表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/26

8

「さて……そろそろ行こうかなぁ……」


朝日と共に起きた俺は美味しそうな匂いに誘われ、従業員に案内されるままテーブルに着き、朝食をとった。

ジャガイモのスープと肉サンドイッチ……こんなに腹を満たした事が出来たのはいつ以来だろう……宿代は高かったが、朝夜食事付きは有難かった。


「ご馳走様でした」

「いってらっしゃませ」


食事を済まし、宿屋を後にする……

朝日が出たというのに街は鳥の声が聞こえるくらいで静まり返っている。


ギルドに行き、今日も野草の依頼を受ける。

ギルドは静まり返っていて、掃除をしていた受付の人以外は居なかった。

「ジャイロさん……おはようございます、今日はよく眠れましたか?」

「はい……街はすごく静かですね」

「そうですか?毎朝こんなものですよ……依頼ですね?」

「はい、今日も野草を採取します」


ユーゴと人並みに生活するにはまだまだ稼がなくてはならない……今日も朝から働いてタップリと稼ぐぞ!

意気込んだ俺はギルドを後にし、昨日の麻袋屋に行く事にした。


朝なので他の店と同様にまだ居ないのではないかと心配したが、少女はゴザを敷いている所だった。


「おはよう」

「あっ……おはようございます……昨日はありがとうございました」

「今日も麻袋が欲しいんだけど、いくつあるかな?」

「まだ20枚しか持ってきてなくて……ごめんなさい」

少女は卑屈な態度で頭を下げる。

今日は時間がある……昨日の感じでは20枚では足りないだろう

「在庫を持ってくればもっとあるって事?」

「家にはまだ120枚程……」

「そんなに!?」

「はい、商人の方に勧められて麻を大量に仕入れたのですが、中々売れなくて……」

「そうか……」

彼女も商人に騙された口か……

彼女に共感してしまった、金を貯めなければならないのに……俺は行動せずにはいられなかった。


「よし、じゃあ直接家に取りに行くよ……お代はまとめて8sで良いかな?」

「8s……そうですか、そんなにくれるなら……」

助けたい一心で破格の額を提示した俺はまだ、少女の暗くなっていく瞳の意味を知らない。


少女はゴザを畳み、スラム街を案内する。

ある道を歩いているとボロを着た男達三人が道を塞いだ。


「ヒヒヒ……おい、シーラ!随分早いじゃないか?今日も……」

人相の悪い男達は少女に話しかけた後でこちらを確認し、ナイフを構えた。


「くっ……」

俺が槍を組んで構えると男達は少し身じろぎして両手を上にあげた。


「なんでこんな所に……冒険者だぞ?」

「俺はや、やらねーよ……」

「ボンボンがぁ!いくら装備したって!やってやらぁ!」

二人は両手を上げてナイフを捨てたが、一人の男は突進してくる。


「おい!危ない!」

このままでは構えていては矛先が男に刺さってしまう!

刃先を向けて一直線に突進してくる男を避けようと槍を横に向けた。

『Master それはダメです』


ユーゴの腕が箱から伸びて俺の腕を内側から掴むと槍で強烈に刺突した。


槍は肩に刺さり、骨を割り……男の勢いを押し返し、素早く2撃目で心臓を狙う。

「やめろぉ!」


俺は必死にユーゴは止め、男はボロ雑巾のように壁に激突し、肩を押さえてへたり込んだ。

「ぐぅ!……うぅ」

「おい、だ……大丈夫か?」

心配する俺を男は睨み付けた。


「くそ野郎!痛てぇ!」

「この傷は……これはひでぇ!やっぱり手を出して良い相手じゃなかった……」

男の肩は抉れて血が次々と湧いてくる。


「てめぇ!ぶっ殺す!!シーラ!こっちを見てくれ!」

「おい!やめとけって……なぁ冒険者さん……こいつには言い聞かす!シーラはあんたの女だ!もう関わらない!だから!ここは見逃してくれ!」

「ふざけ…おい、やめろお前ら!…シー…ん〜!……」

「良い加減にしろぉ!お前……お前1人の為に死にたかねーんだよ!」

「そうだ!お前のせいだ!さっさと死ねや!」


「おい!やめろぉ!」

止める俺を他所に負傷した男は二人がかりで口を押さえられて腹をえぐられた。


「な、なぁあんた?これで問題はないだろう?」

男達は仲間の血にまみれて引きつった顔でニタリと笑う。


なんてことだ……何でそんなに簡単に人を……


「こっちよ……」

半ば放心する俺の手を少女は引き、家に案内した。

家に入ると母親と弟らしき人物がこちらを見る。


「ネェちゃん!早いね!何袋出す?」

シーラは弟の頭を撫で…抱きしめると母親に目配せをした。


「すみません冒険者さん……先にお代を……」

「あ……あぁ」

俺は8sを震えるシーラの手に渡した。


「母さん…お代をこれで美味しいものでも……」

「こんなに……すまない……すまないねぇシーラ……」

母親は泣きながら弟を連れて出て行った。


「冒険者さん……せめてお名前を聞かせて下さい」

「ん?ジャイロだけど?」

「そうですか……ジャイロ……母は身体が弱いのです……だから私だけで……」

「やめろ!」

俺は服に手をかけるシーラの腕を掴んだ。


「痛い……」

「なんだそれは?……そんな事!やめてくれ!」

「8s……そんな大金……麻袋だけの価値では……ないのでしょう?」


俺はシーラの覚悟を理解した……8sという価格の重みを知っていたはずなのに……昨日余りにも簡単に手に入った為、俺はそんな事も忘れてしまっていた。

彼女にきちんと説明するべきだったんだ……そうか?いや……


「良いんだ……そういうつもりじゃなかったんだ……ごめん、助けたかっただけなんだ……袋だけで良いんだ!」

「う……やめてください……とても……とても嬉しい……でも、もうやめてください!!貴方が一生、私を愛してくれますか?幸せにしてくれますか?……もし、幸せになる夢を持ったら……描いてしまったら……もうここでは……スラムでは生きて……」

シーラは言葉につまり無言で泣いていた……


「これが袋の全てです!」

シーラに袋の束を渡され、俺は家から追い出された……俺はまた昨日と同じ草原で野草を刈りながら考えていた。


貧乏に苦しむ彼女の心に漬け込み、俺は覚悟の無い優しさを押し売りした……袋の枚数だけの報酬を彼女に渡す……そうするべきだった……それだけで十分だったんだ……


彼女の覚悟に見合うだけの覚悟をしていなかった俺はなんて無責任な事をしたんだ。


「ギャギャギャ!」

昨日の事を忘れてしまったのか……ゴブリン達は今日もユーゴに蹴散らされていた。


それを尻目に草を刈る俺の目の前にゴブリンが一体現れた。

『Master 今行きます』


……このままで良いのか?……疑問を持ち、俺は目の前のゴブリンを眺めた。


「いや、待ってくれ!こいつは俺がやる!」

そう……野草を採って報酬をもらう事には……ゴブリンを殺す覚悟も必要だったんだ……その嫌な作業を全てユーゴに押し付けるべきじゃ無い!


『Yes. My Master 他のゴブリンはお任せ下さい』


「うぉ〜!こいや!」

俺は槍を構えて、棍棒を持つゴブリンを睨み付けた。

ユーゴのストック

岩………7立方

粘土……9立方

くず鉄…微量


所持金9000b

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ