ここが私の楽園
冷めきった自分の朝ごはんを急いで食べ、沢口守は学校へ行く準備を始める。まずは洗面所へいって、歯を磨き、顔を洗う。そして、髪をある程度とかす。
(本当、女って感じしないな。)
守は鏡にうつる自分を見て、朝から憂鬱な気分になった。もともと自分を女の子と思えたことなどないのに、改めて考えてみるといつも落ち込んでしまうのだ。
肩にかかるか微妙な長さの茶色い髪に、小さいわけではないけどやる気の無さそうな瞳。そして、お世辞にも大きいとは言いがたい身長。特に守が気に入らないのは、この身長である。
(.......まぁ、成長期はこれからのはずだし、大丈夫大丈夫。)
守はしばらく鏡にうつる自分を睨んでいたが、今は時間がないことを思いだし、急いで洗面所を後にする。
忘れものがないかを確認して、守は玄関へ向かった。が、彼女のなかではたぶん3位くらいにはランクインするであろうものを忘れていたことを思いだし、急いで階段を登った。
(ヤバかったー。これがないと色々困るとこだった。)
心のなかで忘れたことに気づいた自分を褒め、改めて忘れものがないことを確認すると、ようやく守は家を出た。そして、たった今忘れそうだったもの、ヘッドホンを耳にあて、学校へ向かう道へと足を踏み入れた。
人通りは少ないが、広くて緑がたくさんある道を歩き、守は今日も静かだなぁとのんびり考えていた。
__このヘッドホンにはなんの音楽も流れていない。だが、守にはこれをつけないといけない理由があった。それは___
「あはは。うけるぅ、それ。」
「でしょ?それからねぇ...」
(はぁー)
守は心の中で盛大なため息をつき、道の隅により、うつむいて歩く。息をできるだけ殺して、気づかれないように...と祈りながら。
しかし、そんな守の祈りも天には届かなかった。
「やっぱりそーだよねー。....ぁ。」
「ん?......ぁ」
朝から楽しそうにおしゃべりをしていた少女たちは、後ろのほうに歩いていた守に気づき、小さく、しかし確かに驚きの声をあげ、弾かれたように前を向いた。
(?)
しばらくすると、守の歩く道にはたくさんの人達が歩いていた。学校まであと少しだ。
「春輝お前、昨日あの番組見た?」
「見た見た。結構面白かったよなー。」
「春輝」その名前を聞いて、守の顔はまるで顔だけ熱風にさらされたように熱くなった。しかし、すぐにそれはおさまった。
(だめだ.....)
守は前を歩いていたその集団を追い越し、独り、学校へ向かう道を急いだ。そんな守の後ろ姿に気づき、熱い眼差しを彼女に向けている春輝にも気づかず...。
階段を三階までのぼり、右に曲がった道の突き当たりには、美術室がある。その部屋の奥、一つの扉を開くとそこは......。
【ここが私の楽園】