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猿や虫の鳴き声が大合唱する中で俺は横になって寝ていた。
『Master!』
近くで座っていたゴーレムが大声を出したので俺は飛び起きたが、辺りはまだ真っ暗である。
「んあ?……」
『物音がします……確認出来ただけで5体……』
眠気眼で耳に手を当てて周囲の音に集中すると確かに小枝を踏む音が時折、聞こえている……
きっとゴブリンだ!囲まれてしまったのか!?
いつ……襲って来るんだ!
段々眠気が吹っ飛び、恐怖が押し寄せてきた。
「あ……あし……が!」
立ち上がろうとしたが、脚に力が入らず立ち方を忘れてしまったようだ。
せっかく生きる希望が見つかったのに、こんな不幸な事はあるか!
子供の頃、面識のあった村娘が森でゴブリンに食い荒らされてボロボロになった姿を思い出し、恐怖はさらに加速する。
突然、暗闇の中で風を切る音が聞こえ、即座に伸ばしたゴーレムの手に矢が無数に刺さった。
「うわぁ……」
間髪入れずにゴブリンが二体俺に目掛けて突進してきたが、ゴーレムの一振りで肉片と共に叩き戻された。
「ゴァッ!ゴァッ!ゴァッ!」
「ヒッヒッヒッ」
無数のゴブリン達が俺達を威嚇している。
「うわわわわわ……逃げよう!」
『Yes、My Master』
急に立とうとした俺はよろけて地面に手をついたがゴーレムが掬い上げる。
次々と現れたゴブリン達は棍棒でゴーレムの足を叩き崩していく。
一発、二発と腕を振り、ゴブリン達をまとめて叩き潰すが、それでもゴブリン達は無数に押し寄せ処理が追いつかない。
ゴーレムの足は破壊と再生を繰り返ししている。
「ゴァッ!」
「うわぁ!助けて!」
木の上からゴーレムの膝に飛びつき、一体のゴブリンが俺の足を掴もうとする……俺は悲鳴を上げながらゴブリンの手を蹴りまくっているとゴーレムの体から木製の杭が飛び出てゴブリンの頭は串刺しになった。
『ストックは粘土が8立方メートル…木、石が微量です……足の損傷が甚大でこのまま再生し続けてもおよそ5分後にはこの身長を維持できなくなりゴブリンの勝利となるでしょう……Master……この箱を持って走ってください……計算ではそれで逃亡が可能です』
「なんだって!お前が居なきゃ!俺はボロ雑巾に殺されてしまう!」
俺の目の前のに箱が捻り出された。
無数のゴブリンがゴーレムに飛び付き串刺しにされた。
「ああ……」
『Master……私を信じてください……』
そうだ……危険でも信じてやらなくては……一緒に生きるってのはそういう事だ!
「わかった!」
ゴーレムの表皮から箱をむしり取った瞬間、ゴーレムはその体を崩し土の波を作ってゴブリン達の上に降りかかった。
『Master』
「うわぁぁぁ!」
まだ無数にゴブリンが居たが、俺は大声を出しながらゴーレムの亡骸の上を走った。
草むらに居て土からは難を逃れたゴブリンもその地響きに俺が横切るも驚き動けないでいた。
土の下敷きになったゴブリン達が次々と這い出て来て、他のゴブリンと共に追いかけてくる。
「うわぁぁ!追い付かれる!」
ゴブリンの鼻息はすぐそばで聞こえている。
『ゴブリンの包囲は抜けました……信じてくれてありがとうMaster……大丈夫……』
箱が肉を帯びて行き俺を肩に乗せ、2mの巨体で走り出した。
「はぁはぁ……」
背後を見るとゴブリン達がみるみるうちに遠くなり、車道に出る頃には見えなくなっていた。
「良かったぁ……」
あたりは薄明るくなっていた。
俺が安心して前を向くと道には馬車が止まり、松明を持った人達が数人降りてこちらの様子を伺っている。
『如何致しましょう……Master』
5bと馬の世話等をすると言えばもしかしたら、乗せてくれるかもしれない。
何よりももう森には入りたくはない……
「近付こう!」
『Yes. My Master』
俺達はその人達に近づく事にした。