序章:黒竜の生き残り
勢いで書きました。
つたない文章ですが、見ていただけるだけで感謝感激です。
その場にいるレダ王国の人間たちは信じられないものを見て驚いていた。
そして同時に恐怖を感じている。
なぜ、ここにいる?
なぜ、生きている?
―—―なぜ、ここに黒竜がいるのか?
***
今から20年前、黒竜族と一部の過激な魔族達との戦いがあった。
両種族の争いは激しく、その戦いは半年近く続いた。
結果、黒竜族と戦いに参加した魔族の両方が全滅という形でその争いは終結を迎えたのだった。
この戦いは後に【竜魔戦争】と呼ばれるようになった。
***
【竜魔戦争】により絶滅した黒竜…。
その黒竜がレダ王国第二王子【シエル=フォン=レダ=アルフォーツ】の目の前にいた。
レダ王国と敵対する【ヴェルズ帝国】の駒として。
「シエル、黒竜の存在に兵たちの志気が下がっている。
黒竜をなんとかしないと敗北は目に見えているぞ。」
黒竜を目の前に呆然としていたシエルに声をかけたのは、レダ王国宮廷魔導士である【クォーツ=フォルト】だった。
クォーツの言葉にハッとしたシエルは冷静に現在の状況を確認した。
現在、彼らがいる場所はレダ王国とヴェルズ帝国を繋ぐ山【ヴェッツ山脈】。
この場所で両国は争っていた。
互いの兵数は千にも満たない、それほど大きくはない抗争。
しかし、ここを守らねばレダ王国はヴェルズ帝国の侵入を許してしまうことになる。
この争い、レダ王国側を指揮しているのは【シエル】。
ヴェルズ帝国側を指揮しているのは、ヴェルズ帝国国王の側室の子である【アルト=ウィル=ヴェルズ】であった。
何度か戦争経験のあるシエルに対し、アルトは今回の戦いが初めてである故に戦況はレダ王国側が帝国側を圧倒していた。
―――黒竜が現れるまでは…。
「なんとかしろと言われても、竜を相手にしたことなんてないしな…」
「なら逃げるか?」
普通ならばクォーツが言った通り逃げるのが得策だった。
しかし、シエルには逃げることは許されていない。
ここで逃げてしまえば帝国の侵入を許してしまう。
それに―――
「戦いもせずに逃げ帰ったら国王様に何を言われるか分かったものではないからな。」
シエルがそう呟いて覚悟を決めると、腰に掛けている剣を抜き黒竜に向けて刃先を突き付けた。
「兵達よ臆するな!我々が退けば王国に暮らす民達に害が及ぶ!
立ち上がれ!
まだ負けてはいない!
我等は誇り高きレダ王国の兵士だ!」
シエルが声高々にレダの兵達を勇気づけると先程まで絶望していた兵達は武器を強く握りしめ、一人また一人と立ち上がった。
「そうだ!俺達らまだ負けてない!」
「殿下がまだ諦めてないのに俺達が諦めてたまるか!」
そう互いに励まし合いながら立ち上がっていったのだ。
兵達の志気が上がったところでシエルは指示を出していく。
「まだ力ある魔導師は整列!
それ以外の者は黒竜にかまわず帝国兵と戦え!
怪我している者は下がるのだ!」
シエルの指示に従い、各自行動に移る。
魔導師隊が整列すると次の指示をした。
「俺が合図をしたら黒竜に向かって一斉にありったけの魔術を放て!」
「ん?」
シエルが兵達に指示を仰いでいる横でクォーツはとあることに気づき、疑問に思った。
---先程から黒竜が《・》動い《・》て《・》い《・》な《・》い《・》。
攻撃するなら兵達の志気が下がっている時に攻撃すればすぐに終わる筈なのに、なぜそうしなかったのか?
「(あの黒竜には戦いの意志がない?
にも関わらず戦場に現れた?
もしかして…)」
クォーツは疑問に答えを導き出すと気を集中させ、黒竜から魔力の流れを感じ取った。
「そういうことか…」
クォーツがある事に気付いたのと同時にシエルと魔導師隊の準備も整っていた。
「攻撃かい―――」
「ちょっと待った」
シエルが攻撃の合図をしようとした瞬間、その合図を遮る為にクォーツはシエルの一つに束ねた長い髪を背後から引っ張った。
急に頭から痛みを感じたシエルは多少、顔を歪ませながらクォーツを睨む。
「いきなり何をするんだ」
「一つ提案があるんだが、聞いてくれるか?」
「提案、だと?」
***
「おい!黒竜の奴、何で攻撃しないんだ!」
ヴェルズ帝国側の後方では指揮官であるアルトがいつまでも攻撃しない黒竜にイライラしていた。
「せっかく兄上からお借りしたというのに…。
おい、なんとかしろ!」
アルトは隣にいる黒いローブを着た術師に怒りを撒き散らしながらなんとかするように命令する。
「申し訳ございません。黒竜が私の術から抗っているようです。」
術師は顔が隠れているが、声からして若い男性のようだ。
「ならもっと術の力を強めろ!そうすればあの竜を操ることも容易いだろう」
「しかし、そんなことをすれば黒竜の身に危険が及びます。」
「黒竜の身など知るか!この俺に恥をかかせる気か!?」
アルトのその言葉にイラついたのか術師はアルトの胸ぐらを乱暴に掴んだ。
「あまり調子に乗らないでいただきたい。
私はあなたの兄の配下であってあなたの配下ではない」
アルトは急に態度の変わった術師に怯え、言い返すことが出来ずにいた。
怯えていふアルトをよそに術師は言葉を続ける。
「第一、黒竜はあなたの兄上様からお借りしたものだろう。貴様のもののように扱うのはやめていただきたい」
完全に怯えているアルトはただ術師の言葉に頷くしかなかった。
アルトが頷いたので満足したのか術師はまた乱暴にアルトを解放した。
「とはいえ、流石にこのままという訳にもいきませんね。
仕方ないですが、もう少し術を強めますか」
術師が黒竜に向けて右手をかざすと、黒いオーラが術師の右手から黒竜に放たれる。
黒いオーラがかかり、「グオオォ…」と唸り声を上げて苦しみ出す黒竜。
術がかかったことを確認し、術師は口元に孤を描き黒竜に命令する。
「黒竜よ、レダ王国の者共に攻撃せよ!」
術師の命令に抗いながらもいう事を聞かない自身の体。
黒竜は為すすべもなくゆっくりと足を進めた、その時だった。
『束縛術』
レダ王国のクォーツを含めた魔術師達が一斉に束縛をする魔術を黒竜に向けて放った。
黒竜の足元から無数の鎖が出現し、黒竜を縛る。
これでは黒竜は身動きをとることができない。
アルトは黒竜が動けないことがわかると慌て始める。
「お、おい!黒竜が動けないぞ!どうするんだ!」
慌てるアルトをよそに術師は冷静だった。
「問題ないでしょう。奴らが黒竜を束縛出来るのは僅かだけ。すぐに束縛から逃れられます」
「だけど、その間に黒竜がやられたりしたら…!?」
「それも問題ありません。奴ら如きに黒竜を倒せるわけがありません」
術師は「それに…」と続け、戦場を見渡した。
戦場ではレダ王国とヴェルズ帝国の兵士達が戦っている。
誰も動けない黒竜を気にする暇はないようだ。
「レダ王国に黒竜を攻撃できる兵士は残っていないでしょう。」
「お前を倒せる奴ならここにいるぞ」
術師の耳に聞きなれない声が聞こえたと同時に刃が彼に襲いかかってきた。
咄嗟に反応した術師はギリギリで刃を避ける。
「何者ですか?」
術師に刃を振りかざしたのは、シエルだった。
シエルの姿を認識した術師はローブの奥から術師を睨みつける。
「あなたはレダ王国第二王子のシエル様、ですか。
まさか貴方が直々に来ていただけるとは…」
「お前があの黒竜に術をかけていた術師だな」
シエルのその言葉を聞き、術師は「ほぅ…」と感心した。
「まさか、私の術に気付く者がいたとは驚きました。
王国には優秀な魔術師がいるようですね」
「王国の宮廷魔導士だからな。それなりに魔術に長けている」
シエルは剣先を向けたまま軽く術師と対話をした。
二人とも対話をしながらも警戒を解くことはなかった。
二人の攻防を一番傍で見ていたのはアルトだった。
アルトは突然、姿を現し攻撃してきたシエルに驚き、怯え、そして同時にチャンスだと思った。
自分の記憶が正しければ今、目の前にいるこの男はレダ王国第二王子であり、この戦の総大将だ。
ここでシエルを仕留めればこの戦いは帝国の勝ちだ。
そして、父である帝王や自分を見下していた兄弟たちを見返せるチャンスだ、と。
意を決したアルトは自身の腰に下げている剣を抜くとシエルに襲い掛かる。
「レダ王国の犬め!!死ねぇ!!」
しかし、アルトの剣はシエルに届くことはなかった。
シエルの剣がアルトの剣をはじいたのだ。
アルトに休む暇を与えるわけもなく、シエルはアルトの右目を切り付けた。
「うぁあああああああぁぁぁああ!」
あまりの痛みにアルトは錯乱し、叫び声を上げる。
その叫び声は戦場にいる帝国兵にも当然聞こえていた。
帝国の総大将であるアルトの様子に帝国兵達は困惑し、士気も下がる。
総大将ならば兵士達に不安を与えることをしてはならないのに、更にアルトは無様に逃げ出したのだ。
アルトが逃げ出したことにより、帝国兵達もバラバラに逃げ出し始めた。
一部始終を見ていた帝国の術師は舌打ちをし、アルトに対し呆れもし同時に怒りも覚えた。
「総大将は逃げたぞ。お前も逃げたらどうだ?」
「……いいえ、黒竜がいればまだ勝機はありますからね。最後まで抗いますよ」
術師は黒竜にかけている術を強めようと右手をかざし、魔力を送った。
その時、術師の右手の中指にはめてある指輪が光に反射し、きらりと光る。
その光を見逃さなかったシエルはその指輪に向けて剣を振りかざした。
剣で切られた指輪は綺麗に砕け散る。
指輪が壊された瞬間、黒竜をまとっていた黒いオーラは解き放たれ、黒竜は地面に倒れこんだ。
「確か呪術というのは相手を呪う時、自身に降りかかる代償を別の物に移し替えているんだったな」
呪術は呪いを相手にかけることで、相手を意のままに操ったり、病を発症させたりすることができる。
しかし、その代償に自身に様々なマイナスな効果が降り注ぐのだ。
マイナスな効果は体中に身動きが取れないほどの激痛が走ったり、五感を失ったりなど様々である。
そのマイナス効果を回避するために、代償を別の物に移し替えるのだ。
移し替える物はアクセサリーや人形など、なんでもいいが呪術を発動している間はずっと身につけねばならないため、指輪やネックレス、イヤリングなどが主である。
術師が黒竜にかけている呪術の代償の移し替え場所は、シエルが砕いた指輪だった。
指輪が砕けたことにより、自身に代償が来る前に呪術を解いた術師。
「なるほど…。シエル様は私を倒すのではなく、この指輪を探していたのですか…」
「王国の宮廷魔導士の提案でな。”黒竜にかけられている術を解きたい”らしい。なんとかうまくいったようで良かったよ」
総大将は逃亡。
同時に兵士達も混乱し、逃亡。
切り札である黒竜も使えなくなった。
ヴェルズ帝国の完全敗北であった。
「お前には大人しく捕虜になってもらう」
王国兵に囲まれた術師。
逃げ場はないにも関わらず、口元は弧を描いたままだった。
その様子にシエルはどこか不気味さを感じながらも剣先を術師に向ける。
「いいえ、国に帰りますよ。上司に叱られるのは嫌ですけどね」
術師がそう言って右手を高々に掲げた瞬間、眩い光が周囲を照らした。
その場にいたレダ王国の者たちは突然のまぶしさに目をつぶった。
光が弱まり、目を開くと目の前にいたはずのローブを着た術師の姿はなかった。
周囲を見回したが、やはり術師はどこにもいない。
「あの一瞬でどうやって逃げたんだ?何か魔術でも使ったのか?」
術師があの一瞬でどうやって逃げたのか、魔術についてあまり詳しくなくシエルには何一つ分からなかった。
捕虜を捕まえることはできなかったが、ヴェッツ山脈を帝国から守ることはできたので一先ず良しとしよう。
シエルはそう思った。
「そういえば…」と呟いたシエルは黒竜の方へ向かって走り出した。
「クォーツ、黒竜の様子はどうだ?」
黒竜に束縛の術をかけていた魔術師たちの筆頭であるクォーツに黒竜の様子を聞いた。
しかし、クォーツからの返事はなく、さらに先ほどまであった大きな黒い身体を持っていた黒竜の姿はどこにもない。
「おい、黒竜はどうした?」
「いや、その…」
再び黒竜について尋ねれば、今度は歯切れの悪い返答が返ってきた。
クォーツに近づけば、彼は何かを抱えている。
クォーツの体に隠れていてよく見えない。
「お前、何を抱えて―――っ!?」
見える位置に移動してクォーツが抱えているものをみた瞬間、シエルは言葉を失った。
彼が抱えているもの、それは―――
白い透き通るような肌、美しく黒い長い髪、そして可愛らしく整った顔立ちのシエルより少し年下の少女だった。
少女はボロボロの衣服を身にまとい、よく見れば衣服に隠れていない肌は傷だらけで気絶している。
見たこともない少女がなぜ、この戦場に?
それに黒竜の姿がどこにもない。
シエルにはわからないことだらけだった。
そして、自分よりも詳しいことを知っているであろうクォーツに質問攻めをしたのだった。
「彼女は一体?なんで傷だらけなんだ?それに黒竜はどこに?」
「少しは落ち着け。俺もわからないことだらけなんだ」
錯乱しているシエルに対し、クォーツは冷静に対応している。
落ち着くように諭すと、シエルは深呼吸をし心の乱れを落ち着かせた。
シエルが落ち着いたことを確認すると、クォーツはゆっくりと口を開き、シエルの質問に答える。
「黒竜は目の前にいる」
「はあ?」
「だから、この少女が黒竜なんだ」
ここまで見ていただいた方、とても感謝感激です。
一応、主人公はたぶん黒竜様なのですが…出番がほとんどないどころかまともに喋ってもいない!
次からはちゃんと出番も増やしてしっかりと台詞もあるはず。
内容はちょっとまだまとまっていませんが…。