相手を理解できるものなのか。
ザクロがそんなことを考えていると、兵士の一人が国王に近づいて
「そろそろお時間です」
と耳打ちをした。
「もうそんな時間か」
国王は改めてザクロとシエルを見た。
「疲れているところ、呼び出してすまぬな。余はこれより仕事があるゆえ、部屋に戻らねばならない」
リベリオン国王は申し訳なさそうに詫びをいれながら言った。
国王に対し、シエルは首を横に振った。
「いえ、陛下の呼び出しを断るわけにはまいりませんので…」
そう言ったシエルは「失礼します」
と頭を下げながら言うと、謁見の間を後にした。
ザクロは一瞬だけ国王の方を見ると、頭も下げずに退出するシエルの後をついて行った。
二人が謁見の間を出たのを確認すると、後半殆ど言葉を発しなかった王妃は口元を扇で隠しながら怪しく微笑する。
「(あの娘が本当に黒竜だとはね…。
あの娘を利用すれば、私のかわいいアルベルトを王位につかせることも不可能ではないわね)」
怪しく微笑する王妃にはその場にいる誰も気づくことはなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。