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道は一本道だ……糸は二度、三度と俺達を狙うが、俺の槍で容易に切ることができた。
シェルビは俺の切った糸を拾いながら何か作業しながらの為、ダングと俺より少し遅れて走っている。
俺達は走りながら会話した。
「どうや?」
「うん!いい感じ!ジャイロくんのおかげで解溶液が作れそうだよ!」
「相手は一体何なんだ?」
「おそらくパラサスパイダーやな……」
「ウォォォォオォ!ヤメロォォォ!」
すぐそこの広間からワッツの悲鳴が聞こえてくる。
「まてや!一旦落ち着こう!」
飛び込もうとする俺をダングは腕で静止した。
「ダング!そんなこと言ってるとワッツが!」
「クソォォォ!」
悲痛な声が絶えず聞こえている、一刻も早く助けてあげなくては!
「まてや!ここで何も考えずに飛び込んだら死ぬで!全員や!酷いようやけど、悲鳴を上げてるうちは安心や!」
ダングは深呼吸をして話し始めた。
「シェルビどうや?」
「出来たよ!」
ダングはシェルビから瓶を受け取り、地面に手を当てる。
「〈アイテムスキャン〉……よし、上々や……」
「くそぉぉ……ダング…シェルビ…うぅぅ……」
ワッツの声が弱々しくなっている。
「何やってんだ!ダング!いい加減にしろ!」
「落ち着けやジャイロはん!ワイかてはよ助けたい気持ちは同じや!けど作戦は必要や!ジャイロはん!」
「ジャイロくん!」
俺はシェルビとダングの静止を払い、広前突入した。
広間の天井から無数の糸の団子がぶら下がっている……糸の隙間からはうっすらと人影が見えている。
地面に居る蜘蛛はこちらを確認しながらワッツの全身を糸でグルグル巻いている。
「ヤメロォォォ!」
俺は槍で蜘蛛に切り掛かったが、俺が動くと即座に蜘蛛はワッツを連れて天井に張り付きお尻から針を出した。
「グォォ!ゴォォォ!」
静かになっていたワッツは針を刺されてクネクネと暴れた。
「おりてこい!クソ野郎!〈シュトロームランス〉!」
俺はありったけの魔力で地面に張られた糸を踏んで電流を流した。
「キシャァァァ!」
蜘蛛は電流に驚き、ワッツから針を抜くと地面に背中から落ち、即座に立ち上がった。
ワッツも天井から落ちたが、糸の一本が天井に繋がれ他の団子同様にぶら下がる。
蜘蛛は即座に尻を上げて糸を出したが、この間合いなら動きがハッキリ見える!
糸を三本切って立ち塞がった。
蜘蛛は糸を切られて身動ぎし、俺はしばらく間合いを図って睨み合っていた。
「こうなったらワイらも戦うで!シェルビは援護や!」
「うん!」
蜘蛛は俺に向かってジャンプし、鋭い前足で突き刺そうとする。
俺はそれを避けて槍を繰り出した、蜘蛛は周囲の糸を足に絡ませて俺の槍を受けた。
この糸に深く突き刺すと絡め取られてしまう!
俺は糸を切り裂く槍を引き、距離を取ったが蜘蛛は追撃してくる。
俺は蜘蛛の四本の足と斬りあったが、糸でコーティングされている為、蜘蛛の足にダメージはない。
シュトロームを打つか?いや、悪戯にやったらジリ貧になる……
蜘蛛は再び糸を吐き、それを切り裂く……しまった!
切れた糸が地面の糸と繋がり、俺の足場の糸をそっくり蜘蛛は引っ張った。
「くそ!……うっ!」
スライドされた足場にバランスを崩されて尻餅をつく。
蜘蛛は糸で俺を即座に包んだ。
蜘蛛は槍を糸の外に出して足でホールドしながら器用に巻いていく。
「〈パワーシューター〉!」
突然蜘蛛の尻に矢が刺さった。
ダングはいつの間にかクロスボウを持ち、蜘蛛の後方に回り込んで団子の上に乗っていた。
「どうや!……おっと!」
蜘蛛の糸を避けてダングは次の団子に飛び移る……シェルビからもらった液体を手に浸し、団子の中から剣を取り出した。
「まだまだあるで?化け物!〈フックソード〉!」
ダングの投げた剣が大きく弧を描いて蜘蛛の頭に衝突した。
「ジャイロくん!」
シェルビは液体をばら撒いて俺に掛けた。
すると…俺に巻いてあった糸は溶け、槍が自由になる。
蜘蛛は突然俺が抜け出したので確認する為にこちらへ向いた。
「ギャアアアア!」
俺が自由になった槍で蜘蛛の目をつくと怯んで後退する。
「ワイは伊達に商人の息子やない!どんな武器でも扱って見せるわ!〈スローイングアックス〉!」
ダングは冒険者の亡骸から次々と武器を取り出して蜘蛛にダメージを与えていく。
尻を再び傷つけられた蜘蛛は怒り狂い、地団駄踏んで暴れている。
「今迄獲物にされた冒険者の恨みを思い知れや!」
「ありがとう!」
「ポーションよ!」
シェルビに液体をかけられた箇所が熱い……なんだこれは!……
「地の利はワイが上やで!!うっ!」
蜘蛛は糸を出しまくり、ついにダングの足を捉える。
「ダング!」
「シェルビがなんとかする!ジャイロはん!とにかく攻撃や!」
「ウォォォォオォ!〈鴉突き〉!」
俺は熱く高ぶる身体を抑えられず雄叫びをあげて蜘蛛の背中を切り裂いた。
蜘蛛は暴れたが、背中にはダングの投げた武器が刺さっている……それに捕まり、更にショートソードを背中に深く刺して堪えた。
蜘蛛の背中を刺しまくったが、身じろぐばかりで弱る気配はない。
シェルビはその隙に液体を投げてダングを自由にする。
「あかん!そない長くは持たん!一発で潰れるものが必要や!〈アイテムスキャン〉!これや!ジャイロはん!蜘蛛の動きを止めてくれぇ!」
「ウォォォォ!了解!〈シュトロームランス〉!〈鴉突き〉!」
俺は蜘蛛に電流を流し、背中でジャンプした。
「クタバレェェェェェ!」
残った電流を全て槍に宿して真上から蜘蛛に投擲した。
急激に怠い……身体が……動かない。
俺は受け身も取れず地面に落ちた。
「ギャアアアア!」
槍は硬直した蜘蛛を貫通して地面に刺さった。
天井ではダングが巨大な棍棒を持って待機していた。
「流石や!よっしゃ!〈イグナァラァンス クラブ〉!」
「パンッ!」
ダングの一撃は一発で蜘蛛の頭部を叩き潰した。
俺はシェルビに応急処置を受け、ダングはワッツを降ろして糸を解く。
「あ……あぁ助かったのか……?」
「そうや!危なかったんやで?とにかく傷を見せぇ」
「うっ!」
「ちょい痛むけど、勘弁な……やっぱり卵植えられてるな……シェルビ!こっちに静羽化薬の投与を頼むわ」
「任せて!」
シェルビは液体を取り出してワッツに投与する。
「ぐぐぐぐ!」
ワッツは液体を傷口に掛けられて苦しんでいる。
「はい!これで最低でも3日は持つわ!」
「そうか!そりゃ良かったわ!ココのお宝を撮って帰ろうや!」
「そうだな……みんな……本当にありがとう……もう死ぬかと思った…本当にありがとう……この恩は!うぉ!危ない!」
ワッツは咄嗟にシェルビを壁際に押し出した。
「なんや!」
「きゃ!」
突然、頭部の無い蜘蛛が立ち上がり、メチャクチャに暴れた。
その衝撃で床に張ってあった糸が切れ、大穴が開き、蜘蛛の亡骸が落ちていく。
大穴にのヘリの部分にいた俺は近くにいたダングの手を掴んで落ちるのを阻止した。
ダングの手にもまた糸が握られ、それに繋がるワッツの落下を阻止している。
「なんやこれ……空洞になってたんかいな!」
「くそ!こんな事で終わるのかよ!」
「ジャイロくん!離さないで!」
「う……うぉぉ!」
必死にダングの手を掴んだが、全身の脱力が止まらない……滑りそうだ!……くそ!はなさねぇぇ!
シェルビは俺の腰を掴んで引っ張り上げようとするが、彼女に男三人を引き上げる力は無い……徐々に俺たちは穴に引き摺られていく。
「くそぉぉ!俺は金持ちになるんだ!」
「ジャイロはん……もうええわ……」
「何言ってんだよ!」
「こんままでは……みんな落ちてまうわ……シェルビを街に送り届けてな?」
「ジャイロくん!お願い!」
ダングがブンと腕を振り払い、握力の弱った俺の手から滑り落ちていく。
「じゃあの!」
「くそぉぉ!こんな所でぇぇぇ……」
ワッツとダングは穴の中に落ちていった。
「ジャイロ!なぜ離したの!?何故!……ダング!どうしてよ!私が店を持ちたいって言ったの時の約束!忘れたの?私は貴方と!あぁぁぁぁ!」
シェルビに俺の胸を強く叩かれた。
また大切な人がこぼれ落ちるのか……くそ!もう嫌だ……
「本当はわかってる!ジャイロのせいじゃない!でも!あぁ!」
シェルビは泣き続け、埃まみれの顔に二筋の跡を残した。
「シェルビ、一人でも身を守れるかい?俺が連れてくるから!」
「それは出来るけど……どうやって?」
「これで降りる!」
俺は手と足にそこらの糸を巻きつけて救出の準備をした。
「今は止める気にはなれないわ……頼っちゃうけど……本当にいいの?」
「任せろ!でも……上がり方が問題だ……」
「それなら任せて!蜘蛛から糸を作ったらすぐに穴に垂らすから!……あとこれも持って行って!貴方とダング達の分……体力回復と傷の手当に……ダングも扱い方はよく知ってるから彼等の分はダングに任せて……」
「わかった!じゃあ行ってくるね!」
俺は回復ポーションを一本飲み干し、穴の突起に足を掛ける。
心配そうなシェルビを他所に穴を降りていった。
懐かしい……昔、村の避暑地に遊びに来た金持ちが持ってた粘着手袋……あれが欲しくてカエルで真似したっけ……懐かしいな……
俺は慣れた手つきで穴を降りていく。
ユーゴのストック
粘土……0.2立方
木材……0.5立方
鉄……0.1立方
肉……0.1立方
所持金32G2032s8000b
ジャイロのスキル
鴉突き
ダブルピアース
チャージ
シュトロームランス




